31-6.神様の秘密を暴くのはやめてください(18) おっさんの恥ずかしい秘密 投げられ自慢
第六の竜を探し、ダルガンイストまでが試行錯誤していた。
城壁のサークルの周囲は厳重に固められ、何をしているかはわからないものの、ダルガンイストは、自力で竜を呼び出すことに成功した様子は無い。
ダルガンイストも、竜を自由に呼び出すことは出来ないのだ。
竜が現れれば、ある程度離れていても、気配でわかる。だが、新たな竜が現れた様子は無い。
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各国の調査団は、いくつもの調査対象を追っていたが、そのうちの1つに、第六の竜探しがあった。
現在、複数の竜が存在する(人間の世界に来ることがある)のであれば、さらに他にも、竜は存在するのではないかと考えられた。
現在名前の付いた竜は、数体しか存在が確認されていない。
ガスパール、グリアノス、ディアガルド、グラディオス、プルエクサ。
この5体に続く、第6の個体。
次の個体を指して第六の竜と呼ばれるようになった。
竜は、日頃人間の世界に居ない。ある特定の場所から現れる。
多くの国が知る場所として、ダルガンイストの城壁下のサークルがある。
ここからは、一番大きな竜を含めると4頭の竜が出現した。
現在となっては、周りを囲む石が無いので、これがストーンサークルの跡であることは見てもわからないが、現在でも”城壁下のサークル”と呼ばれており、ストーンサークルだったことは知られていた。
可能であれば、ここを調べたい。
だが、そのストーンサークルは、ダルガンイストの支配下にあり、厳重に監視されており、他の国は手出しができない。
そこで、他のストーンサークルをあたる。
が、ここで問題が発生した。過去に存在したストーンサークルが消え、そこには”悪魔の足跡”があった。
デルデ側のいくつかの国で協力してストーンサークルの調査をしたが、大きなものは残っていなかった。
これによって、ある仮説が立てられる。
ちゅうかまんは、元々、ストーンサークルを破壊して回っている。
ちゅうかまんの目的は、ストーンサークルの破壊。
城壁下でちゅうかまんを迎撃した竜は、何らかの理由があって、ちゅうかまんを撃退したかった、或いは、あの城壁下のストーンサークルを守っただけ。
ここに来てようやく、なぜ、あのストーンサークルにちゅうかまんが来ると予測できたのかを知った。おそらく、攻撃を受ける順番、法則が存在し、次に狙われるのが、ダルガンイスト直下のサークルだという予測ができたのだろう。
破壊を免れたストーンサークルが他に存在しないか捜索が進められる。
ストーンサークルは、新しく生まれることもある。
過去にも、知らぬ間にできていたということはあったので、それは実在する現象として知られていた。
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そして、ストーンサークル捜索と並行して”竜の遣い”という竜と連絡をとることができる人物探しも行われる。
こちらも、ほとんど手掛かり無し。
イグニスと呼ばれる人物を追うと、どうやら、昔から存在することがわかる。
トート森の先代領主が若かった頃から、あの姿だったという話が有った。
通常の人間とは異なる性質を持った存在である可能性が高い。
そして、森は”ディアガルド”と言う竜が守っており、その竜は”ちゅうかまん”迎撃戦の前後には、城壁下のサークルにも何度か来ていたので、視察に来ていた者たちは実際に見ている。
一方のイグニスも、多くの者が実際に目にしていた。
VIP室に、ちゅうかまん迎撃成功を告げに来たのがその人物だった。
その場に居た者は目にしていた。
そして、もう一人がトルテラ本人。竜と話ができるという。
竜の方にも個体差がある可能性がある。
”ディアガルド”は、元々人間と会話が可能と言われていた。
これは元々、ディアガルドがほぼ目撃されなかった時代にも、話ができる竜として伝わっていた。
”プルエクサ”も会話が可能で、”プルエクサ”の声を聴いた兵士も存在している。
ただし、竜は、トルテラの妻としか話をしないとも言われており、その中には”ラハイテス”も含まれていた。
傍から見れば、ラハイテスは妻の一人に見えた。
全く無関係だったランデルが、いきなりトルテラ配下となり、ラハイテスと軍勢がトルテラに従っているのだから、当然そのように見える。
そうなると、ラハイテスと当たるのはリスクが高い。
ランデル程度の小国なら、直接攻め込まずとも滅ぼす手段はある。
ラハイテスは、実際に竜を呼びだしたことがあるという話もあった。
ディアガルド(グリアノス)が工事をするとき、トルテラは後から来たという証言が複数あったのだ。
あの工事は、ラハイテスが勝手にやり始めたという話は、他からも聞こえて来た。
ダルガンイストは事後承諾に近かった。
そして、ディアガルドはラハイテスが呼んだ可能性がある。
※このとき呼ばれた竜はグリアノスですが、あの工事をした
竜はディアガルドと言う名で伝わっています。
”ラハイテス”が竜を呼んだことがある、竜と話したことがある。
この噂が後々、ランデルの運命に影響を与えていくことになる。
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竜と話のできる者を探すと、何人か現れたが、試そうにも竜が呼べないため、真偽は不明のままだった。
調査結果としては、話ができると答えた者は、”何人か見つかったが真偽不明、確認法能無し”というものだった。
そんな中、情報収集にあたっている人々に”ダルガンイストに大きな動き有り”の報が入る。
トルテラと呼ばれる老人の(自称)妻たちが、トート森まで行くという。
目的は、老人の捜索。老人を連れ戻しに行く。
どうやら、老人は本当に行方不明で、妻たちが捜索しに行く。
或いは、ダルガンイストから移動するだけなのかもしれない。
だが、元々、その老人はよく行方不明になるという噂はあった。
老人の捜索に妻たちを含む集団が出発する。この話はあちこちから漏れてきた。
協力関係にある他国の情報も同じで、かなり大規模な捜索隊を準備しているという。
そして、第三国の調査団も随伴を禁止しない。
となれば、同行しない手は無い。
トルテラの(自称)妻6人が向かうという。
もしかしたら、ダルガンイストから遠く離れた場所に追放するという意味かもしれない。
結局、それは陽動で、無意味に終わる可能性もある。
だが、トート森には世界最大のストーンサークルがある。
それも視察する必要がある。便乗しない手は無い。
ストーンサークル探しや、竜の使いの捜索の人数を減らして、こちらに人を回す。
そして、情報集めに出遅れた国の調査団も、これに便乗した。
出発に間に合わないも者も、後から追いつき合流したため、時間と共に人が増える結果となった。
”トリドールを追え”。これが各国、調査団のスローガンになっていた。
”トリドール”その言葉は、元々トート森出身者を指す言葉だったが、この頃には、トリドールと言えば、トルテラの妻たちを指すようになっていた。
元々、連合外の国が連合の女たちを指して呼ぶ”ガラドーラ”から作られた造語で、”森の女たち”くらいの意味合いしか無い。
犯行グループを含む一部で使われていただけで、広範囲で使われている言葉ではなかった。
ところが、”トリドール暗殺未遂事件”で、”トリドール”という一気に言葉が広まったため、連合内では、はじめて”トリドール”という言葉を聞いた時には、トルテラの妻たちのことを指す意味で聞いた者が多かった。
その言葉は、そのまま、その意味で広まり、定着した。
”トリドールを追え”。それだけで、トルテラの妻たちを追えという意味で通った。
この言葉のインパクトもあってか、予想外の大人数が、トルテラの(自称)妻を追うこととなる。
ダルガンイストを出発したとき、200人程度まで増えていた。
トリドール、つまりトルテラの(自称)妻は6人だった。大部分は、それを見守る人々だった。
これだけ大規模に行動するということは、それだけ重大と考えていることになる。
城下町を包囲している4軍、ダルガンイスト最高司令トーレバーナ、他、多くの勢力から、トルテラの居場所を特定し混乱を鎮めたいという意思が働いているという。
つまり、”トルテラ”が、どこに居るかがわからないという現状が怖い、疲れるということだ。
妻たちが揃って向かうことから、発見の可能性は高く、発見に至らずとも大きな動きであるとして、各国から、非公式の偵察員が随行する。
意外なのは、どう見ても随行歓迎な様子だったことだ。
元々、排除する気が無い、隠す気が無いことはわかっていた。
ただし、出発までは早かった。
既にダルガンイスト近辺に来ている者しか出発に間に合わないほどのペースだった。
ところが、その予想外の準備速度の割に、進行速度は遅く。
頑張れば、徒歩で後から追いつくことも可能だった。
馬車に乗った女たちが、徒歩に合わせて動く。
そもそも護衛が徒歩だから仕方ないのだが、それ以上に遅く進む。
むしろ、これが陽動で、本体は別にいるかのように。
ところが、合流してすぐわかる。本体がこちらだった。
トルテラと言う老人が見つかるかどうかも重要だが、それ以前に宝のような情報が手に入った。
この集団には連合領内を良く知る、たまざまな人たちが混ざっていた。
毎晩酒を出すと、知っていることをけっこう話す。
この酒を目当てに、ついてくる冒険者が多いのだが、そこに、妻の一人、アイスと言う大柄な女が毎晩顔を出す。
アイスと言う女はよくわからないことを話すが、調査の足掛かりとなる情報の出どころとしては価値の高い話も多かった。
直接聞いた話だけで意味不明であっても、それをきっかけとして、それなり役立つ情報が手に入る。
この集団の中では、トルテラと呼ばれる老人の情報が効率的に手に入った。
トリドール警備の4軍は、口止めされているので、少々渋い。
4軍は自前で酒を用意していて、酒に釣られる兵が出るのを防止していた。
※もともと口の堅いものを選んで派遣していることもある
ところが、城下町と関所の間を行き来するラハイテスの軍勢は、口が軽く、いろいろな情報を漏らしてしまう。
ランデル本国や、現在のことは口止めされているが、過去に起きたことは結構話してしまう。
兵は、秘密はある程度守ろうとするが、自慢してしまうものなのだ。
酒をふるまわれると、自慢話をする。
その自慢話の中には、戦って投げ飛ばされた話が含まれる。
それは、第三者からすると、とても価値の高い情報だった。
ラハイテスの軍勢はトルテラと戦ったことがある。これは、連合外では話としては有名だった。
ただし、細かな内容を知る者は、それほど多くなかった。
伝わってくる話を聞くと、相手はトルテラ一人で、トルテラは手加減した上で、余裕で勝ち、何も要求せずに立ち去った。
多少なりとも誇張された話になっているはずで、実際はどの程度のものかと期待していたのだが、どうも雲行きがおかしい。
バラバラの兵士に、別々の聞き方をすることで、話の裏側が見えてくるのが普通である。
※この世界の場合、軍隊の規模が小さいので、自軍の兵、全員が全員の顔を知っているレベル
指揮官が居ない場面でも、兵は連携して動くので、兵1人1人が結構細かな情報まで知っている。
(自国の領土、安全、財産を守るために働いているという使命感を持つ)
ところが、細かくその時の話を聞いても、相手は完全にトルテラ一人だった。
他には誰も登場しない。
村を守る兵達は、遠くから見ているだけで、はじめから最後まで、近くに居たのはトルテラ一人だったと言う。
元々の任務は、戦闘では無い。これは、十分想像できる。
戦闘の有った場所はランデルから近く、事前に大量の物資を用意せずとも気軽に行ける範囲であった。
元々、重要人物が訪れているから、圧力をかけるために出かけた。
ラハイテスは遊撃を得意とする。
まともに戦う気は無く、嫌がらせに出ただけだった。
ランデルの基本戦術だ。
辺境国では、数に差があれば不利な方が逃げる。
力が拮抗していれば、にらめっこして飽きると引き上げる。
そんな外れの村にたいした数の兵が居るわけもなく、とりあえず、ダルガンイストとベリクハスタの交流の邪魔をしようと出ただけだった。
いよいよ村が見える頃、出てきたのは巨大な老人ただ一人。
共は一人も無し。
老人はとても大きく、その体の大きさに対しても大き目の盾を持っていた。
その老人は、自分の名を名乗ったが、所属は言わなかった。
所属を聞くと、無所属だと言った。対するランデル側は100の軍勢。
無所属の老人が1人で出てきても軍使にならない。
無所属の老人が一人が出てきて命乞いしても、聞く耳を持つ必要が無い。
ところが、ラハイテスは名乗った。
あのとき兵たちは、ラハイテスが名乗ったことに驚いた。
ラハイテスはトルテラのことを良く知らなかったはずだった。
ところが名乗り、話を聞いた。
……………………
この”話を聞いた”の部分が初耳だった。
「話?」
「それが、普通は見逃してくれと言うと思うじゃないか」
まあ、確かにそうなのだろう。その老人の力を知らないのなら。
「そうだな。なんて言ったんだ?」
「それがな、悪魔の足跡の話だった」
軍勢に囲まれた老人が、いきなり悪魔の足跡の話をした。
気を引いて、争いを避けるつもりだったのだろうか?
いろいろ疑問が生まれたが、話の続きを聞く。
「悪魔の足跡?」
「軍を退けとかじゃ無かった。
もうすぐ悪魔の足跡ができるから、ここに近付くなってな」
そこに、隣の兵が割り込む。
「あの時気付けば良かったのだ」
「トルテラ様は、戦う意思は無かったんだよ」
これは初耳だった。
戦う前に話をしていたのだ。
「なぜ戦いに?」
「わかんないよ」 兵は嫌そうに答えた。
※本当にわからなかっただけです
わからない? 疑問に思うと、別の兵が答える。
「トルテラ様は、喧嘩を買うような態度だった。
だから戦闘になると思い構えた……のに、ラハイテス様が躊躇して」
「皆、戦いにはならないと思った」
喧嘩を買うと言うのだから、ラハイテスが何かを言ったのだろう。
だが、おそらく、ラハイテスも相手がただ者では無いことに気付いて、躊躇した。
「そのあとは?」
「それが、よくわからないうちに」
「よくわからない?」
「わからなかった」
兵士たちは、このやりとりについては、よく理解できていなかった。
ラハイテスが退いたのに、トルテラは乗ってこなかった。
そして、ラハイテスが怒った。
「でも、戦いが始まると思わなかった」
「既に周りを囲んでたから、はじめから決着が付いてる。
だから、どうせ何もできないと思った」
普通に考えたら、あの状況は完全な詰みで、トルテラが勝てる見込みは皆無だった。
「槍で突いた。次の瞬間、兵が宙に飛ばされていた」
「それを見た後は死ぬ気で突いた。でも、私も次の瞬間飛ばされてた」
はじめに槍で突いたシーンは、なんとなくわかる。
おそらく殺す気は無かった。
既に勝負は付いている。皆そう思っていた。
ところが、その状態で、囲んでいた兵の一角が吹き飛ばされた。
戦闘については、別の兵からも聞いていた。
一瞬で前段の1/3ほどを投げ飛ばすようだ。
だが、始まった時点では、後段が居るので、包囲は破れない。
投げ飛ばされても、兵は戻ってくる。
投げ飛ばす速度の方が早いから、いずれ兵はまとまった抵抗ができなくなる。
それまでの間は、老人は槍を受け続けた。
老人は、何故か、兵に重傷を負わせるのを避けた。
ところが、自分が傷を負うことは、あまり気にしていなかった?
老人は去り際には、相当出血していたという。
ダルガンイストでも、血染めの姿が目撃されている。
結果としては、ランデルの兵達は、戦って全く歯が立たなかった。
ただし、なんで戦闘になったのかは、その場で見ていた者にもよくわからなかった。
トルテラが喧嘩を買うような態度をとると、なぜかラハイテスは戦闘を躊躇した。
戦闘が始まった瞬間は手加減していた兵も、次の瞬間には本気で戦った。
「俺は、前衛が崩れたところに入り込んで突いた。
普通の相手なら致命傷になったと思う。
でも、そんな普通の攻撃じゃ倒れない」
外周に居た者が、崩れた一角に進み槍で突いた。
これは確実に当たったはずだったが、何も起きなかった。
傷は与えていたはずだ。だが、そんな武器で倒せる相手では無かった。
「投げ飛ばされても、すぐに包囲に戻った。今思えば、トルテラ様は包囲が崩れても動かなかった」
「俺たちが、負けたと思うまで、何度も相手してくれたんだ」
「なんて、情け深いお方だろう」
そこから先が、聞いていて訳が分からない。
「俺は4回投げられた。
あのとき4回投げられたのは、あそこにいるのと俺の2人だけだ」
「私はその後4回投げられた。全部で7回だ」
「戦って4回投げられた方が凄いだろ!」
「3回投げられた時点で気付け!」
「なんだと!!」
投げられた回数自慢で喧嘩になってしまうのだ。
数多く投げられた方が上という、彼女らの価値観の存在は、広く知られるようになる。




