夏の終わり
「久しぶり」
「うん」
こんな短い会話でも、愛おしい。
君と会話できることがなによりも嬉しかった。
「最近どう? ちゃんと学校行ってる?」
「うん。行ってるよ」
もう、鬱陶しいほど耳を劈く蝉の声は聞こえない。もう、首筋を流れ落ちる汗の線はない。
夏にしては涼しすぎる風が、君の長くて綺麗な髪を揺らしているだろう。
君の頬に優しく触れる。
相変わらず、スベスベだけど、ひんやりと冷たくて、硬かった。
「もう夏が終わるんだ」
あれほど、背中にくっついて気持ち悪くてたまらなかった制服とも、しばらく顔を合わせることもないだろう。そう思うと、少し、寂しい。
額から汗を流しながらスイカバーを齧る君とも、当分おさらばなんだ。
ううん、君とはずっとおさらば、か。
「やっぱり、夏の終わりは苦手かな」
僕の言葉に答える、君の凛と透き通る声は聞こえなくて。
代わりに、空が茜色に輝いていた。