4-15.竜の護る国、領主と竜の約束(後)
食事まで時間があるので庭を散歩。
「トルテラが別の世界から来たのって、本当だったんだ」とエスティアが言う。
またさっきの話だ。
「だから、何も知らなくて当然だったんだな」とリナが言った。
アイスが「なんだそれ」と食いつく。
リナが「トルテラを森で拾ったとき、魔法があることさえ知らなかったんだ」と言った。
「俺の居た世界には、魔法なんて無かったからな」
「魔法って、暗視とか?」 アイスが聞く。
リナが「そう、全部知らなかった」と答えると、
「スゲー、その年で魔法覚えたのか、スゲー」と言った。
そうだ。俺はリナに魔法を教えてもらった。
「今、魔法強いし、やっぱ男すげーな」とアイスはいつも通りだ。
「何も知らなくてな。治療で魔法使いすぎて死にそうになった」と言ってリナが泣いた。
え? そこ、泣くとこか? と思ったが、確かに、もうお別れの時が迫ってるのかもしれない。
俺は、迷宮に、竜に会いに行かなくてはならないようだし。
とりあえず、「大丈夫、ちゃんと治ったし、あの時病院行ったからアイスにも会えたんだろ」と言うと、「ああ、あのとき病院行ったのってそれだったのか!」とアイスが言った。
気を使って話を変えてくれたのか、エスティアが
「テーラ、先代領主さまの話、どこまで知ってたの?」と言った。
テーラは少し考えてから「転移する竜以外はだいたい」と答えた。
そして、
「ついこないだお母さんに説明してもらったから」と付け足した。
確かに、よく考えてみると、転移する竜以外はだいたい聞いてたか。
でも、迷宮の竜が、今も待ってるとかは今日初めて聞いた。
俺は「大鎧の書に”迷宮の竜が導く”が追加されたから、迷宮には行かなきゃならなそうだ」と言い、
「竜が導く迷宮ってテンゲス迷宮だと思うんだが」と確認すると、テーラは頷いた。
テーラは、あそこに竜が居ることを知っていて、俺をあの迷宮に行かせたんだと思う。
俺は、竜には一人で会うつもりで居た。
テーラは一緒に行って竜を見たいかもしれないが、
俺が竜に会えば、テーラの家の近くに竜が出るかもしれない。
口には出してないのに、気付かれたのか、アイスが言う。
「俺はトルテラと一緒に行くよ。強いしでかいし、髭もあるし、
それに、トルテラは俺のパンツ姿大好きだからな」
すると、当然のように「トルテラは私のパンツ姿の方が好き」とテーラが言う。
たぶん、一緒に行くと言う意味なのだろう。
「私も行くよ。一生面倒見るって約束したからな」とリナが
するとエスティアが
「トルテラは私が引き取ったんです。それに、私の踊り好きだから」と言うと、
「無理やり踊ってパンツ見せて倒れさせたんだろ」と皆に突っ込まれていた。「ぐぬぬ」。
いつも、このパターンだなと思った。
俺が”竜”とか”竜の遣い”とか言われても、怖がらずについてきてくれるのは嬉しいのだが、危険なことに巻き込んでしまいそうで、それが怖い。
俺はやはり、一人で竜に会うべきだろう。
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しばらく待つと、呼ばれたので部屋に行くと、宴会会場のように料理が盛ってあった。
ここはコース料理じゃないのか。……まあ、この方が、俺たち向きではあるがと思った。
「すげー、こんなにたくさん料理あるのはじめて見たよ、すげー」とアイスは大喜びだ。
確かに、俺もこっち来てから、まともな料理がこんなにたくさん並んでるのは始めてみた。
エスティアとリナモリモリ食べてる。テーラは、もそもそって感じだが。
ここの女達は、ダイエットとか気にしない。
俺は、迷宮行をもの凄く心配していたのだが、女達が喜んで食事してるのを見ていたら、なんかどうでも良くなってきた。
アイスなんか顔がニコニコマークみたいになってる。
味付けが単調で、日本に住んでた当時の俺から見たら、たぶん、見た目が立派なだけで、味はたいしたことないと思いそうだが、今の俺はご馳走に飢えているのだ。
圧倒的に油が不足しているのだ。
エスティア達に、美味しいもの食べさせてあげられただけでも、十分ここにきた価値あったかと思ってしまった。
でも、この料理、俺たちが出せるような金額のモノでは無いと思うのだ。
だからこそ、食ったからには行かねばならないのだろう。
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食事の途中で抜けて、先代領主さまに再度話を聞いた。
どうしても聞かなければならないことが、あったのだ。
メイドさんの一人に声をかけると、すぐ少し偉い人に取り次いでくれた。
ずいぶんあっさり会ってもらえた。
食事と、再び会ってくれたことの礼を述べ、さっそく質問した。
「迷宮の竜が今も待っていると言いましたが、
待っているのは俺で間違いないのでしょうか?」
先代は、俺が何を聞くかわかっていたかのように答える。
「私は竜の遣い、つまり迷宮の扉を開ける者を、迷宮に行かせなければ、なりません」
俺を指名ではなく、条件を満たすからか?
そんなことを考えていると、先代領主が語り始めた。
「転移する竜が、一番大きな竜を探しに行きました。
それは、私が竜の遣いと約束する15年ほど前のことだったようです。
あと5年、10年すれば、別の世界から扉を開く者がやってくる。そう言っていました。
ところが、10年経っても20年経っても、別の世界から誰かがやってきたという話は聞きません。
そして、扉を開ける存在もいませんでした。
もう現れることは無いかもしれないと思いつつも、約束通り遣いを探し続けました。
そして遂に扉を開ける者が現れました。
5年か10年と聞いていたのに、45年もかかりました。竜と人とは時の流れが違うのですね」
「おかげで、私にまで順番が回ってきました」と姫が言った。
5年10年のつもりの約束が、代々受け継がれる長さになってしまったのか。
そのかわり、約束が守られる限り、竜が守ってくれるってことなのか?
「俺は、気付いたらトート森に来ていて、それ以前のことは」と言うと、
「扉を開く者がこうして現れてくれただけで満足です」と言われた。
執事っぽい人が横で泣いてた。
きっと、この人も、長い期間かけて俺を探していたのだろう。
まだ何か、言うことがあるらしい。
「普通の竜は、神殿跡地から、神殿跡地に移動するものです」
ああ、あれは、竜が移動するためのものなのか。
「転移する竜は、神殿跡地など無くても、
その気のなればいつどこにでも現れ、いつでもどこにでも去っていきます」
なぜ、いきなり転移する竜の話?
「この世界のことを知らなかったということは、あなたは別の世界から来たのです。
来る方法も帰る方法も知らないなら、連れてこられたのです。転移する竜によって。
この世界で何かをするために。
今のところ、転移で去った竜が、戻ってきたことはありません。
そして、かわりにあなたのような者がやってくると聞きました」
なるほど。
俺をここに連れてきたのが、転移する竜ってやつなのか。
「別の世界からきた者が、竜の遣いなら、はじめからそう言っておいてくれれば良かったのに」
と姫が言う。
「私たちは、約束を果たすために、努力しなければならないのですよ」と先代が窘めると、
姫は「私は子供の頃から何度も何度も……」
確かに、生まれた時からずっと、”遣いを探せ”と言われてたんだろうからな……と、ちょっと同情した。
でも、竜とか姫とかフラグ的にヤバすぎる。
俺は逃走したい気持ちでいっぱいになった。
食事の会場に戻ると、「ずいぶん長かったな、食いすぎで腹こわしたのか?」とアイスに言われた。
トイレじゃねーよ。と思ったが、そう思っててもらった方が平和だなと思った。
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食事をしているトルテラ達を隠れて見ている者が居た。迷宮の女だ。
「あの者を、再度迷宮に派遣して欲しい。
でも、おかしいのう。勇者の装備が無いではないか。
あれでは役に立たんかもしらぬ。時期も合っておらん。失敗したのかの?
妾の青春はどうなるのじゃ」
また残念な登場人物が増えてしまうのだった。




