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ダンジョンからの帰還

転移を開始すると一瞬の浮遊感と共に視界が歪みめまいにも似た気持ち悪さがこみ上げてくる。

転移のたびにこんな感覚に陥るのはごめんだなと思いつつ辺りを見回すと見覚えのある彫刻がそびえ立っている。


なんだか懐かしい気持ちになるな。

一体いつぶりに見るのだろう??そう思わせるほどに濃い時間を過ごしてきたらしい。

そこはダンジョンの見学のために入った大広間だった。転移でここに出られる保証はなかったがどうやらちゃんと出ることができたようだ。とは言えまだダンジョンの中ではあるし、あの大広間が何階層に移動してるかなどわからない。

少なくともさっきまでいた階層よりはマシではないか??という気持ちがある程度なのだが少しホッとしたのは俺だけではないようだ。

皆一様にホッと一息吐いて辺りを見回している。


しばらく辺りを見回しているとなんとも言えない懐かしさとは別に違和感を覚える。

見学に来た時と何かが違うのだ。

木の形は正直覚えていないが、蛇は木に絡みついているのは同じ。蛇がくわえている石版も書かれている説明も記憶の中となんら変わっていないようには思うのだが何かがおかしい。


「気持ち悪いな。うん。」


サダさんがポツリとつぶやいた。

どうやら違和感を覚えているのは俺だけではないようだ。

他のみんなもその言葉を聞いてからは気を引き締めたように真剣な顔で辺りを見回す。

何かが違うのだが何が違うのかがわからない。俺たち以外に人がいないからかとも思ったがどうもそういうわけでもない。何度も何度も周囲を見渡してようやく一つの違和感に気づく。


出入り口が一つしかない。


以前はこの広間までは魔物は出現せずにここから先のダンジョンからが本当のダンジョンの入り口だと行っても過言ではない作りになっていた。

外から入ってくる一本道を抜けてこの大広間からダンジョン内に本格的に入り、上の階層か下の階層の探索に行くような形だ。

だがここには出入り口が一つしかない。それも扉がついているのだ。

これではこの大広間は転移以外の目的に使うことができなくなったのではないだろうか?

それに気づくとみんなに話し違和感の正体に気づくや否やサダさんの表情が少し曇る。


「もしかしたらここから出口までもかなり距離があるかもしれん。うん。」


俺も実はそのことは考えていた。ただみんなもうすぐ脱出できるつもりでいたのでもう少しの間精神的疲労が取れてからいうつもりだった。

これは人それぞれ考え方は異なるのだろうが、こういう可能性を言うタイミングというのは難しいものだ。

希望が見えて来てからこの先どうなるかわからなくなるような考察をいうにはなかなか精神的に堪える。

前世で修行時代にも患者さんの治療がうまく進んでいる時に急に出て来た他の症状が鍼灸では治せないものである可能せを示唆した時など今までの治療はなんだったのかと怒られたものだ。

治している途中で違う病気が発症してしまったと言っても患者さんはそのことについてわからないのだから仕方ない。

今もサダさんが脱出できる可能性の高い転移を使ってここまで来たにもかかわらず実はそんなに表層に転移できていないかもしれないと言われたのだ。

みんな話が違うと思っていてもおかしくないだろう。口には出していないものの皆転移してくる前よりも暗いような気がする。


みんなの頭が整理できるまでは動くべきではなさそうなので一旦ここで休憩することには下が、先ほども休憩して食事も装備の点検も済ませてしまっているので特にすることもなくソワソワと落ち着かないようだ。

俺はというとこの部屋が以前の大広間とどう違うのか再び見回しながらウロウロと歩いている。

実際サダさんがいう通りの可能性もあるのだがなんとなくもうすぐ外に出れる気がしている。なんでかと聞かれてもわからないがおそらく空気中に含まれている魔素の濃度が下がったからだと思う。

竜がいた場所はかなり魔素の濃度が濃いように感じ、上がってくにつれて魔素が薄くなっている感じがしていたのだ多分俺のスキルレベルでないと感じ取れないぐらいごくごく微量な変化ではあったのでみんなは気づいてはいないと思う。それを考えるとこの部屋はあまり魔素があるように思えないのだ。転移に使っていると言われればそれまでなのだろうが、さっきのセーフルーム魔素濃度よりもここの方が圧倒的に薄いので多分もうすぐ脱出できると考えている。


そんなことを考えつつまだ何と無く違和感を感じる部屋の中を歩いていると男性と女性の石像が木の裏側に立っているのを見つけた。これも違和感の正体なのかもしれないが、さっき転移して来た位置からは死角になって見えないので違うだろう。大きなリンゴの木に蛇、男女の像とくれば……初めてこの木を見た時にも一瞬頭によぎったが前世の神話にそっくりだな。

そいえば石のリンゴを手に入れてたけどこれってこの木についてる『禁断の果実』とは違うものなんだろうか?

ふと疑問に思い石リンゴを取り出してみるが特に何も変わった様子もないのでカバンにしまう。


そろそろみんなの気持ちも落ち着いて来た頃だろう。

みんなのところに戻ると探索準備が終わって顔も引き締めてた状態で待っていた。

待たせたことを誤り大広間を後にする。


洞窟の中は一本道がしばらく続きT字路担っていた。どちらかが出口に続いているのだろうと思いどちらに進むか思案していると右側の通路から足音が聞こえてくる。


カツン、ザリ……カツン、ザリ………


なんだか慎重にこちらに近づいてくるような音だ。

近づいてくるにつれて足音が人型の生物であることがわかる。魔物であればこんなに慎重に歩いてはいないだろう。おそらく人であることがうかがえるが、俺たちと同じ進化に巻き込まれたものなのかそれとも外から進化後の様子を調査しに来た冒険者なのかどちらかである可能性が高いのではないだろうか?

ゆっくりと近づく足音に警戒しつつも人がいるということに安心感を覚える。

人影がいくつか現れるとこちらを警戒してなのか戦闘体制に入られてしまった。


「灰蝙蝠のサダだ、こちらに敵意はない!!うん。ダンジョンの進化に巻き込まれてしまったから脱出のために探索している!!うん。」


サダさんが前に出て人影に話しかけると戦闘体制を解いて向こうのリーダーらしき人がこちらに両手を上げて話しかけて来た。おそらく敵意がないことを示しているのだろう。


「俺は『狼牙』のガロンだ!俺たちはギルドの依頼で進化が終わっているのか調査に来たところだ!!あれから10日経ったが静観しているものは脱出して来たものは10名ほどいる。よく生きていた!!この道は今の所魔物が出て来ていないそのまま脱出するといい。」


日にち感覚が狂っていたのがよくわかる。どうやら10日ほどしか経っていなかったようだもっと経ってる気がしていたのだが緊張状態でわからなかったのだろう。どうりで各階層の魔物の強さがめちゃくちゃだったわけだ。あのまま待機してたら死んでいたかもしれないと思うとゾッとする。


「久しいなガロン。うん。うちのパーティーがどうしてるかわからんか?うん。」

「ちょっと痩せたか?お前がダンジョンごもりをしたって聞いて驚いたよ。ハハ!まぁ……あいつらも巻き込まれた子供達のことを心配してたな。お前はひょっこり帰ってくるなんて笑いながら酒を煽ってたよ。みんな酒は苦手だったはずなんだがな……」

「そうか……世話をかけたな。うん。」


二人は知り合いのようだ。照れ隠しなのかわかりにく労いの言葉をかけている。

その後も彼らのパーティー全員と一言二言会話を交わしながら、俺たちにも「よく頑張ったな!」「お前たちも立派な冒険者だ!!」なんて声をかけてくれた。

やっとここから出れるんだなと思うと嬉しい半面もうちょっとワクワクしたかったと思ってしまう俺はどうかしているな。

狼牙のみんなと別れてから10分ほど歩くと外の光が見えてくる。ダンジョン内の奇妙な光ではない自然光だ。

眩しいが暖かい気持ちの良い光が目に入って少し痛い。

帰って来たんだと思うとツーっと涙が溢れて来た。前世から考えるとサダさんと大差ないほどの人生経験があるはずだがよっぽど不安に感じていたのだろう。アカリたちも目に涙をためている。

外に出るとギルドの職員と数組の冒険者パーティーがダンジョンの警戒をしていた。

俺たちが外に出た瞬間は少し緊張が走ったがすぐさま労いの言葉をかけてもらい街に伝令が走って行った。


しばらくすると馬車が何台かやって来て俺を含めたみんなの両親が馬車から飛び出してくる。

強く抱きしめられてからは何を話したのかは覚えていない。心配したとか帰って来てよかったとかそんな会話を延々としていたような気もするがなぜか覚えていないのだ。


ちなみに馬車が来るまでの間は俺たちが装備している防具にみんな驚いてはいたもののサダさんが何やらみんなに説明してくれた。たまたま見つけだ宝箱から出て来たとか、ボス部屋でドロップしたとかなんとか。大きさがおかしいとか言われたが俺のスキルで調整したとゴリ押ししてた。結構無理があるように思ったんだがなんとか理解してくれたようで今持っているものは俺たちが持っててもいいように交渉してくれた。

ただ問題は10歳になったら全員冒険者登録しないと認めないと言われたので両親と少しもめたところかな。

なんでも俺の作った魔鋼の質が高いので鋳潰してでも使いたいらしく冒険者にならないなら必要ないだろと取り上げられそうになったのだ。

正直ふざけるなと言いたいのだが、俺たちは進化に巻き込まれただけで冒険者ではない。この国の法律ではダンジョン内で手に入れたものは手に入れた冒険者のものという一文が書いてあり、冒険者以外が手に入れたものは国に取り上げられるんだという。今回はサダさんとカヤ先生が冒険者登録しているのでかなりグレーな感じなのだが、進化したダンジョンから帰還した俺たちの能力に期待を込めて例外的に冒険者(仮)として登録することで所持を認められるそうだ。この結果俺たちは冒険者としてどこの国にも属さないということになるそうだ。今は仮登録なのだが、10歳になると必ず本登録しなければならないという契約になっている。

サダさんも5年後まで俺たちのいる町から出ないことを約束させられたそうでなんか申し訳ない。

みんなの両親は冒険者になることを渋っていたがなんとか認めてくれた。ドロップ品についての問題で罪に問われる可能性があったからだ。進化の巻き添えであっても法律は法律と融通の利かない貴族がいるんだそうだ。

うちの領主に難癖つけたいだけな気もするが法律に例外なんて認められないんだろうな。

こっからどうしよう

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