魔物騒動
俺たちは領主邸に着き次第ホーンラットについての話を領主様に報告した。
一冒険者で今回は治療に来ただけなのだが暇つぶしがてらの依頼でまさかこんなことになるとは……
報告は何者かが冒険者と魔物使いを使って城壁の破壊工作をしていたことをだらだらとそれっぽく話してみたはいいが何が目的なのかがわからないことと、衛兵か騎士かわからないが街の門にいた隊長さんにとらえた犯人を引き渡したことを伝えた。
領主様はしばらく目をつぶり考えるそぶりをしたあとゆっくりと口を開く。
「そうか……今回の件感謝する。治療に引き続き領内の犯罪まで解決に導いてくれるとは……」
そういうとまだ何か言いたそうな顔をしつつこれ以上巻き込みたくないのか口をもごもごと動かしながらどうしようか思案している。
「何かわかったことでもあるの??」
あ!アカリの質問症候群が出た!!
「聞いてくれるか!?」
領主様はパァっと表情を明るくさせる。
ちょっとこれやばいんでない?巻き込まれる臭くない?
俺は少し苦い顔をしながらもアカリが聞きたそうにしているので話を聞くことにした。
マフユとサキに至っては何か面白そうな匂いでもするのかワクワクした感じでイクミは不安んげな表情をしている。
サツキに至っては俺と同じで呆れたように肩を落としている。
「娘がトリス商会に嫁いだことは知っているであろう。私も領内の家に嫁ぐことは嬉しい、少し無理をすれば会えるのだからな。二人は恋愛結婚でな。うちと商会が懇意にしていた関係で出会う機会があったのだろう。いつのまにか二人が付き合っていたよようでな、何度か買い物に行くだとか最近はやりの芝居を観に行くだとか言っていたんだがてっきり友達と行くものだと好きにさせていたがある日結婚させて欲しいとうちに来た時にはびっくりしたもんだ。うちも一様は貴族なのでな他家との縁談やらの話もあってそろそろ見合いか何かしようと思っていたところにそれだ。最初は貴族が恋愛結婚などとも思わないでもなかったのだが…娘があんなに幸せそうに笑ってるところを見てしまうとな。領外の貴族ともなれば迂闊に会うこともできなくなるし、孫が生まれてもこれまた会うのに苦労するであろう。そう思うとこれはこれでアリなんじゃないかと思ってな。長男が家督を継いでくれるというし……」
「あの〜何が言いたいのでしょうか??」
領主様が娘の結婚秘話を話し始めたので水を差す。
アカリ達は目を輝かせて聞きながら「おぉ!」「それでそれで!」「貴族と商家の恋愛!」と興味津々だが話がどんどんそれそうなので口を出したらなんか白い目で見られてしまった。
いや俺そういうの興味ないんで。だって見ず知らずの、いやこないだ知った程度の人の結婚秘話って何が面白いの?
前世でもこういうのが好きな女子がきゃっきゃ言ってるのが理解できなかった。ドラマや小説ならまぁいいのだが現実の話を聞いたところで特にどう感想を言っていいのかわからない。この人がどうあの人がどうと言っても実在している人に何かいうのがちょっと気が引けてしまっていまいち面白くないんだよ。
「あぁすまんすまん。何が言いたいかというと他家からの縁談を全て断ってしまってな。うちの娘は美人だろ?どこの貴族も嫁に欲しいというのだ。正妻ならまだしも側室に妾にという不届きものもいたぐらいだ!!あいつらはなんなんだ?貴族だから一夫多妻制であるのは致し方ないのかもしれん。後継がないと困るからな。ただうちのゲッコウ領に限って言えば領内は一夫一妻制なんだ。どんなに優れた商家だろうがうちを拠点として領民となって「スト〜ップ!」」
これまた何かに火がついたのか話が止まらなくなる領主様。一体何が言いたいのやら。
いやちょっとは予想がつくんだがこっちからいうわけにもいかない。叛逆だのなんだの言われたくないからな。
さっさと本題に入ってもらいたいものだ。
「領主様お気持ちはわからないでもないです。他領との文化の違いがあるんですよね?元のルーツというか人種というかこの国の建国以前の文化のことはなんとなくわかりましたから本題に入っていただいても?」
ちょっと不敬かもしれないが領主様のそばに控えているフジミヤさんも眉間にしわを寄せていたのでこれくらいは大目に見てもらおう。
「あぁこれはすまん。どうにも歳をとると余計なことを話したくなってしまう。あぁそうだそうだ、犯人の目星だついているという話だったな。先ほどから言ってる娘に縁談を持ちかけて来たものの中には正式に結婚の書類を作成するまで何かとちょっかいをかけて来た家がいくつかあってな。トリス商会の変な噂を流して見たり、取引を止めようとして見たりな。まぁあそこと取引しなくなれば自分たちの財布が痛くなるしただの見栄なんだろうが……いくつかの家が嫌がらせのようなことをして来たのだ。結婚してしまってからはほとんどそんなこともなく、たまに他領からトリス商会が値上げしただの品質が悪いだのの言いがかりをつけてくる家もないことはなかったのだが差した問題でもない。ただ、妊娠してからは少し嫌がらせが増えての。初めは言いがかりの延長だったのだが、私の『腰鳴上』を患っているという話やらを流し始めて少しばかり面倒なことになった時もある。」
あぁなるほど。
貴族の家格的なのがあるから商家に嫁がせたのがどうたらこうたらとかもあったんだあろうな。
平民だとか言いたいんだけど商会が大きくって他領の中でもトリス商会がなければ領の運営に支障が出るからそういう嫌がらせだったんだろうな。おそらく領内の誰それがトリス商会のどれを使ってけがをしただのすぐ壊れただの行って来たんだろうな。
妊娠をきっかけになぜ嫌がらせが強くなったのかわからんが政に関わる人は『腰鳴上』厳禁というのがあるからそれを持ち出したのはなんでだ?
嫌がらせにしてもタチが悪いな。
「『腰鳴上』は嫌がらせにしては悪質であるし妊娠とは別件かとも思っていたのだが噂の出元を調べると妾によこせと行って来た貴族だというのがわかってな。あの家は女好きで有名だが断られると蛇よりしつこい嫌がらせをするのでも有名な家だったからだろう。どんどん悪質な噂を流されてしまった。挙句に王都に呼び出されて腰の診察を受けさせられてしまったわ!!」
そういうと領主様は大声で笑い始めた。
今では笑い事だが俺が治してないと笑えないだろ!!とツッコミたい。
「まぁ今更診察されたところでなんの問題もないのだがな。私は確か…『ぎっくり腰』というものだったのであって『腰鳴上』ではなかったのだしな。まぁそういう訳でおそらくこの件もその家がしでかしたことの可能性が高い。ホーンラットもその家が領主を務める地域に生息しているしほぼほぼ間違いないだろう。」
そこまで話切ると俺たちを見据える。
「でだ。ここからが本題なのだが……未だ証拠が弱いのだ。明日1日でいいのだが、他にも潜り込んでいるものがいるか調べてくれんか?あまり巻き込みたくはないが……ホーンラットの駆除が未だ終わっておらん。人海戦術で駆除は進めているがそのために拠点がどうにも絞り込めん。君たちが捕まえて来てくれたのはおそらく末端であろう。それに小屋の規模からして其奴らのみでは数が合わんのだ。どうにか頼まれてくれんか??」
ほらでた!
厄介ごとだ〜。治療なら喜んでするんだが、こういうのは正直俺のできることがほとんどないんだよ。
お留守番はできそうにないし……アカリは受ける気満々。
「受けるの!!明日頑張って悪党を懲らしめるの!!」
うわ〜受けちゃったよ。なんで最近こうも悪党を懲らしめたがるんだろう?
なんかあったかな?アカリが依頼を受けると他のメンバーもなんだかやる気に満ちている。
どうしてこんなに悪党退治をしたいんだか……わからん。