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短編集  作者: 月詠嗣苑
1/1

僕の傍には

 僕の名前は、『チロ』。


 体は、茶の縞模様なんだけど、前足が靴下を履かせてるように2本共白くなってるんだ。


 この名前をつけてくれたのが、僕のお兄ちゃんで、黒田悟って言って、凄くかっこいいんだ!


 男の子なのに、二重で頭もいいし、スポーツだって出来て、僕の自慢のお兄ちゃん!



 そんなお兄ちゃんに好きな女の子が、出来たんだけど、ある日お兄ちゃんは、お部屋に閉じこもったっきり、お父さんやお母さんが呼んでも出てこなくなった。


 カリカリッ···カリカリッ···


『お兄ちゃん、ここ開けてよー。お兄ちゃーん』僕の必死な訴えに、お兄ちゃんはやっとお部屋のドアを開けてくれた。


 ンナァ···ンナァ···


『お兄ちゃん···泣いてたの?おめめ、赤いよ?』でも、お兄ちゃんは、僕の質問に答えず、ベッドに寝転んでばかり。


 ンニャァ···


 僕は、最近やっとそのベッドによじ登る事が出来て、お兄ちゃんの身体にくっついてる内に、寝ちゃってた。お兄ちゃんも···


 それから、暫くお兄ちゃんの傍にまとわりついて、うるさいって怒られたけど、泣いてはいなかったし、ちゃんとお部屋から出るようになった。



 そんなお兄ちゃんが、『高校受験』って悪者と闘ってるらしい。お父さんとお母さんが、心配そうな顔で話してるのを僕は聞いていたんだ。


 毎日、学校という牢獄に行っては、ヘトヘトになって帰ってきて、お母さんの作ったお弁当もって、おっかない鬼のいるとこに行って、夜は遅くまでたくさんお勉強してるの、僕もお父さんもお母さんも知ってるよ。


「行ってくるから」真っ青な顔でお兄ちゃんが、言った時、僕の頭を撫でてこう言ったんだ。「闘ってくるからな!」って!


 でも···


 お兄ちゃん、その闘いに負けちゃったんだ。お父さんやお母さんは、よしよしって慰めてくれたのに、お兄ちゃんかなり悔しかったみたいで、僕を···僕を···


 ふぎゃぁぁぁぁっ!!


「悟っ!!」

「チロちゃんっ!あなたっ!!」


 お兄ちゃんは、悔しかったんだ。泣きながら、お部屋に行って、後から駆け込んだお父さんにいっぱい怒られたの。


 僕は、お母さんと痛い痛いとこに行ったけど、「骨に異常なし」と言われて、帰ってきたんだ。


 お父さん達は、「チロに謝れ!」って怒ってたけど、お兄ちゃんの頑固さは、お父さん譲りだからね!でも、僕知ってるよ。夜中にお兄ちゃんが、僕のおうちにきて、僕を抱いてボロボロ泣いて、「ごめんね。ごめんね、チロ」って抱き締めて、朝までいてくれたもん。僕、嬉しかったよ。


 そんなお兄ちゃんだったけど、ちょっとお金の掛かる高校に行けて、スポーツ頑張って、いっぱいメダルを見せてくれたし、そのメダルを1個僕にくれたんだ!いま、僕のおうちにぶら下がってるの!


 高校入ってからのお兄ちゃんは、忙しくてあまり僕と遊んでくれなくなったけど、それでもおうちに帰ってくると、僕をぎゅぅってしてくれてたの。



 お兄ちゃんは、2回目の春に高校を出て、東京っていうおっきな世界に行ったけど、毎月一度はロボットに乗って帰ってきてた。


 その度に、僕をそのロボットに乗せて、いっぱい写真を撮っては、お部屋に飾ったりしてた。お兄ちゃんのお部屋もお電話には、僕のお写真いっぱい!


 何度めかのクリスマスに、お兄ちゃんは可愛いお姉ちゃんを連れて、四角いロボットに乗って帰ってきたんだ。


「チロ、ただいま。元気だったか?」


 僕は、動きにくくなった体で、頑張って鳴いて、お兄ちゃんは優しく抱いてくれたの。隣にいたお姉ちゃんにも、抱っこして貰ったんだ。温かかったな!


「チロ?俺な、来年こいつと結婚するんだ!そしたらさ、こっちに住むから···なっ!!」


『お兄ちゃん?なんで、泣いてるの?僕は、なんかした?』


「チロちゃん、早く病気治るといいね。また、くるからね!」


 ンナァァァッ···


『やだよ!お兄ちゃん!お姉ちゃん!いかないで!僕の傍にいてよ!!ねぇ、お兄ちゃん!』


 ンナァァァッ···ンナァァァッ···


『お兄ちゃん。あったかいや···僕、眠くなっちゃったよ···寝てもいいかな?お兄ちゃん···』




 それから、数ヶ月後···


『ねっ、ほら!僕の言った通りでしょ?神様···』

『あぁ、本当にメダルがあったな!で、お前は、どうしたいんじゃ』

『僕、僕ね···』


 僕が、神様にこうお願いしたんだ!


 それはね···



「こーら、さーちゃん!だーめっ!!」

「にゃんにゃー!にゃんにゃー!」

「いないでしょ?どこにいるの?」

「あちょこー、あちょこー!」


 髪を1つに結んだ母親の胸に抱かれた、1歳の女の子は、ある場所を指差した。


 そこは···


「な、もしかしたらさ。チロがいるのかも知れんよ。あそこは、チロのお気に入りの場所だったから」

「そっか。沙耶には、見えるのかもね。チロ、わかるかな?君のいもうとだよ!」


「チーロー!チーロー!」盛んに手を伸ばす沙耶に、英樹は本当にその場所にチロがいるのかもと思った。



 今でもチロは、メダルのぶら下がったうちに居て、お気に入りの場所で丸まったり、外を眺めてるのかも知れない···

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