落胆そして
ーーーーーーームツキの母目線ーーーーーーー
ムツキが生まれて10日が過ぎた。
今日はムツキの祝福の儀!!潜在能力を引き出してもらえる大事な日!!
儀式の日と夫の休みがかぶっていたこともあり、半年待たずに夫婦で行くことにしたのだ。
産後でまだ体はだるいが久しぶりに夫婦揃っての外出と思うとにやけてしまう。
祝福の儀は年に2度、半年おきに行われている神聖な儀式だが、ダンジョン熱で賑わって町になったこともあって信仰心を持っている人はさほどいないし『魔力』のアレイ派、『気』のタイザ派、中立のソル派と派閥があり何を信じていいのか私にはよくわからない。
まして祝福の儀に使われる『祝福の宝珠』はダンジョンでたまに見つかる宝箱からのレアドロップ品であることはこの国の人間なら皆知っている。
ステータスカード自体はダンジョン産のアイテムで作れるけど、潜在能力を引き出してくれるのは『祝福の宝珠』だけとあっては信仰心の乏しい庶民でもソル教を尋ねる。無料っていうのは珍しいけど他の国でも寄付を払って儀式をすると冒険者の方から聞いたことがある。
益体のないことを考えながら鳥居をくぐる。
大事な儀式の日とあって鳥居の先は夫婦で参加している人が多いみたい。
神父様の長い話は相変わらず退屈でしょうがない。
祝福の儀もステータスカードのことも5歳になると通う学校で習うのだからいちいち説明してくれなくたって知っている。
この国は王都のそばにあるAランクダンジョンに生息する固有モンスター『ソルティドック』からドロップする『塩角』という塩の輸出がうまくいっているらしく5歳から15歳までの間、無料で学校に通うことができる。他国に比べると裕福なのはいいが、毎週ある宗教学というソル教の神父様の授業で苦手意識を持つ子が多い。私のことだ。
2時間にわたる説法なんて赤ちゃんに優しくないことをする神父様。
『様』なんてつけなくてもいいんじゃないかと思いながら列に並ぶ。
ようやく自分達の番が回ってきた。
「この地に芽吹く清らかな魂よ、その命の泉より湧き出でる恵みを糧に咲き誇れ!!」
詠唱と共にステータスカードを賜る。
夫が手にしたカードを心躍らせながら見る。
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名前 サワダ ムツキ
魔力 F
魔力属性 雷 F
スキル 鍼灸術(固有)
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魔法が使える!!
初めて見る固有スキルまである!!
「「おお!!」」
他のスキルは‥‥‥ない。
儀式で習得できるスキルは最低でも3つ有ると言われるがムツキには1つ‥‥‥
「「あぁ‥‥‥」」
思わず漏れる落胆の声。
夫も同じ気持ちなのが声から伝わる。
「ステータスカードが身体に馴染んだようですな。」
「ありがとうございます‥‥」
夫の声で我に返る。
帰る足取りが重い。
どうしてうちの子が‥‥‥
祝福の儀が始まって以来、魔力のある者のほとんどは潜在能力として『魔力感知』『魔力操作』の二つのスキルを持っている。
自分の魔力を知覚し、操作することができて初めて魔法を使うスタートラインに立つことができからだ。
操作した魔力を身体の外に放出するだけでも光を生み出す『ライト』の魔法になる。昔はこの魔法の色で各々の持ってる属性を調べたらしい。
放出した魔力を固めるとファイヤボールやヒールなど属性による魔法が使える。
この魔法を使うのに重要なスキルの才能がなかった。
修行によって獲得できるとはいえ、これではスキルを覚えてもうまく魔法が使えないと言ってるようなものだ。
百歩譲ってなかったとしても格闘系や生産系のスキルを持って生まれてくるのが当たり前だというのに、この子にはよく分からない『鍼灸術(固有)』ただ一つ。
固有スキルというのに望みをかけるしかないがそれだけに縋るのはリスクが大きい。
この国ではある程度スキルがないとまともな仕事はにつくこともままならない。
家に着きムツキをベットに寝かせる。くりっとした可愛い目が見つめてくる。
この子を一人前に育てられるのは私しかいない!!そう決意させてくれる。
「大丈夫よ、ゆっくりお休み」
夫が肩をぎゅっと抱き寄せてくる。
寝室を出るとゆっくりとこちらを向く夫。
「一緒に支えていこう。」
夫の言葉に涙がこぼれ落ちる。
見た目は冴えなく口数も少ないが、たまの一言が心を打つ、「あぁ一人じゃない」この人と一緒になってよかった。今でもそう思う。