森
明日はお休みします。
さすがに毎日はしんどいです(^^;;
森の階層は死角が多いので洞窟の時よりも探索速度が遅くなってしまう。
早くセーフルームを見つけたいところだが焦ってもいいことはないだろう。
出てくる魔物も木を使って視覚から襲って来るものが多く、ゴブリンや狼のようなものが多い。
食用の魔物が少ない階層なようであまり長居したくない。
疲れて来てはいるが森では休憩できそうな場所もない。魔物に見張られているような目線がある場所では体を休めることもできない。
じわじわと精神的に堪える状況にサダさん以外は足取りが重くなって来る。
こんな時は鍼灸で疲労回復してあげたいのだが、なにぶん休める状況でもない。
防具に細工しているツボを刺激するものもこんな状況では大して効果を発揮してはくれていないだろう。
精神がどんどん削られる嫌な感覚を受けながら歩いていると大きな空のある木が見つかった。
やっと休憩できそうな場所を見つけることができた。
木に近づいていくと空の中から緑色の体毛をしたクマがのそのそと這い出て来る。
どうやらここはこの熊の魔物の寝床らしい。
こいつはなんてったかな?
確かえ〜っと……そう『おおくまねこ』だったな。漢字にしたらパンダじゃねーかと突っ込んだもんだ。
違いといえばこの色と草食獣で温厚なんだったな。
ただ子育ての時期には凶暴化して強さはAランク下位の強さがあるとか。
なんかのそのそ出て来てから戦闘になる雰囲気はなさそうだがこれはどうなんだ?
お腹を見せてゴロゴロ転がってるんだがこれは油断させてんのか??
戦うの?戦わないの?
「すぐに離れるぞ。うん。」
サダさんがすぐに離れるてことは油断させてるんだろうな。
すぐに移動して離れたところで見られている感覚が幾分かマシになったかと思うと先ほどの場所でギャーギャーと喚く声が聞こえ始めた。ダンジョン内でも食物連鎖があるのを不思議に思いつつもサダさんに目を向けると説明してくれた。
「あのクマの威嚇行動はああしてゴロゴロ転がるんだ。うん。油断して迂闊に近づいていくと爪で引っ掻かれちまうんだ。うん。あの緑はな距離感が掴みにくいように微妙に色の濃淡があって間合いが測りにくいから今のこのメンバーでは無傷で倒せないだろう。うん。おそらくだが俺たちを狙ってた魔物が迂闊に近づいて襲われたんだろうな。うん。」
なろほどそういうことだったのか。案外ずるいことするクマだな。
小狡いクマから離れていくと今度ほログハウスが見えて来た。
ダンジョンの中にログハウスって怪しすぎるでしょ!
そう思いながらもよく見るとログハウスの真ん中からオベリスク突き出していたのであれはセーフルームもといセーフハウスなんだろうな。やっと休憩できると思い安堵しつつログハウスに近づく。
「まった〜♪その扉に罠がある〜♪」
マフユが言いながら扉の前に陣取り何かし始める。
「あのオベリスクがあっても必ず安全ともいえないのか。」
そう呟く。
「まぁダンジョンは魔物だからな。うん。」
「魔物がこないだけで罠は仕掛けてあるって授業で説明しましたよ?」
サダさんとカヤ先生が俺の呟きを聞いて答えてくれるが授業でやってた内容を完全に忘れていた。
確かに聞いたことあるな。セーフっていう割に安全でもないんだと思った覚えがあったような気がする。
疲労が溜まってまともに考えられていないような気がする。
「今日はみんな疲れてると思うからこのログハウスで休んだほうがいいんじゃないかと思うんですがどうでしょうか?」
先生がそう提案してくれたので今日はここで一晩明かすことにした。
マフユが罠を解除すると中に入っていく。
中はかなり広く、2LDKほどの家だった。人がいた気配はないが、台所には食材や調理器具がきっちり備え付けてあった。コンロなんてものはこの世界にはないのだが、魔道具として似たようなものはある。そのコンロのような魔道具が付いていたり、冷蔵庫にも似た箱があったりしてかなり設備が充実している。
全て取り外しができそうなので出ていくときには貰っていくことにした。残念ながらお風呂はなかったが他にも色々魔道具があった。サダさんは「このログハウス自体が宝箱なのかもしれん。うん。」というので笑っていたが、案外そうかもしれない。
そんなことを考えつつこの家の中にあるものは持っていけそうなもの全て持っていくことにして一通り調べる。
お湯の出るジョウロにランタン他にもいくつか使えそうな魔道具があった。
地味に嬉しいのが簡易のベットや包丁に食器類もあったので、今使ってる鉄の食器を鋳つぶすことができる。
欲を言えばこの家ごと持っていきたいのだがもっていけないだろうか??
家の中を調べ終わると疲れ切ったみんなの治療をしていく。
5歳の子供に鍼をするのはちょっと体の負担が大きそうに思えたので間接的に体を温めるお灸と刺さない鍼で治療をしていく。全体の筋肉を軽く刺激する程度で治療を終えるとみんな気持ち良さそうな顔で似てしまった。
次はサダさんとカヤ先生の治療だ。
サダさんは常に集中して周りを観察しながら歩いていたので精神的な疲労が溜まっているようなので以前同様の治療をしていく。次に目の治療をしていく。この森は同系色のものが遠近感を狂わせて乱立し、光源もいくつもあって影があちこちにできているここでは全く目に良くない。
俺でも目が疲れて軽い頭痛が起こっているんだからサダさんの目はもっと疲れていると思う。
目頭をつまんでいるところを何度か見ているので頭痛になっていてもおかしくない。
回復魔法を使う人でもさすがにこう言った治療はできないだろうが、俺の鍼灸だと治療が可能だ。
目の症状の多くは臓腑の肝に関わるものが多い。サダさんの脈も肝が疲れてしまっている脈をしていたのでしっかりと補って元気にしていこう。
とはいえ精神疲労の回復に使う『四関』というツボは『合谷』『太衝』という二つのツボを使っており、このうちの『太衝』というツボは肝の弱っているときに使うツボなので疲労回復と目の治療を同時に行なっているようなものだ。
一つのツボで二つ効果を出しているので余計な鍼や灸で刺激を与えずに済んで体への負担は少ないのだ。
とは言えこれだけでは頭痛も伴っている眼精疲労は取りきれないので他のツボも使うことにする。
眼精疲労にもいろんな種類がある。首肩のこりや三半規管が狂い視点が合わなくなったり、集中してものを見ることによって起こることもある。
今回は遠近感が狂う森の中を歩いて目の筋肉を酷使したことによって起こっているんだと考えられる。かと言って目に鍼を刺すわけにもいかないが、痛いところに直接鍼を刺すのが鍼灸ってわけでもないので特に問題はない。
今回はどこのツボを使おうか??
少し悩みつつ眼精疲労なら『紅陽』にしようと思う。
前世で一般的に売られているツボの本では『太陽』というツボを紹介している本も多い。この『太陽』というツボはこめかみにある窪みのところなのだが、毛細血管が多く分布している場所なので出血・内出血をする可能性が高いツボだと言われている。
マッサージや鍼灸でパンダみたいに内出血したということをたまに聞くが、その多くは目の周りの毛細血管を傷つけて起こることが多い。『太陽』というツボを使って起こることもままあるのだ。
うまく刺すと出血することはないのだが、どれだけ上手に刺そうが出血する時もあるので今はそんなリスクを負ってる場合ではない。
ということで『紅陽』というツボを使うことにした。
ツボの場所は今説明した『太陽』というツボの上一寸(約3㎝)ほどのところにある。
そんなに場所が変わらないのに大丈夫なの?という疑問が生まれるだろうが、ここは『太陽』ほど毛細血管が多い場所ではないので出血のリスクも少ない。
効果も『紅陽』と『太陽』にほとんど差がないので普段からここを使っておく方がいいだろう。
ツボも決まって鍼を刺したら置鍼しておく。
カヤ先生の治療はサダさんよりも必要なものは多いだろう。
森の木は女性ホルモンのバランスを狂わせるものが多いのでしっかり治療しておかないと探索中に体調を崩してしまうと命に関わるだろう。体も冷えてしまって足がむくんでいるようだ。
サダさん同様『四関』は必要だろうか。加えて『三陰交』と水分の代謝に下腹部を温めておいた方が良さそうだ。
臍下丹田なんて言葉もあるが、下腹部が冷えて力が出なくなると体のいたるところで不調が起きる。
まだ症状の軽い今から下腹部を温めておくことで体調を維持することができるのでここのお灸はしておべきだろう。
手の人差し指から小指の幅の分だけヘソの下が冷えていることが多いのでここにお灸をして行く。
少し先生は恥ずかしそうにしていたが、しっかりと体の状態を説明しておいたので文句を言わずに治療を受けてもらえた。
2人の治療も終わって自分の体調を整えていると起きているのは俺だけになっていた。
今日の晩御飯は抜きになりそうだ。
明日には体調も万全にしてまた探索に出かけなければいけないので俺もそのまま寝ることにした。