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加齢臭と転移する竜 (内容まとめ:おっさんが異世界に終活をしに行く話なのですが、なぜか『ほのぼの』と言われています)  作者: 黒長 二郎太
26章.横浜編6 妻の形見2

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26-9.神となった理由(1)

挿絵(By みてみん)


夕方になって、ようやく洋子が落ち着いた。

栫井(かこい)は、ダウンしたままだったが、ひざまくらをしたら回復した。


このとき、洋子はとても優しく接していた。


何かを知った結果、優しく接するようになった。

栫井(かこい)さんが、お母さん(洋子)の為に、今までどれだけ苦労してきたかを知った結果だろうか?


栫井(かこい)と洋子は、お互い何かを補給する関係にあるのではないだろうか?

唯はそう思う。


”魔法の力”があると母(洋子)が、元気になるように、栫井(かこい)も、”優しさ”を補給すると元気になるように見える。

唯には、栫井(かこい)は、一度倒れると、優しさを補給されるまで、動けなるなるように見えた。



2人は回復はしたものの、あまりにもショッキングな記憶を思い出してしまったので、今日は終わりにすることになった。

無言のうちに、そう決まったようだった。


「じゃあ、今日は帰るよ」

「うん。ありがとう。今日は良く休んでね」


完全には回復しなかったようで、栫井(かこい)は、調子悪そうに帰って行った。


唯は、二人の中で、何か決着が付いたのかと思った。


ところが、そうでは無かった。


いきなり洋子が宣言する。


「もう決めたから。明日、本当の歴史を見る」


「え?」


突然言い出すので、驚いたが、洋子は何かを決意したようだ。

そして、さらに続ける。


「あの人、本当に神様だった。

 栫井(かこい)君が神様になったのは、私のせいだった」


確かに、石の情報は、唯にも伝わっていた。

母(洋子)が、許さなかったから、栫井(かこい)は、神になることを余儀なくされた。

はっきりとした言葉では無かったが、その想いが伝わって来た。


明日、さらに何かが起きてしまうようだ。


========


「妾のお父さんは、立派じゃったろう」 ベスが得意気に言う。


唯的には、立派を通り越して、おかしなものになっていたように思えた。


立派とかそう言うレベルではない。


あんな大きな生き物に踏まれて、栫井(かこい)

”ちょっと痛かった”とか言ってたのが唯には衝撃的だった。

踏まれたとき、唯は心臓が止まるかと思ったほどだったのに。


竜の妻も、死なないことを知っているから、気にしていなかったのだろう。

そして、竜になった場面も見えた。


ベスが竜だった頃の姿を思い出す。

「ベスは本当に竜だったのね」


確かにベスは竜だった。ただし、見た目は今とそれほど大差ない。

ベスをそのまま巨大化したような生き物だった。


そして、人間と会話していた。


ベスに聞いてみる。

「竜の時も、人間と話ができたの?」


「ときどき、妾と話せる人間がおったのじゃ」

ベスと話ができる人間はあまり居なかったのだろう。

それに念話のようなもので会話していた。音声では無かった。


そこで疑問をぶつける。

「なんで、そのときの話し方と、今の話し方が違うの?」


「あの頃は、あの姿の時は、威厳があった故。

 今はこの姿故フレンドリーに話しておるのじゃ」


栫井(かこい)さんには、フレンドリーに接しないの? 親子なのに」


「何を言うておるか! このたわけが! お父さんは最強の竜、一番大きな竜じゃ。

 おまえなどと一緒になるわけなかろう、このたわけが!

 それに、妾と話のできる人間など、滅多におらなんだ。

 その上、あの人間は、石を読むことができた」


石を読める人間は限られている?

唯も、母(洋子)も石を読める。それに、唯は声を使わない会話を聞くこともできる。


「石を読むことができるのは、特別なことなの?」

「そうじゃの。妾にはほとんど読めぬ」


オーテルは石を持っているのに、あまり読めないと言う。

唯には石が読める。この石とは、いったい何なのだろう?


「この石って何なの?」

「お父さんの首の骨じゃ」


それは唯も知っている。聞きたいのは、そう言うことでは無い。


「そうじゃなくて、何に使う物?」

「記憶の入れ物じゃ。転移する竜は、転移するとき大事なものを置いて行く。

 置いて行くだけで、完全になくなるわけでは無い。無くした物は、骨に残るのじゃ。

 そして、転移で持って行けるのは、体だけ。

 洋子が持っておるものの中で、都合が良かったのが骨だったのじゃ」


え? ”洋子が持っておるものの中で”

その石は、栫井(かこい)の首の骨だと言っていたはずなのに、なぜ母(洋子)が持っているのか、唯は不思議に思う。


「お母さん(洋子)の、首の骨なの?」

「何を言うておる。洋子は生きておった。お父さんの骨は洋子が持っておった」


栫井(かこい)さんの死後、お母さん(洋子)が持つ?

死んだ母(洋子)を生き返らせるために、時間を戻して神になったのが、栫井(かこい)なのではないのだろうか?


母(洋子)を見るが、母(洋子)は、何も言わなかった。

洋子は、否定しなかった。


暗黙の肯定。


唯には繋がりが見えた。

洋子が死んだから、時間を戻したのでは無い?


母(洋子)は、母(洋子)のせいで、栫井(かこい)が神になったと言った。

母(洋子)が死んで、時間を戻す前に神になっていたのではないか?


そう思う。


唯も、だいぶ答えに近付いていた。


========


一方、栫井(かこい)は、

ダウンしている間も、身体を動かす気力が無かっただけで、頭の中では、いろいろ考え事をしていた。


石の内容には驚いたが、いろいろ謎が解けた。


やっぱり神になった理由は、洋子さんの願いを叶えるためだった。

そうしないと、俺の望みが叶わないから。


それじゃ俺が成仏できない。


薄々気づいてはいたが、やはり、元々は、”俺が、洋子さんとの約束を守れなかった”ことが、事の発端だった。

不可抗力だった。約束は守れなかったけれど、仕方の無いことだった。

だから、渋々でも許してもらえると思っていた。


ところが、洋子さんは、最後まで許してくれなかった。

俺も、俺の願いが叶わず、とても残念に思っていた。


元は俺が悪かったとは言え、俺は、相当頑張ったと思う。

結果、ここまで来た。


無事、”唯ちゃんが生きている世界”に辿り着いた。


俺は、もう満足している。


そもそも、もう、気力が残っていない。

俺はもうだいぶ安心して、満足してしまった。

時間を戻すと、また、人生消化試合をしなければならない。


正直、俺にはもう、また長い時間を一人で過ごす精神力が残っていない。

失敗したら、また唯ちゃんが死んでしまうかもしれない。


小泉さん(洋子)か、唯ちゃんが死んだ歴史であれば、時間を戻すが、そうでなければ、もう、戻してやり直したくない。


ただ、1つ問題がある。唯ちゃんが生まれるには、7個の石が必要なはずだった。

今、俺は5個しか持っていない……

この体には、身体的には7個存在している。けれど、集めなきゃならない7個のうちの、5個しか持っていない。

自分でも、混乱する。願いの7個の骨と呼ぶことにしよう。

俺は、今、願いの7個の骨のうち5個しか持ってない。


願いの骨は、異世界に行って戻ったときには増えている。

まだ、異世界に行って戻ることができる。

俺が若かったら、夢が広がる場面かもしれない。

少年誌の主人公なら、これから何が起きるのか、ウキウキワクワクする場面かもしれない。


ところが、俺は40のおっさんだ。実際には50歳まで何度も生きたおっさんだ。

積算したら100歳なんてとうの昔に超えている。200年くらい生きたかもしれない。

夢は広がらないし、疲れた。


どんどん遠ざかっていく年金支給開始みたいに、俺のゴールはどんどんと遠くに逃げる。

でも、身体が若返っても、精神はすり減って行く、俺にはもう気力が残っていない。



でも、小泉さん(洋子)にも、知られてしまった。


小泉さん(洋子)も、思い出したはずだ。


あの涙。

一発で、バレたと思った。


俺は、小泉さんに、今までのことを知って欲しくなかった。

最後に、幸せに見送って欲しかった。


でも、バレてしまった。


何度も自殺するような羽目に陥ったのは、俺が悪いと思う。

でも、洋子さんの願いを叶えるためには仕方なかった。


俺は、誰かの願いを叶えるために神様になると、その願いを叶えるまで死ぬことができない。

願いが叶えば、そう遠くないうちに消えてしまう。存在意義がなくなるから。


俺はもう、さらに誰かの願いを叶えようとは思っていない。


小泉さんは、満足してくれるだろうか。


小泉さんが、許してくれたら、50の同窓会まで記憶を封印する。

そして、唯ちゃんの病気を治したら、妻の形見を貰って、オーテルの世界に行こうと思う。


向こうでは、オーテルが生まれる前に俺は死ぬ。


あとは、小泉さん(洋子)が、もう一度やり直すとか言い出さないように祈ろう。

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