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加齢臭と転移する竜 (内容まとめ:おっさんが異世界に終活をしに行く話なのですが、なぜか『ほのぼの』と言われています)  作者: 黒長 二郎太
26章.横浜編6 妻の形見2

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26-21.味覚障害(1) 後悔から生まれた神様

挿絵(By みてみん)


※注意

主人公のおっさんは、味覚が無くなって、肺炎で死にますが、新型コロナネタではありません。

元からそういう話です。

塩と味覚の話を追っていくとわかると思いますが、新型コロナの症状として味覚障害が

報告される以前から、病院で味覚障害の症状が出る話を投稿しています。

なお、おっさんの死亡時期は、2021年の春頃です。


----


俺は”異世界”と、”この世界”を行き来している。

俺の精神は、オーテルの言う竜。

この体では耐えきれず、尾骨痛や動悸の症状が出る。

そして、いずれ、心臓が破裂する。


俺は、致命傷を負っても、そこから回復することができる。

唯ちゃんにも同じ現象が出るが、唯ちゃんは致命傷は、そのまま致命傷となる。

心臓が破裂したら、死んでしまう。


症状が出るのは、精神と、肉体の不一致に因るもの。

だから、病院で治すことはできない。


俺の何かが、唯ちゃんに遺伝していることが原因だ。治す方法は、理屈としては分かる。

精神と体のバランスをとれば良い。


この先も、ずっと人間として暮らしていくためには、精神の方を何とかすれば良い。

これも仕掛けの1つだ。


オーテルと、唯ちゃんの気配は非常によく似ている。

似ているのは、恐らく偶然ではない。よく似ている理由がある。


二人とも俺の娘ということもあるが、それだけじゃない。

唯ちゃんの”過剰部分”を俺が異世界に持ち帰る。そして産まれるのがオーテル。


俺は唯ちゃんを治療しないという選択はできない。

必ず治療する。


その結果、唯ちゃんの精神の一部を異世界に運ぶことになる。


いや、具体的な方法を、現時点で知っているわけでは無いのだが、恐らくそうなる。


そうすることによって、両方の世界で、娘が存在できる。

片方が居なければ、もう一方も存在しない。


俺は、記憶を無くしていて、片方しか覚えていないときでも、もう一方を諦めたりすることは無い。

唯ちゃんが、存在していないときに、オーテルが来れば、オーテルと取引して、唯ちゃんが存在する世界が作られる。

唯ちゃんが居なければ、オーテルは存在しないが、オーテルはやってくる。

結果両方が存在する。


罠だらけだ。俺が必ず罠に嵌るようになっている。


俺には、使わずに済むように思わせておいて、洋子さんには、7個の首の骨を持ってこさせる。

そして、神になると、人間の男が、子どもを作ると寿命が減るという妙な異世界に行く。

1回で終わるように思わせておいて、7個の骨を使う羽目に陥り、俺は俺に呪いをかける。

そこに、何度も行って7個の骨を集めた時、俺の願いは叶う。


おそらく、そんなところだろう。


まだ、それほどたくさんのことを思い出したわけでは無い……にも関わらず、ここまでパズルのようにピースが嵌るのは、どう考えてもおかしい。


ここまで来れば、嫌でも気付く。

はじめから、成功することが約束されているのだ。


”必ず成功する呪い”が、かかっているのだ。


無制御の自然な状態では、前の出来事が予定とズレると、それ以降の出来事も、その影響を受けてズレる。通常はズレは加速するという関係が一般的だ。

バタフライエフェクト。蝶のはばたきで発生した空気の渦が、後に遥か離れた場所で竜巻となるとして、それを予測することは不可能である。

逆に、些細なことが原因となって未来が大きく変わると言う意味で使われることが多い。


ところが、うまく組み合わせると、ズレを修復する関係と言うのも存在する。


俺は、妻の願いを聞かないと言う選択はできないし、娘が会いに来て、異世界に行くことを望めば、それを断ることもできない。


俺のそんな性質を利用した罠。


しかも、俺は行き来する際に、大事な記憶を無くすようになっている。


こっちの世界と、あっちの世界で、両方に俺にとって大事な存在が居れば、

俺は、どっちの世界でも、大事な者を守ろうと、もう一方の世界に飛ぶ。

それを首の骨の数だけ繰り返す。


最初は、双方の世界で起こる事象はバラバラに見えていても、最後は同時にピタッと完成するようになっている。

最終局面の寸前に、両方の世界の情報を思い出す。


そのとき、両方を満たす解があるなら、俺は必ずそれを選ぶ。


時間を戻せるのは、あと1回。このタイミングで、俺が、それを選択する場面がやってきた。

俺の性質を、よく理解したやつが仕組んだ。


こんな、面倒なことをやらせようとした黒幕が存在する。

俺が良く知っている奴だ。


「よくわかった。こんな、面倒で悪趣味なことを考えるやつなんて1人しか居ない」


「え? どうしたの?」


「妻に許してもらえなかったからって、妙な異世界まで使って……」


「違うわ。私は死ぬことを許さなかったわけじゃ無い。

 それを伝える時間が無かったの」


どういうことだ?


「俺、(ガン)で入院したよな?」

「ええ」

(ガン)は、ゆっくり死ぬ病気だと思うのだ。

見つかったときには手遅れってのはよくあるが、手遅れでも、いきなり早々に意識不明で死んだりしない病気だ。

むしろ、長い闘病生活を経て、最終的に死に至る、じわじわ迫ってくる嫌なやつだ。


だから、死神が来て、けっこう長い期間考える余地があった。

だから、時間が無いと言うのは、ちょっと考えにくい。


「時間が無かった? 俺は末期がんで入院したよな」

「覚えてない?」


何かあったのか。


「入院したのは覚えてるけど、あんまり記憶が無いな」


「もう一度、手」

「え?」


「元の世界を読みましょう」


石の記憶を読むつもりなようだが、生前の記憶が残っているだろうか?


ところが、手を重ねると、何かが見える。

病院のシーンが浮かんだ。


読めるのか。

俺は、骨がアイテム化したのは、遺骨になってからで、生前の情報は、こんなにはっきり読めないと思っていた。


……………………


手術で入院して退院してから、まだ、そんなに経ってない印象があった。

実際には手術から1年くらい経っていた気もするが、手術の傷が治るのを待ってる間に日が経って、ろくに自由に行動できなかったので、俺の体感的には短い期間だった。


手術自体は成功したはずだったが、(ガン)は治るどころか、転移までみつかった。

5年後の生存率がどうとかいうやつが、余命6ヶ月になった。

即入院を勧められたが、その前にやらなきゃならないことがある。


洋子さんは、俺がこの歳で死ぬことを許してくれなかった。

そのとき死神が来た。

この死神は、妙なことに、神になれば、願いを叶えることができると言った。


神様になるってのも、”俺に希望を持たせるためのもの”なのかもしれないが、俺は神様になりたいとは思っていない。


でも、洋子さんは許してくれなかった。

仕方ない。たった一つの約束を俺は守れなかった。


だから、俺は洋子さんとの結婚を諦めて、他の男に洋子さんを幸せにしてもらうことにした。


神になれば、時間を戻すことができ、多少の干渉ができると言う。

そして、死神は、歴史を変えると結果がどうなるかを教えてくれた。


時間を大きく戻して、多少行動を変えさせると、洋子さんは不妊にならないことが多かった。

つまり、不妊は、先天性のものでは無い。


だったら、子を持つ未来は作れる。


条件を絞り込むと、洋子さんの不妊は、麻疹(はしか)のせいだということがわかった。

罹ったタイミングが悪かった。

タイミングをずらすだけで、不妊にならない可能性が上がる。


その場合、俺と仲良くなったりはしないようだが。


1パターン調べるのにも時間がかかるので、多くのパターンを調べることができなかったが、時間を戻すとどうなるのかが、ある程度分かった。

小学生の頃まで戻して、洋子さんが学校を休めば、罹る時期がズレる。

その結果、不妊にならずに済む。


俺と結婚する条件は、凄く厳しく、その条件を維持すると、洋子さんの不妊化を防ぐという観点では、ほとんど何もできない。


ところが、その制限を無くしてしまえば、不妊症になることを防ぐことは比較的簡単だった。


俺は、小学生の頃まで時を戻して、洋子さんが幸せに暮らせる未来を作ることにした。


その前に準備が必要だったが、時間が無い。

”俺の神殿の場所”を、確実に教える必要が有った。


俺は死んだあと、自分から洋子さんに会いに行ったりはできない。

”俺の神殿”まで来てもらう必要がある。


だから、洋子さんと樹海に行った。


この頃既に、相当悪くなっていた。呼吸が辛い。

前から歩くと苦しかったが、今となっては、右の肺はほとんど機能していないことを、自分で体感できる。

肺活量も凄いことになっている。


ちょっとした距離歩くだけでも、相当きつかった。

だから、俺にとって、樹海はとても広い場所だった。


ここまで来たら、(ガン)で死ぬ前に、風邪こじらせただけで死ぬレベルだ。


だから、洋子さんとも別れを済ませて、いつ死んでも良いようにしている。

まあ、洋子さんは死ぬことを許してくれなかったが。


俺には死神が憑いている。俺は、もうすぐ死ぬ。

俺は、俺が死ぬこと自体は構わなかった。


ただ、洋子さんを一人残して逝くのが、心残りなのだ。


その場所は、道からそれほど遠くはなく、そんなに奥深い場所にあるわけではなかった。

大きな木が倒れているところ。

樹海は、倒木が多い森なので、倒木だけでは、あまりはっきりした目印にはならない。

俺が死んだあと、洋子さんが望めば、再び訪れることができる。

だから、道順とかは関係ない。1度、ここに来れば良い。


「ここだ。はぁ、はぁ、ここに首の骨を持ってきてくれれば、はぁ、はぁ、願いを叶えられる」


「そんなに無理してまで、来なきゃいけなかったの?」


「もう、他に、方法が、はぁ、はぁ」


酸素ボンベでも、持って来れば良かったか。

今の状態では、ここに来ること自体が大きなリスクになってしまった。


洋子さんを、安全な場所まで連れて帰るまでは、なんとか持ちこたえないと……


帰りは、さらに時間をかけて帰った。


無事、神殿の場所を教えることができた。

安心した。

そのとき、もう、俺は死ぬ準備ができたと思った。


その後、あっという間に入院になったと思う。


入院して、いきなり困ったことが。

食事が不味い。やけに味か薄い。


末期がんで入院なんて、死を待つだけで、楽しみが少ない。

少しでもマシな入院生活をと思ってたのに!!


この病院は、まだ、昭和の迷信信じてるのか?


俺は高血圧でも無いし、高血圧だからって安易に減塩したら危ない。

病気によっては制限されるが、俺はリスクも無いし、それ以前に、何喰っても、どうせもうすぐ死ぬから、塩分控えめとか、気にする意味が無い。塩分気にせずとも、高血圧で死なないのだ。


だから、俺は、通常食出してもらえるはずだったのだが。

味が薄い。


コショウを振ってみる。


コショウまで味が薄い。香辛料なのに、香りも控え目。賞味期限いつだよ?

くそっ、目の調子まで悪い。賞味期限の文字が読めない。


体調悪いと、字も読めない。


「味薄いな。間違って減塩食来てないか?」


そんなに味が薄いのかと、洋子は不思議に思う。


入院前の評判では食事も悪くないし、血液検査で、そこに異常はないので、味付けは濃いめで注文している。


一口食べてみるが、むしろ濃い目だ。コショウ振ってるので、辛い。


”味覚”が無くなった?


もしかして……


涙が出る。


----


洋子が涙を流したので、驚く。


「洋子さん?」

「ジン君……味ある」


「そうか」

味……悪いのは、俺の味覚か。


----


薬の副作用として、味覚異常が出ることは多い。

だが、ここ最近で、薬が変わったりしていない。


薬以外の理由……

肺が衰えているのに、呼吸器系の疾患を患えば、助からない。


…………


「え? 今のは?」


思い出す。


ああ、入院中の記憶が無いのは……

俺、入院早々死んだんだな。


「今時(入院していた2021年のつもりで話している)、肺炎なんて、健康だったら死亡率高い病気じゃなくなってたのにな。

 肺にダメージがある状態で肺炎罹ったら助からない」


あの状態で、樹海行ったのがまずかったか。


「入院したばかりで、まだ、何ヶ月も生きると思ってたから」


そうか。洋子さんが、俺に伝えられなかったのは、俺が急に死んだからか。


その結果、俺は神になることを選んだ……


たぶん、神殿に行ったせいだろう。

肺のダメージが大きかったのか、あのとき、何か病気を拾ってきたのか。


おそらく、あれも仕組まれたことだったのだろう。

洋子さんに、許してもらえる前に、意識不明になる必要が有った。


その結果、俺は、許してもらえなかったと思って、後悔の念から神になってしまった。


俺は、後悔から生まれた神だ。

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