3-11.加齢臭と恋の臭い
おっさんから恋の匂いです。なんかもう、いろいろと残念な感じになって盛り上がってきましたね。しかも主人公は竜かもしれないと言うのです。竜の要素がまるでありません。本当に大丈夫なのでしょうか。心配になりますね。
恋の匂い。こっ恥ずかしくなる名前だが、そんなものが(約)50歳の俺から出るらしい。
良い匂いだと言うので、ジャコウジカの匂い、つまりムスクみたいなものではないかと思う。
50近い歳のおっさんからそんなものが出て、このおっさん恋してる……ぷぷ、何アレ恥ずかしい……とか思われちゃうのかと思うと、もう一生部屋の外に出たくない気分でいっぱいになった。
たぶん今までで一番……いや、遭難してた時が1番だったので、2番目だと思うが、絶望感を感じた。
日本に住んでた時は、色欲おやじなんてそこらにいくらでも居たけど、ここではそんなやつ俺だけだ。
しかも女には匂いで即ばれてしまうのだ。
今までも匂いのことは聞いていたが、てっきり加齢臭だと思い、体を洗いまくっていた。
診断結果自体は、結局俺は教えてもらえなかった。
恋の匂いがすると抱き着きたくなるのは、女として普通だが、俺のはだいぶ違うらしい……というのはわかった。
それと、一度くっついたら最後、離れられなくなる……というのは、言葉上の表現であって、もちろん引っ付き虫になるのとは違う。もっと大人的な意味らしい。
こっちはだいたい想像付くのだが、俺の場合は、一度くっついたら最後本当に離れない、引っ付き虫になる。
引っ付き虫にやられると俺の寿命は削れるのだろうか?そのあたりが知りたかった。
匂いが隠せるマントは予想外に高価なもので、検査と俺に合うサイズのフード付きマント作ったら、先日の金貨は無くなった。金貨が無くなるってどんな値段だよ!と思った。
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エスティア達は困惑していた。
長い打ち合わせの上で挑んだ今回の診断。実験はうまくいったのに結果は……
ひっつき虫のことを調べてもらいに来たのだが、今まで起きたことを話したうえで相談しているのに、メリーは信じなかった。
「後ろからトルテラを押してたはずが、気付いたら抱き着いて、離れないと駄目だと思っていても、自分からは離れられなくて」とテーラが言い、
「すげーんだよ、俺も途中まで肩貸してたはずだったのに、気付いたら抱き着いてて、そしたら凄く気持ちよくて、こんなすげーもん絶対離さないって思って」
「でも、そのあとしばらく気持ち良すぎて倒れたけどな」
アイスも如何に凄いかを説明していた。
メリーが信じないのも無理はない。
10年以上この仕事をやっていて、今までそんな話は聞いたことが無い。
そんなことがあり得るだろうか?
結局、実際に見てみないとわからない。
本当にそんなことがあるのであれば、詳しく調べてみましょうということになった。
ここで問題なのが、ひっつき虫になるほど匂いが出る強い刺激をトルテラに与える方法だった。
迷宮であの状況になったのは、不意打ちで対処できなかったから。
誰も居ないはずの迷宮だったから不意打ちを食らったのだ。
そもそも、暗視や遠目で裸が見えることにトルテラは慣れている。
その上、迷宮で不意打ちを食らったばかりなので、ここでテストしようとしても絶対に気付く。
ならばと考えられた不意打ちがあれだったのだ。
あれは、壁の向こうに居るのはいつも通りの連れと思わせておいて、最後に確実に裸を見せるためのものだった。
メリーは全裸でないと効果が薄いのではないかと言ったが、エスティア達は全裸では刺激が強すぎるので、避けた方が良く、パンツは履いていても不意打ちさえ成功すれば、うまく行くはずと言う。
メリーからすれば、10代の男の子ならともかく、50の老人が胸見た程度でと思ったのだろうが、エスティア達はその程度でもトルテラが死にそうになるほど悶絶すると確信していた。
※この世界の女性は、上半身裸になることはよくあるので、
日頃から女たちと生活しているおっさんが、胸を見た程度で
大騒ぎになるとはメリーさんは全く思っていませんでした。
計画では、壁の裏に誰が居るかは当てられないはずだったが、どういうわけかトルテラは壁の裏に誰が居るのかを正確に言い当てた。
この時点でメリーは違和感を持ったが、勘の良い男も居るのかもしれないと思い、この実験成功するだろうか?と、そっちの方を心配していた。
心配は杞憂に終わった。予想以上に完璧に不意打ちが決まった。
そして、たかがトップレスを見た反応は普通に考えられるものを遥かに超え、そこで出た匂いも想像をはるかに超えていた。想像してたのと桁が3つか4つくらい違うレベルだった。
事前の打ち合わせでは、アイスがひっつき虫役を買って出て、引っ付き虫現象を見るつもりだったが、実験は中止となった。
アイスが抗議したが、出た匂いがもはや災害レベルだった。
さらには既に実験する必要も無かった。
メリーは危うく自分が引っ付き虫になりそうになって、それがどういうものか理解したのだ。
これはもう完全に人間のレベルを超えていると言うことで、メリーは匙を投げた。
「そもそも彼は人間なの?」
問いに対するエスティア達の反応で、すぐに察した。
「うちは、人間しか診察できませんから」
可能な範囲で秘密にするが、とにかく、まずは隠すことを優先した方が良い。
ということで、餞別代りに貰ったのが、あのマントだった。
恋の臭いを隠すためのマントだ。ただし、普通の男向けだったので、トルテラには小さすぎた。
メリーの医院は、しばらく休業になった。地下室に匂いが残り、使えなかったためだ。
しばらくの間、メリーは悶絶しながら過ごした。
後日メリーから苦情なんだか感謝なんだか自慢なんだかよくわからない手紙がシート宛に届いたと言う。シートは、ちょっと羨ましく感じたが、娘のことを思い自重することにした。




