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緋月-スカーレット・ルナ-  作者: 白銀ダン
1.アビスゲート編

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第73話 二人だけの穏やかな日常 part2

繋げると長いので分割



 1日に色々ありすぎて疲れはピーク。食器洗いを分担して終えたレオはすぐに寝る支度を始めた。


 レオが洗面所へと移動すれば、その後を追うようにシャルも洗面所へ。好きな人について回りたい心理があるのは仕方ないにしても、ここまでついて来られるとレオはカルガモの親鳥になった気分だった。


 歯ブラシを手に取り、美味しそうな薄緑色の歯磨き粉を適量捻り出すレオ。シャルに様子をじっと見られていた事に気付き、まさかデザート代わりに食べたりしないよな……とレオは訝しむ。


「歯ぁ磨けよー?」

「分かってるよー? いつも磨いてるもん。歯磨き粉待ち~」

「そっか、じゃ心配いらんな――って! なんだその歯ブラシ!? 使い込み過ぎだろ! お花みたいになってんぞ!!」


 シャルが握っていたのは、「歯ブラシ」と呼ぶのを迷うほどに毛先が開き切った歯ブラシだった。何をすればそんな風になるのやら……。


「あたし、これしか持ってないもん」

「新しく買えよ!」

「買う必要あるのかなぁ? ほら、水付ければまだ少し戻るよ」


 笑顔で歯ブラシの形状記憶を見せられてもレオは困った。


「昨日の宿で貰ったアメニティはどうした?」

「え、あれって勝手に持って行っちゃダメだよね? 宿の人とか次使う人とかが困るでしょ」

「歯ブラシは再利用しないと思うぞ……?」

「あ……確かに」


 心がけは立派なのだが、どこか抜けていて「立派」と言い切れないのが実に惜しい。シャルらしいと言えばシャルらしいが。


 歯磨き粉さえ使っていれば口内を清潔に保てる。とは言え、見てしまったからには何もせずにはいられない。「しょうがないなぁ」とこぼしながら、レオは戸棚から新しい歯ブラシを掴んでシャルに差し出した。


「ほら、オレの予備のやつ使いな」

「ありがとー!!」


 夕食の時、予備の箸を使わせてくれた。そして今回も。「使いな」の一言に、「今後もずっと使っていい」と言う意味が含まれている事は明らか。感謝の言葉だけでは、シャルは胸奥から湧き上がる喜びを表現できそうになかった。


 レオからのさりげない優しさを受け取ったシャルは喜びをストレートにぶつけた。



 二人は仲良く、鏡の前でちょっかいを出し合いながら歯を磨いた。交互に脇腹を触ったりして笑わせた回数を競ったのだが、シャルがくすぐりにとんでもなく弱くてレオの圧勝だった。


 歯を綺麗に磨き終え、隣の洗濯機の様子を確認するレオ。中に放り込んだ衣類はまだまだ洗濯中。乾燥すら始まっていない。汚れ落としに苦戦しているようだった。


「ん、何か言ってる?」

「もう少しかかりそうだとさ」


 それまでに一風呂浴びておくのがベストだろう。レオは脱いだTシャツを丸めて上半身裸になった。


 そろそろシャルを脱衣所から追い出さねば。そう思い、彼女の方を向くと――何故かシャルもだぶついた服を脱ごうとしていた。下乳がチラリと見えてレオがストップをかける。


「おいおい、一緒に入るつもりかよ……!」

「ダメなの? 好きな人とお風呂入るのって、なんかおかしい?」


 常識を否定されたかのようなシャルの反応にはレオも参った。常識的に考えて、おかしい所しかない。


 一緒に入るカップルも居るらしいので、百歩譲ってその点はレオも理解できた。だが、忘れてはいけない。出会ってまだ2日目である。一緒に寝るのとは訳が違う。もう裸の付き合いを解禁してしまうのか!? 散歩に同行するかのようなノリで!? と言うのがレオの本音だった。


 裏を返せば、それだけ信頼されている証である。レオも嫌ではなかった。そもそも、パートナーと湯に浸かるのが嫌な男なんて居ない。シャルが構わないと言うのなら、レオに拒む理由は無かった。


 頭を照れながら掻き、シャルの気が変わっていないかレオは今一度確認する。


「……ホントに入るのか?」

「入る! レオとお風呂……レオふろ!」


 楽しげなシャルとは大違い。レオは落ち着かなかった。恥ずかしくないと言えば嘘だった。


 レオは覚悟を決めて全てを脱ぎ、見られていない隙にささっと浴室へ逃げ込んだ。一方のシャルは急がず焦らず普段通り。おかげでレオの情けなさが際立った。


 シャルが湯気の中に現れた頃には、既にレオは浴槽に浸かって避難済みだった。親しき仲にも礼儀あり。目にも留まらぬ速さで体を洗い、シャルへの最大限の配慮をレオは忘れなかった。


 僅か数秒の間に“男の戦い”があった事など露知らず。レオ同様シャワーを浴びて汚れを落としたシャルは、ご機嫌な様子でなんの躊躇いも無くレオの隣に座って温まった。


 相変わらずのもちもち肌。しかし、今回は状況が異なる。こうして裸で寄り添うのは初体験。新鮮な高揚感でレオの胸はバクバク乱れて止まらなかった。


(あーヤバい……。真っ赤に熟してお湯に溶けちまいそうだ……)


 裸同士だと言うのに、普段と同じ距離感でシャルがくっついて来るので堪らない。衣服の偉大さをレオは痛感せざるを得なかった。もっとも、シャルの場合は服を着ていてもその魅力を隠しきれていないが。


 そして当然、脱げば破壊力抜群である。


 しっとり濡れた肌色の二つの山。水面に浮かぶシャルの大きな胸に、レオはどうしても目線が行ってしまう。本能には抗えず、やはり気になった。


 目のやり場に困ったレオは、取りあえず出入り口の方を見つめる事にした。そこならば誘惑されず、多少は紳士的で居られる。なるべく失礼の無いように努めた。


「レオ、恥ずかしいのー?」

「恥ずかしいに決まってる……」


 レオの顔を覗き込んだシャルは目を逸らされてしまう。抱き締めたりキスを交わしたりしても、それほど恥ずかしがらないのに、今は頬を赤らめ戸惑いっぱなし。レオらしからぬ反応でシャルは愛おしく思えた。


 いや、普段は見せない顔だからこそと言うべきか、それもまた“レオらしさ”でありレオの魅力なのでは。そう思うとなんだかシャルは無性にドキドキして来た。


「なんか、今のレオの顔すっごくイイかも……!」

「実はSなのか?」

「実はと言うか、普通に頭文字はSだよー?」

「ははーん、そう来たか」

「……?」


 疑問を浮かべるシャルの視線を受けながらレオは頭と体を洗いに向かった。


 洗うのも一苦労。レオは可能な限り泡を立てて、それを局部に集めてガードした。素っ裸のレオに出来得る精一杯の紳士的な対応だった。シャルが洗っている時は目を閉じてやり過ごした。


 その後しばらく湯に浸かり、のぼせないうちに二人は風呂から上がった。


 先に脱衣所に戻ったレオは素早くタオルを手に取り、ギリギリ局部を隠す事に成功した。


 気楽なもので、自身の体を拭いている間もシャルは潤った白肌を隠す素振りすら見せなかった。体から水分を拭き取るのに、わざわざ隠す必要性を感じない――そこにはシャルなりの合理性があった。


(なんでオレだけ、こうやってコソコソしてんだ……。こっちが非常識みたいじゃんか)


 唐突に自分が情けなく思えたレオは、ドン引きされる覚悟でシャルに倣ってみた。シャルのように堂々としていれば、案外羞恥を感じないのでは――と。


 さらけ出してみると、解放感から思いのほか悪くなかった。しかし、そんな爽やかな気分も束の間。シャルから純粋無垢な好奇心を向けられ、レオは紳士に戻る事を決意する。


 やはりパートナー同士であっても、「隠すべき所は隠す」「見たくても見ない」――互いの神秘性を暴かず守る事が肝心なのだとレオは思い知らされた。



 入浴中に洗濯が終わっていた。シャルの下着が間に合ってレオは一安心。お互い新しい服に着替えた所で、レオとシャルは二階の寝室へと向かった。


 4つ貰ったベッドのうち、3つは二階の各部屋に置いた。どうにか使い道を増やそうと、もう1つはベランダ側の陽の当たる空間に設置して昼寝用ベッドとした。置く場所はまだあったが使わないのももったいない。苦し紛れにレオはなんとか活用法を見出した。


 レオは後ろからついて来ていたシャルに昨日の朝のドタバタを話し、自室の前で立ち止まる。


「隣の部屋にベッドあるからそれ使ってよ。て言うか、もうその部屋シャルのでいいよ。好きに使ってくれ」

「なんでー? 一緒に寝ればいいじゃん」


 レオはもう驚かなかった。そう言うと思っていた所だった。


「いくらなんでもさぁ……」

「じゃあ、シャル今日は大人しくしてるから」

「いや、だから……オレが理性を保てなくなって暴走してもいいってのか?」

「リセイ? いいよ~?」

「分かってねぇな、コイツ! よく今まで何にもされずに生きて来れたな!!」

「えへへ、なんか知らないけど褒められた」


 恐らく、別室で寝るよう説き伏せても、寝た頃にこっそり潜り込んで来るに違いなかった。そんな光景が瞼の裏に鮮明に浮かんだレオは、1分と経たずに説得を諦めた。


「早く寝よー。昨日もそうしたじゃん」

「ようやく余ったベッドの引き取り手が現れたと思ったんだがな……」


 ハネムーン気分で浮ついているので数日はこんな調子が続くと思われた。ただ、“自分の部屋”としての意識が出来上がれば、一人で寝てくれる回数も自然と増えるとレオは予想。今日の所はシャルを迎え入れる事にした。


 渋々ながらレオは寝室のドアを開けて入って行った。シャルもそれに続いた。


 特に変わった物が置いてある訳でもない。壁際には空っぽの棚。スカスカのウォークインクローゼット。カーテンは閉まっており、ベッドが寂しそうにぽつんと置いてあるだけ。シャルもレオが最近移住して来た事は聞いていたが、ここまで殺風景な寝室だと微妙に不安になった。


「……悪い夢見そう」

「だから一緒に寝るんだろ」


 短い言葉を交わして消灯。シャルはレオから招かれ、薄い毛布の中に飛び込んだ。


「じゃ、おやすみ」

「おやすみ~」


 昨日の密着女子が嘘のよう。おやすみのキスを軽く済ませると、ちゃんと大人しくしてくれた。静かに寝かせてくれるか少々怪しく思っていたレオをいい意味で裏切った。


 よく知る温かさが隣にある。その安心感は、一日を共に終えると言う特別な時間をさらに特別なものへと瞬く間に変えてしまった。


 なんたる心地よさ。

 なんたる充足感。

 同じ想いを胸に秘め、二人は眠りに就く。


 長い一日が終わり、シャルの居る日常がこうして始まった。



次回からまた色々起こります。王国の名所に行きます


2025.5.31 文章改良&分割

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