26-9.神となった理由(1)
夕方になって、ようやく洋子が落ち着いた。
栫井は、ダウンしたままだったが、ひざまくらをしたら回復した。
このとき、洋子はとても優しく接していた。
何かを知った結果、優しく接するようになった。
栫井さんが、お母さん(洋子)の為に、今までどれだけ苦労してきたかを知った結果だろうか?
栫井と洋子は、お互い何かを補給する関係にあるのではないだろうか?
唯はそう思う。
”魔法の力”があると母(洋子)が、元気になるように、栫井も、”優しさ”を補給すると元気になるように見える。
唯には、栫井は、一度倒れると、優しさを補給されるまで、動けなるなるように見えた。
2人は回復はしたものの、あまりにもショッキングな記憶を思い出してしまったので、今日は終わりにすることになった。
無言のうちに、そう決まったようだった。
「じゃあ、今日は帰るよ」
「うん。ありがとう。今日は良く休んでね」
完全には回復しなかったようで、栫井は、調子悪そうに帰って行った。
唯は、二人の中で、何か決着が付いたのかと思った。
ところが、そうでは無かった。
いきなり洋子が宣言する。
「もう決めたから。明日、本当の歴史を見る」
「え?」
突然言い出すので、驚いたが、洋子は何かを決意したようだ。
そして、さらに続ける。
「あの人、本当に神様だった。
栫井君が神様になったのは、私のせいだった」
確かに、石の情報は、唯にも伝わっていた。
母(洋子)が、許さなかったから、栫井は、神になることを余儀なくされた。
はっきりとした言葉では無かったが、その想いが伝わって来た。
明日、さらに何かが起きてしまうようだ。
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「妾のお父さんは、立派じゃったろう」 ベスが得意気に言う。
唯的には、立派を通り越して、おかしなものになっていたように思えた。
立派とかそう言うレベルではない。
あんな大きな生き物に踏まれて、栫井が
”ちょっと痛かった”とか言ってたのが唯には衝撃的だった。
踏まれたとき、唯は心臓が止まるかと思ったほどだったのに。
竜の妻も、死なないことを知っているから、気にしていなかったのだろう。
そして、竜になった場面も見えた。
ベスが竜だった頃の姿を思い出す。
「ベスは本当に竜だったのね」
確かにベスは竜だった。ただし、見た目は今とそれほど大差ない。
ベスをそのまま巨大化したような生き物だった。
そして、人間と会話していた。
ベスに聞いてみる。
「竜の時も、人間と話ができたの?」
「ときどき、妾と話せる人間がおったのじゃ」
ベスと話ができる人間はあまり居なかったのだろう。
それに念話のようなもので会話していた。音声では無かった。
そこで疑問をぶつける。
「なんで、そのときの話し方と、今の話し方が違うの?」
「あの頃は、あの姿の時は、威厳があった故。
今はこの姿故フレンドリーに話しておるのじゃ」
「栫井さんには、フレンドリーに接しないの? 親子なのに」
「何を言うておるか! このたわけが! お父さんは最強の竜、一番大きな竜じゃ。
おまえなどと一緒になるわけなかろう、このたわけが!
それに、妾と話のできる人間など、滅多におらなんだ。
その上、あの人間は、石を読むことができた」
石を読める人間は限られている?
唯も、母(洋子)も石を読める。それに、唯は声を使わない会話を聞くこともできる。
「石を読むことができるのは、特別なことなの?」
「そうじゃの。妾にはほとんど読めぬ」
オーテルは石を持っているのに、あまり読めないと言う。
唯には石が読める。この石とは、いったい何なのだろう?
「この石って何なの?」
「お父さんの首の骨じゃ」
それは唯も知っている。聞きたいのは、そう言うことでは無い。
「そうじゃなくて、何に使う物?」
「記憶の入れ物じゃ。転移する竜は、転移するとき大事なものを置いて行く。
置いて行くだけで、完全になくなるわけでは無い。無くした物は、骨に残るのじゃ。
そして、転移で持って行けるのは、体だけ。
洋子が持っておるものの中で、都合が良かったのが骨だったのじゃ」
え? ”洋子が持っておるものの中で”
その石は、栫井の首の骨だと言っていたはずなのに、なぜ母(洋子)が持っているのか、唯は不思議に思う。
「お母さん(洋子)の、首の骨なの?」
「何を言うておる。洋子は生きておった。お父さんの骨は洋子が持っておった」
栫井さんの死後、お母さん(洋子)が持つ?
死んだ母(洋子)を生き返らせるために、時間を戻して神になったのが、栫井なのではないのだろうか?
母(洋子)を見るが、母(洋子)は、何も言わなかった。
洋子は、否定しなかった。
暗黙の肯定。
唯には繋がりが見えた。
洋子が死んだから、時間を戻したのでは無い?
母(洋子)は、母(洋子)のせいで、栫井が神になったと言った。
母(洋子)が死んで、時間を戻す前に神になっていたのではないか?
そう思う。
唯も、だいぶ答えに近付いていた。
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一方、栫井は、
ダウンしている間も、身体を動かす気力が無かっただけで、頭の中では、いろいろ考え事をしていた。
石の内容には驚いたが、いろいろ謎が解けた。
やっぱり神になった理由は、洋子さんの願いを叶えるためだった。
そうしないと、俺の望みが叶わないから。
それじゃ俺が成仏できない。
薄々気づいてはいたが、やはり、元々は、”俺が、洋子さんとの約束を守れなかった”ことが、事の発端だった。
不可抗力だった。約束は守れなかったけれど、仕方の無いことだった。
だから、渋々でも許してもらえると思っていた。
ところが、洋子さんは、最後まで許してくれなかった。
俺も、俺の願いが叶わず、とても残念に思っていた。
元は俺が悪かったとは言え、俺は、相当頑張ったと思う。
結果、ここまで来た。
無事、”唯ちゃんが生きている世界”に辿り着いた。
俺は、もう満足している。
そもそも、もう、気力が残っていない。
俺はもうだいぶ安心して、満足してしまった。
時間を戻すと、また、人生消化試合をしなければならない。
正直、俺にはもう、また長い時間を一人で過ごす精神力が残っていない。
失敗したら、また唯ちゃんが死んでしまうかもしれない。
小泉さん(洋子)か、唯ちゃんが死んだ歴史であれば、時間を戻すが、そうでなければ、もう、戻してやり直したくない。
ただ、1つ問題がある。唯ちゃんが生まれるには、7個の石が必要なはずだった。
今、俺は5個しか持っていない……
この体には、身体的には7個存在している。けれど、集めなきゃならない7個のうちの、5個しか持っていない。
自分でも、混乱する。願いの7個の骨と呼ぶことにしよう。
俺は、今、願いの7個の骨のうち5個しか持ってない。
願いの骨は、異世界に行って戻ったときには増えている。
まだ、異世界に行って戻ることができる。
俺が若かったら、夢が広がる場面かもしれない。
少年誌の主人公なら、これから何が起きるのか、ウキウキワクワクする場面かもしれない。
ところが、俺は40のおっさんだ。実際には50歳まで何度も生きたおっさんだ。
積算したら100歳なんてとうの昔に超えている。200年くらい生きたかもしれない。
夢は広がらないし、疲れた。
どんどん遠ざかっていく年金支給開始みたいに、俺のゴールはどんどんと遠くに逃げる。
でも、身体が若返っても、精神はすり減って行く、俺にはもう気力が残っていない。
でも、小泉さん(洋子)にも、知られてしまった。
小泉さん(洋子)も、思い出したはずだ。
あの涙。
一発で、バレたと思った。
俺は、小泉さんに、今までのことを知って欲しくなかった。
最後に、幸せに見送って欲しかった。
でも、バレてしまった。
何度も自殺するような羽目に陥ったのは、俺が悪いと思う。
でも、洋子さんの願いを叶えるためには仕方なかった。
俺は、誰かの願いを叶えるために神様になると、その願いを叶えるまで死ぬことができない。
願いが叶えば、そう遠くないうちに消えてしまう。存在意義がなくなるから。
俺はもう、さらに誰かの願いを叶えようとは思っていない。
小泉さんは、満足してくれるだろうか。
小泉さんが、許してくれたら、50の同窓会まで記憶を封印する。
そして、唯ちゃんの病気を治したら、妻の形見を貰って、オーテルの世界に行こうと思う。
向こうでは、オーテルが生まれる前に俺は死ぬ。
あとは、小泉さん(洋子)が、もう一度やり直すとか言い出さないように祈ろう。




