指名依頼
書けば書くほど想定と違う内容になるのはなぜ?
拠点となる宿を決めた俺たちは今後の方針を決めることにした。
もう高ランクになってしまっているのでこれからどうしようか全く考えていなかったのだ。
世界を旅して回りたいだとか、ダンジョン制覇だとか思い思いのことを言い合って気づいたのだが、俺は一体何をしたいのだろう?
戦闘はそんなに得意ではないが自衛ぐらいはできるようになった。鍼灸治療をしながらただ生活したいという目標はすぐに叶うだろうが……
これってもうやることなくね?
そういえば俺ってなんでこの世界に転生したんだろう??誰かに召喚されたわけでもなく神様にあったわけでもない。
何か理由はなかったのだろうか?
宗教とかでは魂はめぐるとかいうがどうなんだ??
これで俺が何もしなければ世界がどうにかなることもないだろうし……
自分の世界に入って考え事をしていると今後の方針が勝手に決まってしまっていた。
この町のダンジョンの踏破を目標にするらしい。
まぁ妥当な方針かな?俺の持ってる指輪がマッピングしてる区画があるから他のダンジョンに潜ることを考えるとそれが効率いいし俺も反対はしない。ただ俺の能力的にはかなり厳しいような気もするのでお留守番したい気分ではあるがな。
鍼灸がダンジョンでどれほど役に立つよ??
疲労回復は大事だけど戦闘中ってなんの意味もないぞ!!
錬丹術だって特に役に立つ気もしない。
俺って足手まといじゃね??鍼灸院でも構えて仕事してた方がいいような……
いかんいかん。最近戦闘訓練がうまくいかないからってネガティブになってるな。
みんながチートすぎるんだよ!そういうことにしておこう。
当面の方針も決まったところでダンジョン探索に出かける。
今装備してるのはダミーの武具だ。魔鋼を使ってはいるものの純度はギルドから依頼されて使ったものに合わせてある。
俺が作ったものと比べると強度は2割ぐらい落ちる。用途によっては純度の高いものを使わない時もあるのだが、武具に使う時は純度の高い方が硬く程よい柔軟性がある不思議物質になる上魔力を通すことで重さも変えられるのがいいのだが、今使ってるのはあまり柔軟性がないので動きにくい。体の成長とともにみんな軽鎧風に作ってあるので関節の可動域に制限が出ることはないが動きにくいことには変わりない。
ガチャガチャ音を立てながらダンジョンに向かうとそこかしこでこの町に来たての冒険者や、ランクの低くも高くもない中堅の中でもガラの悪い連中が俺たちの陰口を言っている。
サダさんのおかげでいい装備品がダンジョンで手に入っただけの子供だと思っているようだ。
サダさんに鍛えられたのは間違いないが装備品は俺が作ったしもともと俺以外は才能の塊だったんだけどね。
言いたい人は好きに言ってればいいと思う。
この五年でこのダンジョンもかなり探索が進んで俺たちと灰蝙蝠、それから狼牙という3パーティーが最深部に潜っているのだが現在20階層まで探索が進んでいる。
公には俺たちはまだ浅い層で訓練していることになっているために俺たちは拾った装備のおかげと言われている。
今日からは俺たちもこそこそしなくてもいいため堂々と探索していくことになるが、浅い3層までで訓練していることになっているので今日は3層から順番にサクサク探索を進めていくことになる。
そういえばこのダンジョンって何層まであるんだろうか??
猛スピードで探索しながら罠の位置もほとんど分かっているのでどんどん進んでいく。
だいたい2時間で1つの階層をクリアするペースだろうか?
魔物が出てもなんの障害にもならないかのようにバッサバッサと叩き切り、罠のちょっとした子供のいたずわにうっとしいと思う程度に解除しているパーティーってどうよ?
昼前に入って来てから6時間ほどは潜っているが今6層を踏破したところだ。地図があるとはいえ魔物との遭遇に罠、他の冒険者を避けて進んでいるのだからこれぐらいが普通だろう。
ちょっと早いが無理する必要もないので今日はこれぐらいで帰ることにしよう。
ダンジョンから出てギルドへと向かうと今日の成果を換金していると鍼灸治療の依頼が入っていた。
領主様からの指名依頼だ。
いつぶりだったかな?確か中二病的な名前の子の世界では不治の病と言われるぎっくり腰だったんだよな。また腰でも痛めたのかと思いつつ指名依頼の説明をカウンターで聞こうと思ったら応接室で話すと言われた。
そういえばこの世界のぎっくり腰って伝染すると思われていて政治家はぎっくり腰になっただけで引退の危機になるんだったか??
応接室に向かうと何処かで見たことのあるようなおじさんが待っていた。
「領主様の使いとして参りましたフジミヤと申します。」
そうそうフジミヤさんだ。隠密風の人だったな。
「お久しぶりです。冒険者のムツキです。」
「いやはや、私のことを覚えてくださってるとは!!おかげさまで領主様の体調もかなりいいのですよ。」
体調いいの?腰痛治すんじゃないのか。まぁあの一回で完全に治っているなら嬉しい限りだな。前世だったらあと二〜三回は通ってもらって様子見てたところだと思うんだがスキル補正マジパネェ。
「それはよかったです。スキルの思うまま治療していたのでどうなったのか心配だったんですよ。」
「ははは!スキルはそう言ったものですからそれでいいんですよ。それはさておき今日の依頼なんですが。」
スキルがそういうものって言われてもよくわからんが感覚的にできるってことかな?そういう認識でいいのか??
個人的にはできるようになってから経験をいくらか積んだ時にある程度スキルが補助してくれるもんだと思ってたんだが違うんだろうか?
まぁいっか。
「治療ってことでいいんですかね??」
「ええ。治療は治療なんですが、今回は領主様のお嬢様をお願いしたいのです。」
「お嬢様ですか、どのような治療なのかお聞きしてよろしいですか?」
「はい。領主様には2年前に領内の商家に嫁がれたお嬢様がいらっしゃるのですが、そのお嬢様がめでたくご懐妊されたのです。ご懐妊されてからは29週経っているのですが先週領主様お抱えの医師に診察してもらったところお子様が天地帰りしているというのです。天地がえりしてしまった子は生まれてくるときの死亡率が著しく高いらしく、最悪の場合母体も死に至るとのこと。天地がえりを治す治療も薬も今の所はないと医師は言うのですがどうにか治す方法はないかと調べていたところふとムツキ様のことを思い出しました。不治の病とも言われている腰鳴上を一度の治療で直してしまったあなたでしたらもしやと思い足をあ混んだ次第です。」
天地がえり?もしかして逆子かな?
確かに逆子を治す薬なんてないよな。治療も体操とかはあるけどそれも確率の問題だし、鍼灸での治療では結構確率が高いけど……
正直俺逆子治療の経験ないんだよなぁ。
いやどうすればいいか知ってんだけど経験がないんだよ。
使うツボってのもいくつかあってしかも体調や何週目かによってどのツボを使うかが違うんだ。
間違ってしまうと流産の確率が上がることもあって前世では間違った治療をホームページにあげてる鍼灸師もいたぐらいだ。鍼灸の免許を持ったものでも間違ったツボを使う難しい治療といってもいいんじゃないかな??
逆子に関してはツボのもんでも誤解を受けやすい書き方をして間違った治療をしている人も多いんだから経験がない俺としては断りたいが……
何事にも初めてはあるしやるしかないか。知ってるのにほっとくのはもっとダメだよな?
「…患者さんの状態を診るまではなんとも言えませんが治療法は確かにあります。ただ経験がないので必ず治るとまでは言えませんよ?」
「おぉ!!治療法をご存知と!!!その治療スキルは素晴らしいですな!!!この国有数の医師ですら治療法は知らないといったのですから方法を知っているだけでもありがたい!!先ずはお嬢様を見ていただくと言うことで構いませんのでご一緒に来ていただけますか??」
「わかりました。ではパーティーのみんなにもそのことを伝えて一緒に行くと言うことでも構いませんか?」
「ええ、いいですとも。それでは明日には領主様の住まわれる『ゲッコウ』の領主邸へ出発といたします。馬車をご用意していますので急ぎで1日もあれば着くかと思います。」
馬車で急いでってことは普通だと2〜3日ぐらいはかかるんだろうか?馬車は道を選ぶから歩きだと2日かもしれないけど以外と近いのかもしれない。この町から出たことないし、まともな地図もないからよくわからん。
灰蝙蝠と『筆者の指輪』を交換したから地図はあるにはあるんだが距離感がわからないし山なのか丘なのかもわからない。不思議に思って聞いて見たら記録する人の想像力や空間の把握能力によって山や川の大きさ、深さが記録されるそうだ。今まで灰蝙蝠のみんなが持ってた地図の出来が一番いいものらしく、地図作成の依頼なんかも受けてたらしいが俺が作った地図の方が見やすくて山の高さもわかる地図になっている。
魔道具の不思議だな。使う人によってこうも性能が変わるのだと知って面白いと思う反面誰でも使えるものではないのだと落胆したものだ。
そんなことはどでもいいか。みんなと依頼について話をするとダンジョンを除くと初めて違う土地で過ごすことにワクワクして遠出の用意をすることになった。