30-35.ルルシアを助けに来た老人、その後(28) 呪い
「私が話しましょう」
ガスパールが説明を引き取る。
神様は、”呪い”の存在に気付いていた。
だから、わざとテリシアを避けたのかもしれない……
ガスパールはそう考えた。それが神様なりの抵抗なのではないかと。
ガスパールの妻シートが、娘テリシアを使って、神様に呪いをかけた。
この世界に、神様を呼び出すために。
ところが、この神様はテリシアの2度の儀式には現れず、ルルシアの前に2度も姿を現した。
何か手違いが生じて、神様の呼び出しには成功したものの、ルルシアが妻になってしまったのだ。
神様は、そのやり方に不満を持って、テリシアでは無くルルシアの前に現れたのかもしれない。
そうは思うが、ここでシートとテリシアの名前を出したくない。
可能であれば、名前は伏せておきたい。
まず、その呪いをかけた理由が、”神様を呼び出すこと”が目的であることを話す。
「呪いの存在に気付いていましたか。
私は、ずっとあなたを待っていました」
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おっさんは、この時点で違和感を持つ。
待っていたことと、呪いは、どう関係するのか?
おっさんは”なぜか、心が動くと体が動かなくなったりする妙な現象”を呪いと呼んでいる。
そんなの、呪いだ。
俺の世界の普通の人間に、こういう特性は無い。
なのに、”呪い”で、また”待っていた”という話が出る。
俺は、石を探しに来た。呪いは石に起因するものなのだろうか?
「それが呪いと関係があるのか?」
「はい。呪いは人間の娘を使って、あなたにかけられたものです。
”竜に捧げられた娘”が死にそうになると、助けに来る。
その結果あなたは、ここに現れる」
呪い? ”竜に捧げられた娘”というのがルルシアか。
確かに、俺がルルを貰う約束をしていたとしたら、ルルが死にそうになったら助けに来そうな気もする。
もちろん、ピンチを知る機能が付いていればの話だが。
実際に、俺はルルが死にそうになったとき現れた。それを俺が知る方法が存在する可能性が高そうに思える。
……そうか、それが石か!
「その石があれば、呪いが解けるのか?」
その言葉を聞いて、ガスパールは考える。予想外だったのだ。
石を渡すと呪いが解けてしまう?
だとしたら、ルルは妻にはならない?
「呪いが解ける?」
「呪いが解けないと、妻が居ても困るだけだ」
呪いが解けないと妻が居ても困る? ルルとガスパールは疑問に思う。
「困るの? なんで?」 思わずルルが訊く。
「ルルの裸に弱いのが、その呪いのせいだとすると、妻にはできないんじゃないか?」
「はあ」 ガスパールは相槌を打ちつつ全力で意味を考える。
この神様は、呪いが解けないと裸に弱い?
……なるほど。
ここまで来てようやく気付く。
ガスパールの知っている呪いと、この神様の言っている呪いは、別の現象を指している。
原因は同じかもしれないが、現象は別物だ。
”女の裸が怖く感じる呪い”がかかっていると、この神様は思っている。
「普通の男は、肌が触れたからって倒れないよな?」
「まあ、その場では倒れませんが」
ガスパールの知っている呪いと別で、お茶を濁した返事になってしまう。
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一方で神様の方も気付いてしまう。
ガスパールが説明しようとした呪いと、自分が言っている呪いは別のもの。
まずは、自分の思う呪いの方を訊く。
「俺は、些細なことに反応して動けなくなってしまう」
「それは、恐らく、しばらくすると、慣れて触れても問題無くなるか、或いは、ルルシアが、もう少し成長すれば」
これはガスパールの思う、女性の裸恐怖症、或いは子供の裸恐怖症についての見解だが、神様には該当し無さそうだった。
この神様は、裸に限らず、精神状態で体が動かなくなってしまうことを知っていた。
裸だけの問題では無い。
その呪いの解き方を知ってるわけじゃ無いようだ。
俺は、心が動くと体にリミッターがかかる呪いを解きたいのだが。
ガスパールが反応した呪いは、どうもルルを生贄に捧げる見返りに、俺が姿を現す呪いなのだろう。
俺はそこまでしないと人前に姿を現すことができないのか。
そこで、ルルが口をはさむ。
「どういうこと、今の私じゃダメなの?」
「ルルが嫌いなんじゃないんだ。俺が倒れてしまうから困るだけで。
だから、俺は妻は持てないと思う。それに、いずれ、俺よりずっとお似合いの男が見つかるよ」
「お似合い?」
「少なくとも、歳はもっとずっと若い方が良いと思う。ルルとつりあいが取れるくらい」
「でも、元の寿命が長いんでしょ?」 ルルは詰め寄る。
「まあ、俺の世界と同じだけ(80歳くらいまで)生きるなら。
俺は五十路男だぞ。こんな小さな子を貰えるわけ無いだろ!!」
「100期(50歳)ですか。人とは違うのですね」
俺は歳だから無理だと言ったのだが。
あと、ここの人間と違うだけで、俺は人だ!
「(寿命が長い)だったら、いい」
ルルはそう言うが、神様の方は、この歳の子の将来を縛るのは犯罪だと思った。
自分で判断できる年齢になるまで、約束はできない。
「俺の感覚だと、ちょっとこういう年齢差はな……」
「ダメなの?」
「将来気が変わって、後悔すると思うから」
「私が大人だったら良かったの?」
「まあ、大人は自分のことは自分で決めることができる。子供はまだ自分のことを決められないし」
「だったら、あと10期(5年)経ったら、訊きに来て」
「でもな、俺は帰ってしまうかもしれないし」
「お父さんも良いって言ってる」
「はい」ガスパールも、あっさり答える。
ガスパールに確認する。
「本気なのか?」
「この子が、あなたの妻になりたいと。あなたは妹のテリシアのところに現れず、ルルシアのところに来ました。
妻にルルシアを選んだのでしょうか?」
「それは、わからないが、俺は、テラと会うとまずい」
どうやら、元は俺はテリシアの前に現れる。それが呪いの効果だったようだ。
「裸見ても倒れなくなったら?」
「そうなれば、まあ、妻にしても良いってことなのかもしれない。これが呪いなら」
「うん」
ルルは、次は、準備を整えてから見せてあげようと思った。
大人になって、妻を迎えに来たとき。
もう、ルルの心は決まっていた。
ガスパールは、ルルを見て確信する。この子は、神様の妻になる気でいる。
後で後悔したとしても、今は決心が固い。
何かの手違いで、テリシアは選ばれなかった。そう思っていたが、そうでは無いのかもしれない。
ルルシア自身が神様を呼んだ。ルルシアの思いが強くて結果を変えてしまったのか。
或いは、神様は命の危機を救いに来て、救われた子は、神様の妻になるのかもしれない。
ガスパールは、石を渡す条件にルルシアを妻にするというものを加える。
「この子を妻にする約束をしてくれれば、あなたのお探しの物をお渡しします」
「俺はすぐ帰るし、歳が」
「はい。帰るのですね。約束だけで構いません」
ん? 帰っても構わないってことか?
いや、俺が帰ることを、知ってたのか。
どこまで知っているのだろう?
そう考えつつも、一応念押しでルルに説得を試みる。
「ルル、ルルが大きくなったころには、俺はお爺さんだ。だから……」
ルルシアは、今も老人の姿をしているのに、おかしなことを言うなと思った。
だが、父の話の流れに乗る。約束だけ。
「約束だけ。また会うことがあったらでいいから」
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おっさんは、口では断っているものの、心はどうにもルルに惹かれていた。
実際、妻としては掠りもしない完全圏外。でも、妻と子供が欲しかった。
この世界では、孫という感じの年齢差だが、俺の世界だと、俺にこのくらいの年の娘が居てもおかしくない。
”こんな娘が居たら俺は幸せだろう”。娘の居る生活に惹かれる。
妻として見ることはできないが、娘と一緒に過ごしてみたい気はする。
いやいや、これは空手形。俺が帰れば二度と会うことは無い。
実行されることの無い約束だ。
でも、娘と暮らしてみたい気もする……
俺はたぶん、元の世界でも独りぼっちだと思う。
俺は結局帰れないのではないだろうか?
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おっさんが心の葛藤で苦しんでいるとき、ガスパールが言う。
「私はずいぶんと波乱万丈……こんな人生を送るとは思いもしませんでした。
幼い頃、竜と会いあのときから決まってたのでしょう。
寿命を延ばしてあなたを待つように。
私は竜に会うまで死ななかった」
「ガスパールの言うことは当たってて、俺は大鎧ってやつみたいだな」
俺は昨日、竜とか言われて、そんなわけないと思っていたが、
俺は竜だったかもしれない。
人間が、豆粒みたいに小さくて、俺のこと怖がって。
そんな記憶があった。
それと、俺はガスパールじゃ無かった。
”一番大きな竜”だった。そして、今は人間の姿をしている。
俺が大鎧。
「正直、ルルを妻にする約束と引き換えに石を貰うのは、あんまり気が乗らない」
ルルが凄く悲しい顔をする。
「いや、ルルが嫌いなんじゃない。もし俺がルルがもっと大きくなってから
再びこの世界に現れるなら、その時にルルが決めれば良いと思う」
「私が妻だから、戻ってくるんでしょ」
なるほど。そういうことか。
「わかった。俺がもし本当にここに再び戻ってくることがあったら、
そのときルルが妻になりたいと思うのなら妻にしよう」
「やった!」
良いのだろうか? 俺が戻ってこなくても、この子の人生に制約ができてしまう。
それに、母親にも何も言わずに。
「俺はシートには会わなくて良いのか?」
「人間ならともかく、神様相手ですから」
会わなくて良いと言う意味だろう。
シートに邪魔されて、俺が悲しくなって横浜に帰るパターンじゃ無いのか。
どっちにしろ、俺はできればテラに会わない方が良いと思う。
俺はテラを助けてはいけない。理由は知らないが、今回のきまりだ。
だから、テラには会わず、帰った方が良い。
何かあったら、助けたくなってしまう可能性がある。




