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緋月-スカーレット・ルナ-  作者: 白銀ダン
1.アビスゲート編

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第13話 純白の翼

初めての上位存在



 適当に駄弁って退屈さを紛らわし、レオとオッティーはガラス板のような階段をさらに進んだ。かれこれ20分くらい段差を上がり続けただろうか。ようやく光の柱の元へと辿り着いた。


 階段は、極大な間欠泉をさらに巨大にしたような、天昇る光の柱の中へと続いていた。並の人間なら行くのを躊躇いそうなものだが、ここにはどこにも「出口」と呼べそうな所が無い。周囲と同様、レオもオッティーも歩調は緩めなかった。


 光をくぐると、そこに現れたのは――。


「おいおい……夢でも見てんのか?」


 眼下に広がる大きな街。建物は全て白で統一されており、神々しい光が空から降り注いでいた。


 広場を見れば、どこから引いているのか全く想像のつかない噴水が。空を見れば、魔法か何かの力で自立して浮いている巨石が点在している。そこを翔ける天使達……。その光景は摩訶不思議と言う他なかった。


 特に目を引くのが謎の巨大建造物だ。


 街の中心に、重力に逆らってそびえ立つ巨塔が一本佇んでいて、そこから枝分かれするように別の建物が伸びている。大樹の幹に相当する中央の塔だが、その先端は天を貫いて肉眼では見えなくなっていた。


 この世のものとは思えぬ景色に、普段無関心そうな顔をしているレオも感嘆の声を上げる。同じくオッティーも視界に広がる未知の地域を驚きと共に眺めるしかなかった。


「ほほう……“天界の住人の為の街”と言った所かの?」

「すげーなここ。……あれだな。ココナッツだ。なんでこんな甘い香りが微かに漂い続けてるんだ?」


 さっきまでは無臭だった。しかし、ここへ来てからと言うもの、ココナッツの香りに似た独特の匂いが優しい風に乗って鼻の奥を行き交う。そこだけは評価に困った。



 レオとオッティーが圧倒された様子で絶景を堪能していると、空の彼方から男女の天使が降りて来た。突然頭上から風を起こして2人も現れたものだから、レオとオッティーは驚いて咄嗟に飛び退いてしまった。


 その容貌は、先程レオ達を案内していた“天使”とは全く違った。……こちらの方を「天使」と呼んだ方が正しい。


 先の案内係と異なり、背中に純白の翼を有していた。光輪もまるで違う。案内係はイラストでありがちな“天使の輪”だったが、彼らの輪には翼が付いていた。何より、神秘さを感じさせるキラキラを纏っている。紛れもなく「天使」と言える存在だった。


 とは言え、かけ離れた身体的特徴はその程度で、それ以外は自分達と変わらない人間の姿をしていた。驚きはしたがレオ達二人が険しい顔で警戒しなかったのはその為だ。


 片方はあご髭を生やした男性の天使だった。爽やかな雰囲気で、細身ながら引き締まった体をしている。見た目は20代後半と言った所か。腹の辺りに布が無いので見事に割れた綺麗な腹筋が露わになっていた。


 もう一人の天使は明るい感じのショートヘアの少女だった。踊り子のような露出度の高いハレンチな格好が目を引く。天使の間では一般的で常識的な“天界スタイル”なのかも知れないのでレオは言及しなかったが、学生には少々刺激が強かった。顔立ちもさることながらシルエットも美形。余計に目のやり場が無かった。


 二人に共通して、トーガや羽衣を彷彿とさせる白い布を服装に取り入れていた。太陽をモチーフにしたらしき模様が入ったそれを見てレオは疑問に思った――。天界(ここ)に太陽は無いのだが?


 レオの疑問が解ける前に自己紹介が始まってしまった。


「どうも~初めましてっ! よろしくね!」

「はぁ……」


 何事かと思ったが、少女の天使が握手を求めて来たのでレオは取りあえず応じた。「ついでに」と少女はオッティーとも握手を交わした。レオもオッティーも理解が追い付いていない様子で、ぎこちない動きをしていたのは言うまでもあるまい。


 少女と一緒に降りて来た男性天使が申し訳なさそうにレオにお辞儀をした。


「私はドルティスと申します。連れのご無礼をお許しください……。私の方から厳しく指導しておきます……」


 距離感を考えずに迫って来た少女の天使と大違い。彼の方は随分と礼儀正しかった。天使にも人間と同じように、一人ひとりに性格や個性があるらしい事が判明した。


「お前なぁ……馴れ馴れしいのも問題大アリだが、しっかり段取りを踏んで説明しないと相手を困惑させるだけだろう?」


 ドルティスと名乗った男性天使がレオの目の前に居る少女を叱った。


「あー……、私天使です! レオさんの担当天使になりました~。よろしくね!」

「種族じゃなく、まずは自己紹介をするべきだ!」

「あー……、人間の発音っぽく言うと、私ミュリフィエですー。よろしく~」


 困惑するレオをよそに改めて握手を交わすミュリフィエ。叱られてなおこの距離感。無邪気さと言い、この子は問題児ちゃんなんだな……とレオは瞬時に悟った。


「言葉遣いに気を付けるんだ。私達はあくまで“奉仕”する側だぞ……!」


 それを聞いてレオが少々驚いた表情を見せる。「奉仕? 奉仕ってなんだ……?」そう言いたげな顔で二人の天使にレオは交互に目をやった。しかし、詳細が話される事は無く、ミュリフィエのやけに長い握手が続いた。


「だって~、いいですよね? レオさんっ」

「いいけど、もっと説明してくれ……。“担当天使”ってのはなんだ……? どうして無条件に奉仕する?」

「わしもそれが聞きたかった! どうしてわしにはその“担当天使”が居ないんじゃあ!!」


 失いかけた意識が戻ったかのように、急にオッティーが話に割って入って来た。そう言えば、とレオは辺りを見回してみたが、彼にだけ一向に天使がやって来なかった。


 オッティーが焦るのも無理もない。他の人間の死者の元へは次々と〈担当天使〉が訪れ、彼らと共に続々と飛び去っている。間もなくレオも居なくなってしまうと思うと、心細くて声を上げずにはいられなかった。


「人間ってめんどくさい所で敏感ですよねぇ~。ちょっと到着が遅れてるだけじゃないですかー。それより、よそ様の邪魔になってますよー私達」


 手を頭の後ろで組んで、大胆にも両脇を見せながらミュリフィエが愚痴をこぼす。実際、こうして長居しているのはレオとオッティーだけだった。


「周囲の迷惑になるので少し端に寄って話しましょう」


 ここは言わば天使達の発着場。各所で真っ白な翼を羽ばたかせている。理解を示し、促されるままレオとオッティーは柱の側へと場所を移した。


「オッティー様ですね? すぐに迎えが到着するはずですのでそのままお待ちください。“担当天使”とは簡単に申し上げると、天界へ来たばかりの廻魂者様の手助け、情報提供、お世話をする者です」

「か、かいこんしゃ……?」

「廻る魂……我々は人間の死者をそう呼んでいます」


 確かに天界では右も左も分からない。なかなかいい仕組みじゃないかと思いながら、レオとオッティーの二人は黙ってドルティスの説明に耳を傾けた。


「廻魂者様1人につき2人の担当天使が割り当てられ、お呼びの際はいつでも翔け付け、ご要望があればいつでも応えられるよう努める使命が我々にはあります。側でお仕えする期間は、レオ様が“神の審判”を受けられる日までとなります」

「要するに、ここでの生活のサポートをしてくれる。あくまで客人をもてなす儀礼的な関係って訳か。理解した」


 すると、ふむふむ言ってミュリフィエが興味深そうにレオの顔を覗き込む。


「……ちゃんと伝わったみたいですね」

「何か変か?」

「たまに居るんですよね~。何をどう勘違いしたか、ご主人様になったと錯覚して偉ぶる人間が」


 ありそうな話でレオ達は笑いすら出なかった。


 主従関係であるはずがない。どう捉えても彼女らの方が上位に位置する生命体だ。愛玩動物に優しくするのと同じで、蒙昧な下位存在に対して遜って接してくれているだけに過ぎないのは見れば明らかだった。


 どこの世界にもそのような程度の低い人間が居るらしい。人間、死んだ所で大して心は入れ替わらないと言う事が証明された気がしたレオだった。


「ま、仲良くやろう。……してください」

「レオさんは比較的まともそうですね。安心しました!」


 「比較的」が若干引っかかるがとにかく、良好な関係でやって行けそうでレオも安心した。


「他に質問はー?」

「追加でスマン。ここ来た時から気になってたんだけどさ、なんで互いに言葉通じてんだ?」

「奇遇じゃな。わしも気になってた」

「言葉の壁が取り外されているからですよ~。ちょっと考えたら分かりそうなものなんですけどねー?」


 ミュリフィエが口に手を当てて笑う。また余計な事を言うのでドルティスを怒らせた。ただ、人によっては失礼に聞こえるのかも知れないが、悪気があって言っているようには見えない。レオは案外聞き流せてしまった。


「まぁまぁ、お二人とも。喧嘩はよくないですぞ」

「あ、オッティーさんもそう思います?」

「そんで? オレ達はこの後何をしたらいいんだ?」

「はい。審判の日に向けたちょっとした手続きを済ませてもらいます。では、行きましょうか」


 真面目な口調で言い終えると、ドルティスが発着場のふちに立つよう手で合図した。ここからしばし空の旅が始まる予感から、レオはオッティーの方へと目をやる。


「爺ちゃん。少しの間お別れだけど、終わったらまた会おうか。前世の話、色々聞かせてくれよ」

「おう、行ってらっしゃい。大遅刻天使が無事に来ればじゃがの」


 純白の翼を羽ばたかせて二人の天使が高台から飛び立つ。ドルティスに脇を抱えられ、レオは風に乗って一足先に街の中心地へと向かった――。


抱えながら飛ぶって、実際どのくらいのパワーが必要なんだろうか……?

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