経過観察
鍼灸治療で逆子が治ってから1日が経った。
治ったと行ってもまたひっくり返ることもないとはいえないので何日か様子を見る必要がある。
(できれば出産までだが居心地が悪いので途中で帰りたいのだ)
体の様子を見て脈をみて今のままだとまた逆子になる可能性は低そうだなと思いつつ昨日のトリスさんの体調も気になったので領主様に頼んで商会の場所を教えてもらって行くことにした。
途中何度もお抱え医師のトモヤ先生があの治療はどうたらこうたらと質問して来てめんどくさかった。
昨日のあの胡散臭い人を見るような目はどこに行ったのやら。
めんどくさいが説明しないと解放してくれないので簡単な説明で茶を濁したがそれでも3時間ほど拘束されてしまった。
結局トリス商会に行けたのは昼を回ってからになってしまった。
トリス商会には俺とアカリ達だけで来たのだが、お店に入るやいなや子供の来るところではないと追い出されてしまった。しかも一見さんお断りなんだそうだ。
領主様は普通に入れるようなことを言ってたように思うのだが……なぜだ?
そういえば前世の頃から思っていたのだが、一見さんお断りでそうやって利益を出してるんだろうか?不思議だ。
でもどうしよう。昨日の治療から体調がどうなってるのか気になる。悪化してたら大変だ!!
鍼灸はよく薬と違って副作用がないなんて言うアホな鍼灸師がいるがあれは間違いだ。
薬と比べれば確かに副作用は少ないが副作用が出ることはある。
え?なんで?嘘でしょ?
なんて思う方もいるかと思うが、鍼やお灸をして体調が変わるのにどうして副作用がないと思っているのだろうか?
そっちの方が不思議だろ?副作用のない治療って体になにも作用していないと声だかに言っているのだ。効果がないと自分で言ってるのと一緒じゃないか。
患者さんの体調によって使うツボを変えるのも、以前言ったように逆子での治療の時期や使うツボの刺激量を気にするのもその副作用が起きず、治療効果が最大になるところを狙っているからだ。
整体だろうがマッサージだろうが体に何か作用する以上は何か副作用になるものはある。それを限りなくゼロにすることはできるが、ないと言う人は信用ならんと師匠から教えられた。
例えば鍼なら治療したところが突っ張るように張った感じが残ることがあるのも副作用の一種だ。整体なら骨が脆い人は骨折の可能性だってあるし、マッサージでは揉み返しなんてのも副作用または誤治(誤った治療)と言うものだろう。
とはいえ体の中にあるもので治療しているので体への負担が少ないことには違いない。
話が逸れたが、疲労回復のようなものは回復力を上げる程度なので副作用が起きることは少ないのでいいのだが、会長さんのような進行した病であると人それぞれ症状や進行度、体質が違うので使うツボによっては効果が強すぎたり弱かったりするので強すぎると副作用が、弱いと効果がない。
俺は治療するときは体質を把握するまでは極力弱い刺激、効果の弱いものから順番に使って行くことにしている。
その結果この鍼灸効果ないんじゃない?なんて言われることもあったが効果が強すぎて体調を崩すよりはいいと思う。
鍼灸に行って皮膚が炎症した、めまいがした、吐き気がしたという方に会ったことがあるが、俺が治療したときはそんなことはなかった。
多分そういう症状を訴えた方が治療に行った鍼灸院は強い刺激で効果さえ出せばいいと思って治療しているんだろう。
治療さえすればなにをやってもいいわけではないだろうと俺は思う。
とまた話が長くなってしまいそうだな。
さて追い出されてしまってはどうしていいのかわからんな。一旦領主邸に戻って相談するか。
そう思って来た道を引き返そうとしたところで店から昨日存在感が薄かったマナミさんの旦那さんが出て来た。
「あ!昨日の確か…ムツキさんだったかな?」
「どうもこんにちは、今日は奥さんのところじゃなかったんですか?」
「昨日の今日だから心配ではあったんだがさすがに仕事もあるからね。今から様子見に行こうと思ってたんだ。」
「そうなんですね。あぁそうだちょうどよかった。実は昨日会長さんに治療をした経過を見たくて来たんですけどお店に入ったら子供は入れないと言われまして。」
「ん?あぁそうか。うちは昔からのお得意さん以外は紹介で取引先を増やしていてね。信用できる人との商売しかしていないせいか警備のものが若いと見るやすぐに追い返してしまうこともあってね……人を見かけで判断するなと行ってるんだけどね。今日は新しく雇った警備の人だったのかな?気分を害したかもしれないが申し訳ない。っと父の治療経過だったね昨日から調子がいいのか機嫌が良くてね朝から商談にあちこち行ってるんだ。もうすぐ帰って来るだろうから中で待っててくれるかな?今日は妻に会うのはお預けかな。ははは」
「あ!ではまた明日にでも出直しますよ。」
「いやいやいいよ。君にはお世話になってるんだ。」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えさせていただきます。」
そういうと旦那さんと一緒に商会に入っていく。さっき俺たちを追い出した警備の人がまた近寄って来たがそれは旦那さんが「この子たちは大事なお客様だ。」と行ってくれたので警備の人はアワアワとしていた。
かわいそうに…自業自得とはいえ内心穏やかではないだろうな。
仕事なんだからしょうがないだろうが確認ぐらいしてもいいような気もするな。まぁ今後の成長になればいいんじゃないかな?って俺も何様だよ。
旦那さんに案内されて応接室らしきところに通されるとお高いだろうお茶とお菓子を出してくれた。
おぉ!
お茶をいただくとほのかな苦味と鼻に抜ける香りにリラックスする。前世の煎茶のようなお茶だな。
これは薄皮饅頭か。金箔っぽいのが乗ってる。金箔ってなんの味もないし消化できないのになんで載せるんだろうなんて無粋なことを思いながら一口。
自然な甘みでこのお茶によく合う。舌触りの良い滑らかな餡がって下手な食レポしてもしょうがないな。
そうこうしていると会長さんが帰って来た。
「おぉおぉこれはムツキくん!!!いやー今日はすこぶる調子が良くてね!!助かったよ!!」
部屋に入るなり俺の手を取ってブンブンと振りながら挨拶をして来る会長さん。
なんか異様に元気だな。鍼効きすぎか?
血色は良さそうだし、皮膚の黒いのも若干ましになっている。
「体調が良かったのなら良かったです。夜ねれなかったり、体が火照る。体のだるさなんかはないですか?」
「あぁ問題ない!むしろ調子が良すぎて怖いくらいだよ!!」
「それは良かったです。でも皮膚の色からするとまだ喉の渇きはさほどましになっていないのでは?」
「そうだね。確かちょっとましになった気もするがよく喉が乾く。」
「その頻繁な渇きが収まるまでまだ完全には治っていないってことなので無理はしないでくださいね。あとは野菜をよく食べるのと、軽い運動をしていただけると治るのが早くなるのでお願いします。あと数日はこの街に滞在しますのでその間に体調に変化があったら教えてください。俺のできる範囲で対応いたしますので。」
「わかったよ。何から何までありがとう。私こそ力になれることがあれば何をおいても助けよう。」
「ありがとうございます。それではまた。」
会長さんの体調は思っていた以上にいいみたいだ。
治療がうまくいっていたのに安堵してお店を出るとアカリ達と一緒に観光をすることにした。