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転移石

扉を開くと今度は鍾乳洞があった。

ここがダンジョンでなければ神秘的でいい観光になったかもしれない。


そこかしこに水たまりがあり、目の錯覚だろうがいくつかの水溜りがウネウネと動いてる気がする。

ピシャピシャピシャ


何かがこちらに向けて歩いてくる。

トカゲのような頭がヌッと現れる。

目は退化しているのか無いに等しいほど小さくしたをチロチロと出し入れして周りを伺っている。


シャドーリザードと呼ばれる洞窟の奥深く光のない場所を好む魔物だ。


感知能力に優れているためなかなか攻撃が当たらないことで有名な魔物で、Bランクの魔物ではあるがAランクの魔物よりも討伐が難しいと言う冒険者も多い。

水の雫が落ちるたびにピクリと首を動かすシャドーリザード。


感知能力の高さからか一滴の水にも反応しているようだ。

この感知をかいくぐって攻撃を当てるのは至難の技だろう。

マフユの弓が引き絞られるだけでこちらを振り向いて動き出す準備に入るのだ。

距離にして30mほど離れているが矢を放ったところで当たる気がしない。


ピチョン……ピチョン……ピ『ヒュン』チョン…トス!!


「クァーーーー」


ん?何が起きた??

シャドーリザードが奇声をあげて首をブンブンと振り回している。

前衛陣がシャドーリザードに向けて駆け出すとシャドーリザードはすぐさま壁を駆け上がり暗闇に姿を消す。


カラン


先ほどシャドーリザードが居た場所に矢が降ってくる。

前衛陣が矢を拾ってこちらに戻ってくるとマフユが少し悔しそうな顔で矢を受け取る。


一体何があったのだろう??

俺にはよくわからないがマフユの矢がシャドーリザードに当たっていたのは間違い無いようだ。


「水の落ちる音に矢を放つ音を紛れさすとは考えたな。うん。」

「でもちゃんと刺さらなかった!!」

「音を消すのに引きが甘かったから仕方ないな。うん。あれに当てるだけでも大したもんだ。うん」


話を聞いた感じでは水が滴る音に紛れて矢を放ったら感知されずにシャドーリザードに当てることができたと言うことか??

俺もわからなかったぞ!

氣と魔力感知を全開にしてたのになぜだ!!スキルはMAXだと言うのに近くにいたマフユが矢を射るのを気づかなかった?シャドーリザードに集中していたとはいえそんなことがあるとは……

スキルを過信してたらうっかりってこともありそうだ…


さて逃げたシャドーリザードはどこだろう??

あれがボスであることは間違いないだろうから倒すか扉を見つけるかしないとダメなんだが今回は迂闊に動くと後ろから攻撃されそうなんだよな。

ゆっくりと周囲を警戒しながら進んでいくとパシャパシャと足音が聞こえてくる。

シャドーリザード自身は闇に紛れて気配を消すのが得意だが、この鍾乳洞は水が多いようで足をとがしてしまってどこに隠れて射るか大方予測できる。

天井を歩いていようが水が滴ってる以上耳をすませると水がパシャパシャと音を立ててるのがわかる。


今聞こえてきた足音から後ろに回り込もうとしてる。

「クァーーーーーー」


シャドーリザードの奇声が聞こえる。またマフユが音に紛れて矢を射たのだろう。

どんな目とセンスしてんだか。

心強いがどんどん俺の感知で認識できなくなってるのが怖い。そのうち暗殺者なんてスキルが出てきたりして…笑えないな。

少し進めば魔物の奇声が聞こえるのが薄気味悪い。

何度目かの奇声が聞こえた時に急にマフユの気配が強くなる。


「わ!!」


俺のすぐ真横にマフユが現れて思わず声が漏れる。


「あは!びっくりした〜〜♪」

「今は巫山戯る時じゃ無いだろ!!」


思わず声を荒げてしまったがシャドーリザードとの戦闘中であることを思い出して慌てて周囲の警戒をする。


「ヘッヘ〜ん!もう倒しました〜〜♪」

「うちのパーティーですら半日ほどかけて討伐した魔物だぞ?うん。」

「ほらこっち!!」


え?嘘!まじで??

マフユに連れられて歩いていくとそこにはシャドーリザードの皮が落ちていた。


「うそ……」


みんな呆然としてドロップ品を見つめてるのを見てマフユが自慢げに胸を張る。

なんかみんな強くなりすぎじゃね??

俺だけ仲間外れみたいじゃん……


「すごいでしょ♪蜂の毒を矢に塗ってたらどんどん動きが鈍ってね!なんか急に痙攣したと思ったら動かなくなたんだよ!!」


そういえば蜂の毒腺で矢に塗る用の毒を作って欲しいとねだられて作ったような気がするな。

でもあの蜂ってそんなに強い毒じゃなかったはずなんだが……

あ!!蜂の毒だったらアナフィラキシーショックかもしれない!いやでも……

なんか納得はいかんが倒せたのならいいか。

皮を回収すると扉を探して歩き出す。

サダさんは納得のいかない表情をしながら歩いてる。なんか子供達の成長速度が早い!!

すでにサダさんと連携とっても足手まといにならないくらいには成長してる。

前に子供のうちにダンジョンに入ると成長率がいいと聞いたがあれって本当だったのかもしれない。

俺自身も戦闘センスは皆無だったし、こんなに歩いてるのにそこまで疲労を感じなくなってきた。

扉を見つけるとサダさんは一度頬を叩き気を引き締めていた。やっぱり何か思うところはあるのだろう。たまにブツブツとつぶやいていたから何かしら考え事をしていたのかもしれない。


ボス部屋を抜けて鍾乳洞を進んでいくとシャドーバットやスライム、シャドーオークといった魔物が襲ってくる。

どれも先ほどまでの階層よりもやわい魔物ではあるが、強さがバラバラだ。

スライムは初心者冒険者が倒すような弱い魔物だし、シャドーバットやシャドーオークは中級冒険者への依頼がくる魔物だ。このダンジョンが今階層に応じて魔物の強さを調節しているのは間違いないだろうが、このまま一日一階層づつ上がっていては脱出までには強い魔物が溢れかえる階層に閉じ込められてしまうかもしれない。

少し探索ペースを上げたほうがいいかもしれない。次に休憩を取るときにサダさんに相談しようと思っているとまた魔物が襲ってきた。


シャドーオークが6匹に後ろになんかゴソゴソしてるな。

「プギャーーー!!」

あれ?一番後ろのシャドーオークが悲鳴をあげて消えてったぞ??

目をこらすと四つん這いの何かに食べられてる。


ボスがシャドーリザードだったが、今襲いかかってくる魔物の中にシャドーリザードが紛れている。

絶対にこれおかしい!!

シャドーオークが仲間が襲われているのに気づき後ろを振り返るとシャドーリザードに向かって一斉に襲いかかる。


「今のうちに離れるぞ。うん。」


サダさんが撤退の指示を出したのでこそこそと離れていくと小さな小部屋を見つけた。

オベリスクが中に立っているのでセーフルームだ。

休憩のために中に入るとサダさんが険しい表情で話し始める。


「魔物の強さがバラバラすぎるな。うん。ボスがシャドーリザードだったのに今シャドーリザードが出てきてる。これは異常だ。うん。ダンジョンが階層に合わせた魔物を作っているんだろうが、どんどんランクの高い魔物を配置してるんだろう。うん。……このままのペースでは脱出前に高ランクの魔物で溢れかえった階層に取り残されそうだ。うん。」

「俺もそう思ってるんですが、休憩を減らして探索するってことでいいんですか?俺の鍼灸を使えばなんとかってところなんだけど。」


サダさんもダンジョンの魔物の強さについて疑問を持っていたようなので俺なりに案を出してみる。


「子供たちに無理はさせられません!!見てくださいみんなウトウトして今の話を聞いてないじゃないですか!!」


カヤ先生がそう言うとアカリ達を見回す。

確かにアカリをはじめとしたみんなは今にも意識を手放しそうにこっくりこっくりと船を漕いでいる。

俺はあまり戦闘に参加していないが女性陣は皆積極的に戦っていた上に周囲の警戒もして気を張っていたのだから無理もない。

俺がいくら治療したとしてもこうしたセーフルーム以外では鍼灸を使えるほど安全でもない。

もうみんな限界ギリギリなのを鍼灸でもたせているといっても過言ではないほどに消耗しているんだろう。


「確かに無理をしても集中力を欠いてしまって脱出は無理だろう。うん」

「だったら!」

「まぁ最後まで聞いてくれよ。うん。ここはもともと転移石を使って出入り口付近と繋がっている構造になっているダンジョンだったんだ。うん。進化してダンジョンの構成が変わっても転移系のダンジョンであるのは変わってないはずだ。うん。どのダンジョンも進化した後も転移系や罠系といったコンセプトは変わらずに進化している。うん。」

「と言うことは出入り口付近に転移できる転移石がある可能性が高いってことですか??」

「そうだ。今までどこに転移するか賭けになるから探していなかったがもうそんなことを言ってる場合じゃないと判断した。うん。幸いなことにこのダンジョンの転移石のほとんどはセーフルームに隠されてるんだ。うん。この部屋のどこかにあるかもしれんから子供達を寝かせてる間に探そう。うん。」


先生とサダさんが話すとすぐに転移石を探し始めた。俺も手伝おうと探していると鍼灸でちょっとでも疲労を回復してやれと言われたのでアカリ達の治療を始めることにした。

全員の治療を終える頃にはサダさんが転移石がオベリスクの下に見つけてくれていた。

このまま転移して脱出できるかどうかはわからないが今はそれにすがるしかない。

転移してすぐに魔物がいるかもしれないのでしっかりと休んで武具の手入れをしてから転移することにした。

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