道すがら
拠点としている町へと戻る。
ただそれだけなんだけどアカリがどうにも不機嫌そうだ。
多分昨日の探偵ごっこ?がうまくいかなかったのが原因だろう。
朝食を食べて馬車を借りようというのに未だに不機嫌。
ど素人の俺たちが何をしようがただただ足をひっぱるだけにしかならないことは俺にはわかるのでこのまま手伝うよりも帰る方がいいことはサキ以外のメンバーはわかりきっている。
アカリも自分が邪魔をしていたことがわかっているようで帰ること自体には納得しているのだが気持ちの整理がついていないようだ。
帰りの馬車に乗り込み今回は護衛を遠慮して御者の方だけを手配してもらった。
子供ということもあり四人掛け馬車で十分収まる。マジックバックに荷物を入れ一台の馬車でゆっくりと帰る。
帰りの道は魔物を退治しながら帰ることにした。
今はホーンラット退治で忙しいためか他の魔物の駆除が全くと言っていいほど進んでいないので、少しづつではあるが魔物の被害が増えているそうだ。帰りに退治してくれるだけでも捜査する間の間引きになるので間接的なお手伝いをすることにしたのだ。
ゆっくりと歩くよりは少し早い程度の速度で進みつつマフユが魔物の気配を探る。
見つけたところで馬車を止めて魔物を退治。離れた場所の時は最低限の護衛を馬車に残して退治しに行くこれを繰り返しながらゆっくりと帰るのだ。
アカリとサキは退治する魔物を親の仇か?というぐらいの勢いで退治している。よっぽど昨日のことを引きずっているんだろうな。
時折見つけるホーンラットのときなんかは特に殲滅速度がすごい。どうしても今回の事件を解決したかったという思いが伝わってくる。なんとも難儀なものだ。
一日で進んだ距離が異常に短い。これは魔物を見つける数が多いことを意味している。予定の10分の1も進んでいないのでまだ街の姿が小さく見えるのだ。どんだけ魔物増えてるんだか。
今日の野営準備を整えて警戒する。外の夜警は初めてなんじゃないか?ちょっと緊張するが二人づつで交代しながら警戒に当たる。俺のペアは御者のお姉さんだ。そうお姉さんなぜか女性の御者を選んでくれているのだ。俺以外が女の子だからという配慮なのだろうが、俺は女性比率が上がってちょっと肩身がせまい。
カサカサ
ん?なんかいる?ご飯も食べ終え初めの警戒は俺と御者のお姉さんであるミサキさんと枯れ枝を集めていると森の方で物音がする。感知して見ると魔物というわけではなさそうだ。
人?
なんでこんなところに人がいるのだろうか?不思議に思いつつも一人で行動するのは危ないのでミサキさんに相談する。
ミサキさんは元冒険者らしいがDランクからの壁にぶち当たってから御者として働くことにしたらしい。ランクは俺たちより下ではあるが、経験は俺たちとは比べ物にならない。12歳から10年ちょっと冒険者をしていた経験に俺たちよりもランクが下である彼女は警戒することと相手の力量を探って撤退することにおいては俺たちよりも鋭いそうだ。
俺たちはなまじダンジョン内で鍛えられてからこの辺の魔物に対して特に恐怖も感じないようになってしまったのでこういう時の対処がどうにも甘いのだ。
サダさんに治すように訓練されてはいるので警戒自体はしっかりできるがどうにも弱い魔物でも軽快に引っかかるとやりすぎてしまう嫌いがある。野生動物にはさほど警戒しないが、動物であっても熊みたいな凶暴なものの警戒も怠ってしまうこともあり苦手分野である。
昼間であるならそこそこ力加減も調節できるのだが夜ではなぜかやりすぎることが多い。なんでなんだろうか?
俺は特に戦闘が苦手なので手加減ができない。だって武器に頼ってんだもん!!
戦闘技術はおそらくDランク相当のミサキさんにも及ばないと思う。
相談した結果夜の森の中は危ないのでマフユを起こしてどうにかしてもらうことにした。
こんな時はあいつの力は絶大だ!とはいえ手加減があまりできそうにないので隠れている人が何かおかしな行動を取った瞬間手足のどれかが悲惨なことになるのだがまぁ仕方ない。
鍼灸で治せるものであれば治してあげれるんだがさすがに傷になったものを瞬時に治すような治療はできないのでもしなんかあったら我慢してもらおう。
そう思いつつ様子を伺っているとカサカサとしている場所からみすぼらしい格好の男性が出てきた。かなり顔色も悪い。なんだろう?
「たす…助け…て……」
そういうとばたりと倒れてしまった男性。
とりあえず男性の体調を確認する。肌の色は暗くてよく分からない。
声はかなりか細く覇気がなく、体内の氣もかなり減っているような気がする。
警戒しながらゆっくりと近づいてさらに詳しく調べる。
体はキンキンに冷えてしまって手足が震えている。
脈はほとんど触れないほどに弱り切っていて病名をつけるにも「気虚」というほかどうしよう?というほどただただ気が不足している。どの臓腑が弱っているとかいうレベルではない。強いていうなら氣を補うために食べ物をしっかり食べないといけないので脾胃虚弱?なのだろうか。
鍼灸では土王説であることが多い五行の中で一番重要なのが土という説だ。
地面がしっかりしていないと。ということなんだろうが、鍼灸では土対応する臓腑が脾と胃である。
これは食べ物を消化吸収ができなければすぐに生命活動を停止してしまうために一番重要であると考えられているためである。この重要な器官が弱ってしまうとしに限りなく近づいてしまう。
この男性はまともにご飯を食べていなかったのではないだろうか?
かなり気が弱々しくてもう死にかけといっても過言ではない。その辺の治癒魔法や魔法薬ではすでに助からない域にまで生命活動を低下させてしまっている。
俺はすぐに治療を開始した。正直鍼灸でも元気にするのは難しい状態であるが何もやらないという選択肢がなかったのだ。体を温めるためにお灸、ご飯を食べるために鍼で食欲を出させて消化を助けるツボ。それから氣を補わないとダメだろ。
どうしたら助かるのか考えながら治療の順序を頭の中で組み立てて行く。
対応んが低下し意識が朦朧としているのでまずは体温を上げよう。
ちまちまお灸をひねっていても間に合わないので箱灸と棒灸を使いつつ焚き火に当たってもらおう。
間接的に温めるのですぐに温まるようなものではないが今はゆっくり体を温める方がいいだろう。急な体温上昇はヒートショックを起こすことがあるからな。
ヒートショックは冬場とかに暖かい部屋から寒い外に出た時に心臓が「ドクン!」と苦しくなったりするような現象のことだ他にも症状はあるがまぁ寒暖の差によって起こる体調不良みたいなものか。
あれ?これ魔物退治にも使えるな。
今はそんなこと考えてる時ではないか。
体を温めている間に今度は食欲を出させないといけないので万能ツボ『足三里』かな。
食欲増進、消化吸収促進、氣を補うの三拍子揃っている。
まぁなんて万能なツボなんでしょう!!
この世界に来てから『足三里』ばっかりだな!!健脚のツボで疲労回復の効果もあるし消化器系の問題もバッチリ!!
胃潰瘍とかならご愁傷さまとなるがまぁこんだけ衰弱してれなそんなこともないか?
あとはどうしようか?氣の海『気海』とか氣の巡りをよくする『膻中』あたりだろうか?
それとも無難に『合谷』とか『太衝』でいいのだろうか?ここまで衰弱した人の治療はしたことないからよくわからんな。
とりあえず栄養失調の人を治療する感じで治療して行くことにするかな。
治療を進めて行くと徐々に手の震えが収まり浅かった呼吸が落ち着いてくる。
体が温まって来たんだろうな。しばらくするとお腹がぐるぐると音を立てはじめたのでとりあえず氏にはしないだろう。
それにしてもなんでここまで衰弱していたのだろうか?
どうしてこんなところにいたんだろうか?
とりあえずは朝まで起きなさそうなのでこのまま警戒しつつ夜を明かすことにした。