脱出再開
サクッと脱出するつもりが未だに出れず……
書いているうちに思ってるんと違う内容になるのはなぜだろう??
昨夜寝る前に防具を試着してもらい、武器の感触も確かめてもらったので今日から脱出に向けて行動していく。
午前中は新調した武器を体に慣らすために魔物と積極的に戦闘をこなし、午後に上の森を探索する予定だ。
地図を作る魔道具も手に入っているのでセーフルームが見つかるまでは行ったり来たりすることになるだろう。
以前倒したオーガのいる場所まで何戦も魔物と戦いながらゆっくりと進んでいくと今まで遭遇してこなかった魔物がいた。80㎝ほどの大きさで二足歩行をしているきのこ。鬼面茸という魔物だ。
オークやゴブリンを主食にしているキノコで成人したオーガとほぼ互角でB〜Aランク相当の魔物だ。
おそらく以前戦ったオーガよりも強い。
鬼面茸は胞子による麻痺と見た目にそぐわぬ速さが特徴の魔物だが、火に弱いという特性がある。
今回はイクミが火の魔法を使えるのでおそらくそれほど苦戦することはないだろう。
まだ鬼面茸はこちらに気づいていないようで頭の笠をゆらゆらさせながら歩いている。
「あれは俺たちでもてこずることが多い。うん。慎重に気づかれないように仕留める。うん。」
「サダさんでも……前のオーガより強いですか?」
「あぁ、そうだ。うん。」
この魔物は聴覚がないので多少音を出そうとも気づかれることがない。
ちなみにいうと嗅覚もない。でも視覚はあるし、胞子による麻痺が魔法に該当するのか魔力の感知に対してかなり鋭敏だそうだ。
魔力を持つものだとだいたい2mぐらいの範囲に入ると確実に見つかってしまう。
では魔力を持たない人なら不意打ちで倒せるのかというと答えはYESでありNOである。
この魔物の表皮は堅く、弾力があるので切りにくく、打撃はほとんど聞かないそうだ。
一度攻撃を与えてしまえばこちらを認識してしまうため初撃でいかにダメージを与えるかが決め手なんだとか。
そう説明を受けるとアカリなら一撃で倒せるんじゃね??と思ってしまう不思議。
これがYESでありNOであるという答えなんだろう。
ということでこっそりアカリが近づいて笠をぶった切る作戦に決定した。なんでも笠のすぐ下のところが脳にあたるところらしく、そこを着ると死んでしまうんだそうだ。
作戦が決まるとこっそり近付こうとしたその時、ふと自分が作った防具が魔力を使ったものであることに気づく。
「あ!みんなが使ってる装備魔力を帯びてるけど大丈夫??」
一瞬の沈黙の後「大丈夫じゃないな。うん。」とサダさんが忘れてたと言わんばかりにこめかみを掻いている。
第二案!!マフユの弓を使おう!!
ということで矢は普通の鋼鉄の鏃を使ったものを使って笠のど真ん中を射抜くことにした。
初めからそうしろという声もあるだろうが、傘が揺れていると外れるリスクがあるので切ることに重点を置いていたのだ。
マフユが弓をひきしぼり歩く鬼面茸を見据える。
「すぅ〜〜っ!……」
息を吸い込み止めると目が鋭くなったようだ。
ヒュン!!トス!!
「外した!!」
見た目には的確に射抜いたように見えるが本人は外したという。
ぐらっと体制を崩した鬼面茸の体がぶれる。
ガイ〜ン!!!
サヤが構える縦に突撃してきたと同時にキノコの胞子が舞い上がる。
「蛍火」
ジュウ。
舞い上がる胞子をイクミの魔法が燃やしていく。
火の粉が舞い上がり鬼面茸に当たるかと思った時にはもう先ほどいた位置まで下がっていた。
なんだこいつ早すぎる!!
麻痺胞子自体は燃えてしまったので麻痺したものはいないがあの早さの魔物に攻撃を当てるのは難しいだろう。
「しっかり堪えろよ。うん。早いが10分ほどで持久力が切れるはずだ。うん。」
なろほどあれほどの早さだと持久力がないのか。
数回の突進と胞子をサキとイクミで対処をしながら明かりやアカリとサダさんも積極的に攻撃を当てていく。
みんな攻撃をしているが、当たるのはアカリとサダさんのものばかりだ。たまにマフユの矢が射抜くがまだ急所には当たっていない。
ゆらゆら揺れていると思えば早く動く。確かゆっくり動いているものを見た後に急に早くなると脳が混乱してしまうんだったか?
実際の速さは目で追えないはずはない。サキは盾で突進を防いでいるし、アカリやサダさんは攻撃を当てているのだから見えないということはないはずだ。マフユはスキルの恩恵でしっかり見えているようでみんなにどこにいるか指示を出しながら弓を構えてる。このメンバーでしっかり捉えられていないのは俺、サツキ、イクミ、カヤ先生だな。
しっかり目を凝らして刀を構えていると少しゆっくり動いているように見えてきた。
微かな頭痛とともにゆっくりと動くキノコが見える。竜から逃げる時にあった感覚と同じものだ。
キノコは直線的な行動が多いので動き出しさえ見えればどこに突撃してくるか予測ができる。
移動してくる場所を予測しちょうど急所が飛び込んでくる場所に刀を突き出す。
ゆっくりと動く体が少しもどかしいが仕方ない。
ゆっくり動いている世界でキノコの速さは普通に歩いてくるかのような速さで進んでくる。
サキが進路を予測して位置どりをして腰をゆっくりと落とし盾を構える。
がっっっいっっっっい〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!
ゆっくりと聞こえる音とキノコにゆっくりと埋もれていく刀。
特に刃が入っていく感触は感じられないが、みるみる突き刺さっていく。
完全に根元まで刺さるのが確認できるとゆっくりとしていた世界から通常に戻る。
「キーーーーーーーー」
甲高い奇声をあげて光る粒子となる鬼面茸。
「お!おぉ…倒した……」
自分が倒せたことに驚きつつ刀を鞘に収める。
「すごいの〜流石なの〜〜」
そう言いながらアカリが俺に抱きついてきた。
「よくやったな。うん。」
サダさんがガシガシと頭を撫でて褒めてくれる。
オーガより苦戦した戦闘だったが、あの時と違い俺は役に立てたようだ。
戦闘では役立たずの俺もたまにはね!!ビギナーズラックというやつだろうが一回ぐらいは役に立ててよかった。
あれが噂のゾーンというものなんだろう。
鬼面茸のドロップ品はいろんなキノコが山盛りに積まれていた。しめじにえのき、しいたけエリンギ…一体どんな仕組みになっているのかは不思議だな。
レアドロップは舞茸と松茸らしいがどんな基準になっているのだろう。
理解はできないが、キノコは栄養豊富だからまぁいっか。
オーガがいたボス部屋に足を運ぶと今度はオーガはいなかった。
というよりボス部屋でもなかった。前に来た時よりも狭くなっているのだ。
地図を確認してみたけど通路の数は変わっていないが道幅や部屋の大きさが変わっているところが多いようだ。
おそらくはもともとボス部屋だったところがここに移動して来ていたのだろう。ボスを倒したことでここにあったボス部屋が消えてしまったというのが俺の予想だ。
地図によると下の階層に行く手前に大きめの部屋ができているようなのでそこが新しいボス部屋だろう。
にしてもこの指輪便利だな。道さえ変わらなければ幅や大きさが変わったことは記録してくれるのか。
これは大当たりだな。
ただこの階層のボス部屋が移動したのはいいのだが上がった瞬間ボス部屋(?)である可能性が高いんじゃないのか?
みんなもこのことに気づいたようで緊張気味にゆっくりと登って行く。
前に来た時とは違い扉ができていた。進化は本当に終わってないのか?という疑問はあるが最終調整をしているのだろう。できるだけ早く上の階層に行かないと魔物のレベルがどんどん上がりそうで怖いな。
戦闘準備を整えて扉を開く魔法陣に手をかざす。
ゆっくりと開く扉をイメージしてたが急に光る粒子となって消えてしまった。
イヤイヤなんかおかしいって。
眼前に広がる小さな森のような部屋はボス部屋のようだ。ボスの魔物はどこだ?
警戒しつつ森の中へと入ると消えた扉がまた現れる。
閉じ込められたようだ。
仕方がないのでボス部屋の中を探索していると入って来たのとは違う扉が見えて来る。
「ギーーーーーーーーー」
魔物の規制が聞こえて来る。
ギシギシギシ
木が軋む音が聞こえて来る。
振り向くと巨大なムカデが木に巻きついているところだった。
何あれ魔物図鑑には載っていなかった気がするんだが?
ゲームとかならジャイアントセンチピード?それとも鎧ムカデとかか??
にしてもなんかやばいのはわかる。サダさんが冷や汗かいてんだもん。
「扉に向けて走れ!!うん。」
焦ったサダさんが叫ぶ。
必死に走り扉に近づくとその扉も光って消えた。
どうやらこっちからは逃げ出せるようだ。
全員が扉から出ると再び扉が現れた。
ガシャーーーーーーーン!!
扉に何かがぶつかる音と衝撃が伝わって来る。
なんじゃあの気持ち悪い生物!!サダさんが焦ってたってことはとてつもなく強いんだろうな。
「はぁはぁ……何なんです?あれ」
「おそらく森喰いだな。うん。」
森食っちゃうの?何それこわい。
「そんなに強いんですか?」
「わからんな。うん。みたことがないが、森が軋む音と共に現れるらしいがみたものはほどんどいないいんだそうだ。うん。それに昔Aランク冒険者パーティー2組合同で討伐に向かったが帰ってこなかったんだ。うん。でかいムカデのような魔物ということしかわからんがあれがそうなんだろうな。うん。」
そんな化け物倒すのとか無理だろ。
ちょっとこれ脱出できんのか?不安になって来た……
やっぱりこれまだ進化終わってないんじゃね??
そう思いながら森の探索を始める。もうさっきの場所に行きたくないからこの場所でセーフルームを探さないとな。




