第11話 新たな出発
レオvs占拠犯
甲高い銃声が閑静な廊下を伝い、人質が身を寄せ合う教室にまで響いた。
教室で散った級友を思い起こさせる破裂音に、生徒達は驚きを隠せない。誰もが最悪の結末を予感した。しかもあろう事か、警察の到着はまだかと気持ちを焦らせていたさなかの凶報である。皆の心理状態は、パニックに陥る寸前だった。
ただ、今回ばかりは状況が異なる。人質らの動揺に触発され、悠長に構えていた占拠犯も胸中にざわめきを覚えた。銃を所持しているのは自分達の他には居ないものの、現場は遥か遠く目が届かない。一瞬たりとも緊張しなかったと言えば嘘となる。
暇を持て余していた占拠犯の一人が女子生徒の胸を揉んで遊んでいたが、発砲を聞くや否や、その女子を一塊になって座っているクラスメイトの方へと乱暴に突き飛ばし、緩んでいた警戒心を再び高めた。
「銃声?」
「アイツ、ガキがもたもたしてたから殺っちまったな?」
教室内で人質の監視を担っていた中年太りの男と長身の男が目を見合わせ、事の顛末を予想する。その思考は芽生えた緊張感に反して楽観的だった。無理もない。相手は丸腰の男子一人。撃たれたとすれば仲間ではなく男子の方。起こり難い事柄は愚考とみなして捨てがち。それが人間である。
しかし、傍らで腕を組んでいた彼らのリーダーはそうは思っていなかった。
リーダーも彼が怒りっぽくて危ない奴だと言う事は知っている。脳が沸騰して同伴させた生徒を射殺した……そんな風に考えない事も無かった。だが、彼がお調子者で、ちょっとした事で油断する悪い癖がある事も知っている。何か嫌な予感がした。
抵抗を企てたクラスメイトが目の前で撃ち殺されて、急にトイレに行きたくなる生徒が居るだろうか。よくよく考えてみると、妙に引っかかった。タイミング悪く催した様がそれらしく、一人だけならばと許可を出してしまったが、あれは状況を逆手に取ったものだったのでは。ふさふさ髪の男子生徒が冷静さを保っていた可能性が嫌でもよぎった。
「いや、まさかな……。おいY、廊下から何か見えるか?」
教室内のリーダーに問いかけられ、外で見張りをしていた小柄な手下が覆面の穴から目を凝らす。銃声があった廊下の先をしばらく観察するも、怪しい動きは一つも無く、男は首をかしげる。
頭をポリポリ掻きながら、手下の男は念の為に後ろの廊下もチェックした。案の定、バリケードの陰に隠れているような人影は見当たらず。争い合う音も聞こえて来ないとなれば、敵襲があったとは考えにくい。現状では、仲間が男子生徒を銃殺したと手下は結論付けるしかなかった。
「うーん、特に異常な――」
再びの銃声――2組の教室に潜伏していたレオが、小さな見張り役の頭を撃ち抜いた。男が報告の為、教室に居るリーダーの方へと顔を向けた、まさにその瞬間だった。
銃弾が上下左右に多少逸れても致命傷を与えられるであろう胴体をレオは狙って撃ったが、急いで撃った為に弾道がだいぶ上にズレた。とは言え、1発で仕留められれば結果オーライ。形はどうあれ、弾を節約する事が出来れば上々だった。
不意の出来事にリーダーは目が点になった。仲間が頭部から鮮血を散らして廊下に倒れて行く様を、悲鳴の中で見ている事しか出来なかった。
「クソぅ! あのガキかッ!?」
覆面男達は一転して慌ただしくなり、各々の銃を出入り口に向けて構え始める。このまま味方が減り続ければ、再び人質の反乱が起きかねない。そうした危機感を覚えれば、そうならざるを得なかった。
焦りと共に怒りも噴出する。ここまで首尾よく行っていた。順調に事が進んでいれば、莫大な金を手に入れていた。それなのに、たった一人の小賢しいガキに計画をぶち壊されそうになっている。怒髪衝天。憤恨は天に昇る勢いで男達の体を駆け上がった。
ピリつく教室に小さな希望が芽生える。
アイツが戦ってるんだ……膠着していた戦局が動いた事を知り、生徒一同は揃って固唾を呑んだ。レオの無事を祈る者、心の中で応援する者、不甲斐なさから闘志を燃やす者。目前の恐怖に支配されながらも、生徒達はそれぞれ密かにレオへと想いを飛ばした。
(あと4発、残り3人……)
廊下の見張り役が消えた事でレオの行動可能範囲も広まった。ただちに3組の教室へと陣地を移し、レオは顔を覗かせて廊下の様子をうかがった。
(さっきは運よく即死させたが、二度も三度も天は味方しない。残りは絶対に外せないぞ……)
ぶっつけ本番で一発撃ったくらいでは、銃の癖が掴めないのが難点だった。特に、生の火薬による反動が想像以上に厄介だった。ゲームセンターでやるのとは訳が違う。加えて、常時緊張状態。負ければ、死ぬのはゲームの主人公ではなく自分自身……レオは途端に不安に駆られた。
何より、弾数が残り少ない。これがレオにとっての最大の心理的負担であった。
(いや、死んだ奴の銃を奪えれば、もしかしたら……)
武器の鹵獲は民兵の常套手段。銃弾が無いのなら、敵から銃を調達すればいい。レオは身を潜めた教室から体の半分を廊下に出し、警戒心を維持しつつ死体の様子を確認した。
バリケードの向こう側に伏せて動かなくなった敵が見えた。その亡骸の近く――敵が居る教室の出入り口付近に目当ての拳銃が落ちていた。
(クソ……ここから微妙に遠いな。容易には確保しに行けねぇか……)
落ちている場所もすこぶる悪い。敵から丸見えだ。そのまま行けば、敵と鉢合わせになる可能性も十分に考えられた。迂闊には近づけない。かと言って、放置するのは悪手。敵に拾われでもしたら絶望的である。レオは奪取する方法とタイミングに悩まされた。
落ちている銃を餌に敵を釣る事も考えたレオだったが、バリケードがかなり邪魔だった。仲間の銃を拾いに来る所を待ち構えて攻撃しようにも、盾のように設置された机がそれを阻む。
だが、占拠犯にとっては好都合。
「おい、今のうちだ! アイツの銃が奪われる前に回収して来い!!」
「ハッ、そうか!!」
リーダーが声を潜めて手下に命令する。レオの相手も考えている事は同じだった。
いくら入念に準備をして犯行に及んでいようが、銃弾には限りがある。使える弾は多いに越した事は無かった。第一、新たな武器を敵に与えてはならなかった。そうなれば、戦闘の長期化は必至。最悪負ける。敵の突破口を狭め、負け筋を潰すには、敵の手に渡る前に銃を確保するべきだった。
倒れた仲間の銃を回収するべく、長身の覆面男が姿勢を低くして教室から飛び出る。レオが待ち伏せしている事を予感しており、顔を覗かせてその存在を確認する素振りすら見せなかった。そして、落ちていた銃に自慢の長い腕を伸ばす――。
(ッさせるかよ!!)
意表を突かれたレオだが即座に、敵が教室に戻る所を狙って撃った。しかし、案の定バリケードに弾を吸われてしまった。貴重な1発を失い、銃声だけが建物に反響した。
「危ねぇ……」
「よくやった!」
勝利の鍵を確保して、間一髪逃れた仲間は英雄に等しい。リーダーはその肩を叩いて褒めちぎった。
(クッソどうする!? あと3発しか残ってねぇ!!)
出遅れた挙句、発砲しておきながら敵を負傷させられなかった。さっそく天に見放され、レオは歯を食い縛る。幸い、ちょうど人数分の弾は残っている。……残ってはいるが、素人のレオには残り全てを敵に撃ち込める自信は無かった。
とは言え、隠れていてはいつまで経っても終わらない。レオはバリケードの一つを押して動かし、敵が守りを固める教室の出入り口の一つを封鎖した。
「おい、ボス……! これじゃあ……」
「狼狽えるな!」
臆病風に吹かれた手下をリーダーが戒めたその時だった。出入り口の正面にレオが飛び込んだ。無駄の無い動きで目に付いた長身の男に銃を構えると、レオはすかさず引き金を引いた。
「んがああッ!!」
ここぞと言う時の集中力は凄まじく、レオが放った一発は狙い通り男の胸に命中。ただ、死には至らず、男は激痛に苦しみもがいた。
銃声を浴びせられた残りの占拠犯は素早く応戦した。傍らで仲間がやられてもお構いなし。彼らはレオを殺す事しか考えていなかった。薄情ではあるが、実に合理的だった。死に損ないの仲間を気にかけた所で悪人に明日は無い。それをわきまえていた。
レオは銃弾を受けぬよう直ちにその場から離れ、今まで潜んでいた教室の反対側へと急いで逃げた。「撃ったら即離脱」を心がけており、反撃にはそうそう当たらなかった。移動させたバリケードを盾にしゃがんでいた事も大きい。
重傷を負った覆面男の叫びが廊下の端から端まで響き渡る。その様は見ようによっては地獄の拷問。死に際を彷徨う男の苦痛に満ちた声を極力聞くまいと、耳を塞ぐ生徒が現れるのも必然であった。
戦場と化した教室から早く逃げ出したい。生徒の思いは皆同じ。だが、条件が整っておらず、逃げたくても逃げられなかった。このまま凶漢が滅びるか、はたまた援軍が来るか、あるいは……。いずれにせよ、今はまだ耐えるしかなかった。
悲鳴が止んだ――。
教室に2人となった占拠犯は両者共に目を凝らし、いつでも発砲可能な体勢を取って敵を待ち構えた。特に、教室の前後にある出入り口を徹底的にマークした。
本当なら、二人とも殺気に身を委ねて攻勢に転じたかった。しかし、今となっては無理な話だった。
初め5人も居たのに、ものの数分でたったの2人に戦力を削られてしまっては、攻めようにも攻められない。ムキになって片方が男子生徒を仕留めに行けば、教室内の見張りが手薄になり、人質の生徒が数の多さに物を言わせて、襲い掛かって来るに違いなかった。……故に動けず。
外には突入の機会を狙っているであろう機動隊。内には銃を奪った男子生徒と抵抗心を燃やしつつある人質が多数。こうなってしまった以上、とことん防衛戦に徹するしかなかった。それしか、彼ら占拠犯が助かる術は無かった。
束の間の静寂が校内に訪れる。
(そうか――)
敵大将を追い詰めたが決め手を欠いていたレオ。怪しく黒光りする拳銃を見つめていると、ふと妙案が舞い降りた。
レオは急いで横の無人教室に入り、整然と並ぶ机の間を通過して迷わず部屋の後ろへと向かった。そして、掃除用具入れとして使われている、灰色の縦長のロッカーに手をかけると、中身を全て床に放り投げ、代わりに手近にあった教科書を目いっぱい入れ、ロッカーを廊下に運び出した。
(これなら突破できる……!!)
スチールロッカーに追加で消火器を一本積むと、バリケードを押し退けながらそれを引きずり、レオは占拠犯の待つ教室へ直行した。
何かが来る……廊下から鳴り響いて来る異様な摩擦音に敵も味方も背中がざわつき、脈拍が早まった。覆面を被った男達は思わず、教室の後ろの出入り口に銃を構え直した。
レオは運んだロッカーを入り口の手前で立たせると、側にあった机やら椅子やらを教室内に放り込み、床を滑らせるようにしてロッカーを移動させた。その作戦は至ってシンプル。あり合わせの備品で可動式の小要塞を作り、教室に進入を試みると言うものだった。
教室に現れた細長い鉄の壁を見て、占拠犯は敵の侵入を確信。何発もの冷たい弾丸をスチールロッカーに隠れた見えざる相手に浴びせた。――この時、レオは見かけによらずしゃがみながら進んでおり、銃弾が貫通しようが運良く避けていた。また、角度によっては跳弾した。
もちろん、それ一つでは心もとない。自分の教室の後方にも掃除用具を入れたロッカーが他と同じように設置されてある。レオはそれも上手く利用した。二つ並べれば、高校生一人くらいは容易に姿を隠せる。その扉を開けっぱなしにすれば、さらに防御面積は広がる。無論、過信は禁物。あくまで敵に的を絞らせない為の手段である。
要塞化したロッカーがレオの身代わりとなり、二方向からの銃撃を上手く凌いでくれた。しかし、工夫して防御力を上げようと、絶対に安全とは言いきれない。粗末な拳銃だろうが現代火器である事に変わりはない。ここからは短期決戦だ。
「今だッ! 取り押さえろ!!」
遮蔽物の裏から反撃の合図が飛ぶ。まさかと思い、悪党達は引き金を引く指を一時止め、咄嗟に人質の方へと殺気立った目を向けた。――迫って来る人質など一人も居なかった。
(やられた――ッ!!)
隙は逃さない。レオはロッカーの陰から中年太りの男に2発撃ち、確実に敵を一人減らした。男は胸のど真ん中を撃たれ、背後の机にもたれかかって息絶えた。
残るは大将ただ1人。しかし、レオにはもう撃つ弾が無い。完全に詰んだ。……否、その為の消火器である。悪足掻きとして、レオは消火器から煙を噴射させた。
敵に向かって噴き出した消火剤がたちまち煙幕と化した。照準が定まらず、銃弾はレオにかすりもしなかった。このまま弾切れになればレオの思い通りだったが、発砲は一向に止まなかった。
リーダー故に弾薬を多く持っている……もしくは、死んだ仲間の置き土産だろうとレオは想像した。いずれにせよ、現状レオに成す術はない。鉛の暴風に晒されて変形したロッカーの陰に隠れるように伏せ、相手の悪運が尽きるのを待つしかなかった。
好機さえ巡って来れば突撃して仕留められる――と、ここに来てレオに救世主が現れた。
敵はレオを殺す事に囚われて背中ががら空き。勇気ある柔道部の男子生徒――祭本亮介が占拠犯のリーダーに飛びかかった。今や敵はたったの一人。かねてから機をうかがっており、敵が連続射撃中だろうが躊躇わなかった。
今度ばかりは一糸乱れない。凶器を持つ敵を打倒するべく、他の男子生徒も続いて押さえにかかる。レオの勇姿を見て密かに闘志を燃やしていた者達が一斉に立ち上がった。
雄叫びを上げ、体格の良さを武器に、拘束を振りほどこうと男が暴れる。だが、怒れる柔道部に羽交い絞めにされては、身動きは容易ではない。多勢に無勢。そこに他の生徒も加われば、虚しい抵抗に終わった。
凶漢が組み伏され、日常を破壊し尽くした銃撃戦にようやく終止符が打たれた……。
◆
形勢逆転。人質扱いされていた生徒達は占拠犯のリーダーを連れ、上履きのまま校舎から脱出した。やめておけばいいものを、決着がついたと言うのに、男は相変わらず拘束を振りほどこうとしていた。その結末は言うまでも無いだろう。危ないからと男子の一人に顔を殴られ大人しくさせられた。
昇降口を出て正門へと向かうと、学校周辺を取り囲むように警官や機動隊が待機していた。その向こう側では保護者やら野次馬やらが大勢……騒ぎを聞きつけた各局の報道陣まで勢揃い。
不安と恐怖から解放された生徒達は一斉に走り出し、色づいたイチョウ並木を通って校門まで全力で駆けた。それを取り囲むように機動隊が盾を張って守り、警官が生還者を迎え入れる。安堵の声があちらこちらで上がり、時には涙もあった。
占拠犯のリーダーはあっけなく拘束された。同時刻、指揮官の合図で、校舎の裏手に回って突入待機中だった別働隊が動き出した。
クラスメイトが昇降口から次々と去って行く中、レオはのんきに外履きに履き替えていた。先程の非日常など、レオの中ではとっくに過去の出来事だった。そうこうしているうちに、レオはあっという間に置いて行かれ、辺りは静まり返った。
全員行ってしまったかと思いきや、隣に気配を感じてレオはふと振り返る。そこには、目元を赤く腫らした女子が一人立っていた。
「宮城野……?」
まだ居たのか。そう言葉を発しようとした矢先、レオは彼女に温かく包まれ、何を言おうとしたのか忘れてしまった。
「ありがとう……」
赤く染めた頬に涙を伝わせ、少女は恥じらう心に背中を押されるかのように外へと駆けて行った。
(……訂正するよ。いい子だよ、お前は……)
くすぐったい気持ちを抱きながらレオも校舎から去り、アスファルトの道を歩いて行く。眩しい陽光と独特な銀杏臭がレオを出迎えた。並木は黄色く燃えて色鮮やか。このひと時だけは、レオも嫌な事を忘れられた。
潰れた銀杏の実を避けて通り、レオは正門を目指した。
レオが群衆の押し寄せた正門に着くや否や、何故か悲鳴が上がった。レオは思わず後ろを振り向いてしまったが、もちろん誰も居なかった……居るはずない。
来た道に向けていた顔を前に戻すと、レオは多くの視線を浴びていた事を知る。皆、レオの一挙手一投足に注目していた。それだけでなく、ご丁寧に銃口まで向けられた。
「銃を捨てろ!!」
「え? あ、はい」
(あっ……。コレ持ってるからか……)
右手を見れば、弾を使い果たした黒光りする拳銃が……。捨てるタイミングはいくらでもあったが、レオはその事をすっかり忘れ、無意識に握り締めたまま外まで持って来てしまっていた。警戒されて当然だった。
特に思い入れは無い。誤解を解くべく、レオは持っていた拳銃を地面に置こうとした。するとどう言う訳か、青空を裂く銃声が後ろの方から響いて来た――。
胸の辺りに湿った熱さ、直後に頭を突き抜ける痛みを覚え、レオは思わず動きを止める。目線を下にやると……着ていた真っ白なシャツが血の色に染まっていた。
「――っく!?」
野次馬のどよめきや悲鳴が聞こえなくなるくらい、レオは気が動転した。歯を食い縛り、胸の傷口を押さえて左手を赤く濡らす。
振り返ってレオは己の目を疑った。今さっき立ち去った校舎の屋上に謎の人影があった。天と地の区別が曖昧になるほどの激痛に脳を支配されるさなか、レオは状況を悟った。
(屋上に見張りが居たのか……!? 屋上にヘリ持って来いって、そう言う事か……! もう1人居たの、かよッ……!!)
どうりで警察の突入が遅れた訳だった。見晴らしのいい所に狙撃手なんか置かれたら、そう簡単には正面突破は叶わない。裏手に回るのも一苦労。どうして連中がヘリコプターを屋上に要求したのか、もっと俯瞰して捉えるべきだった。――いまさら悔いた所でもう遅いが。
鋭い銃声がまたしても街に轟いた。
目にも留まらぬ凶弾がレオの頭蓋を穿つ。――が、一瞬の事だったのでレオに分かるはずもない。敵は走馬灯を見る暇も与えてくれなかった。
暗転し、どこまでも落ちて行く。やがて清き霊魂は光によって導かれ、奈落に住まう闇の住人に掴まれる間際で現世から抜け出した。
流れに流れ、人知れず、眠り獅子は黄金色の草原へと辿り着いた――。
死の先でレオを待っているものとは……?
2017.3.3 誤字訂正&補足
2022.1.16 文章改良




