二体のオーガ
後悔が頭を駆け巡る中オーガが痺れを切らしたのかこっちに向けて走り出してきた。
「ガーーーーーーーー!」
「グォーーーーーーー!」
ドシドシと走ってくるが二体の足の速さが違うようでレッドオーガの方が2mほど先行してくる。ヒュン!
棍棒を振り上げながら突撃してきたレッドオーガの目にマフユの放った矢が刺さる。
「ギャ!」
小さく呻きながらも突撃する速度は緩めない。
サヤが棍棒を止めるために盾を構えている横をアカリが飛び出した。
「!!」
何してんだあいつ!!
そう思った時にはレッドオーガの足首を切り裂きそのままの勢いでブルーオーガに向かい走り抜ける。
ズシャーー
「グガーーーーー!」
レッドオーガは悲鳴をあげて地面に頭から突っ込む。
ちょうどこけて滑ってきたオーガの頭がサヤの目の前で止まった。
一瞬惚けていたサヤはハッとしてオーガの頸、延髄のあたりに剣を突き刺す。
びくん!!っと一瞬痙攣してオーガの体から力が抜けていく。生命力がいかに強かろうと延髄を刺されては死んでしまう。うっすら光り始めたオーガに警戒しつつブルーオーガに目を向けるとすでにサダさんの風魔法がブルーオーガの大剣を捉えて仰け反らしているところだった。
アカリもその隙を逃すことなくオーガの左手首に切り掛かり小太刀を弾いき飛ばしていた。
うそ!目を離してしまったのはレッドオーガが倒れた一瞬だったはずなのにもう左手を使えなくしてる。
「くっ浅い!」
本人は納得いってないようだ。手首を切り落としたかったんだろうが、腱を断つに止まってのが悔しいみたいだ。
あんな戦闘マニアだったっけ??
「ガァ!」
光っていたレッドオーガが声を上げる。
なになに!生きてたの??そう思いレッドオーガを見るとサツキが首に剣を突き立ててるところだった。
「油断ダメ。まだ微かに息があった。」
サツキの耳にはレッドオーガの微かな呼吸が聞こえていたらしい。
死んだふりして、いやほぼ死んでたけど最後の一撃の隙を伺ってたのだろう。
俺は隙だらけだったと思うと寒気がする。マジで役立たずな俺……
「グガーーーーーーーーーー!」
ブルーオーガの咆哮で空気がビリビリと振動する。
あわわわわ怒ってらっしゃる!相棒が死んで怒ってらっしゃるよ!!
やばいよやばいよ!無理無理無理無理
ヒュン!!
「蛍火!!」
矢が風を切り、拳大の光が舞う。
トシュ!ゴゥ!!
「ヴァ」
へ?
ブルーオーガの口から矢が生えた!そして燃えた。
なになに?
ゴシャン!ドタドタドタドタ
ブルーオーガは口から矢を生やして顔面が燃えてのたうちまわる。
「アクアスラッシュ!」
シュン!ブシャーーー
頚動脈がさけて勢いよ血が吹き出す。
ジタバタ暴れていたオーガの勢いがどんどんと弱くなっていく。
顔が燃えて首がら大量に血が噴き出しているにもかかわらずいちよう生きているようだ。
噴き出していた血も血管の拍動に合わせて少し出てくる程度まで落ち着くとアカリがオーガに近づいていく。
刀を構えて裂けた場所めがけて勢いよく一閃。
ヒュン!刀を振り抜いた後に音がついてくる。
ゴトン!ゴロゴロゴロ……
首が転がり光の粒子となって消える。
残ったのはレッドオーガは持っていた棍棒と角、ブルーオーガはミスリルの小太刀とブルーオーガの牙。
あれ?Aランクに達する可能性のあるオーガ二体が呆気ない。
ちょ!え?これって瞬殺??
俺なんもしてない!
「ふぅ、怖いのはミスリルの小太刀だけだったな。うん。」とサダさんは長い杖で肩をトントン叩いている。
「意外と弱かったの。もっと皮膚が硬いって聞いてたの。」アカリが名残惜しそうにドロップアイテムを拾う。
「案外とろいね〜♪」マフユは弓の弦を弾く。
「生命力は強かったね。」サツキは辺りを見回しながら警戒をしている。
「走ってくる顔が怖かったら〜」サキが地面にへたりこむ。
「…魔法成功した。」杖を握りしめるイツキ。
「魔法の感も戻ってきたわね。」杖を二、三度降って感覚を確かめてるカヤ先生。
アイテムを受け取ってマジックバックに収める俺はなにもしていない。
ただただビビって後悔してただけだ。なんという役立たずっぷり。
いや俺ヒーラーだし…なんかその……あれだよあれ…………
わかるよね?なんかほら……
前世は日本育ちだからほら!こういうの無理なのわかるじゃん??
………はぁ、情けない。
戦闘も終わって広間の中央付近まで行き辺りを警戒しながら今後について話す。
「まず今のオーガだが、矢がちゃんと刺さったのも刃がすんなり通ったのもムツキが作った武器の性能が良かっただけだ。うん。普通の武器ならまず弾かれるほどの硬さだっただろうな。うん。魔法を当てた感覚だと鋼の剣で数十回切りつけてやっと刃が通るってところだろう。うん。簡単に倒せたからといって図にのるなよ!!うん。」
「そうなの?ムツキすごいの!!」
「やっぱそうか〜♪いつもの矢よりヒュン!って飛ぶんだよ〜♪」
「どうりですんなりさせたら〜」
「さすがだね!」
「…この杖、いいよ?」
「みなさんいい武器を作ってもらってるんですね。……私だけ………」
「え?俺のおかげ??えへっ、そんなこともないよ〜うへへへ〜」
うふふふ。どうやら役立たずではなかったようだ!
鍼灸じゃなくて錬丹術の方ってのはなんか釈然としないがまぁいいだろう。
「それはいいとしてだ。うん。」
え?もう終わり?さっきの戦いはその程度だったの?
もうちょっとなんかないの?ね?
「オーガの棍棒は強烈だから今のやり方は良かったとも言えるが、前触れもなく飛び出すのはいけないな。うん。すんなり倒せたのはアカリの不意打ちだが、今後もうまく行くとは限らん。うん。もう少し意思の疎通や連携を鍛えてからするように。うん。でだ、今のがフロアボスであるのは間違い無いだろう。うん。ということは上に登ると深層に向かってる可能性があるな。うん。単純に考えれば下に向かうと出口があると思うんだが、なんか嫌な感じがする。うん。」
「どういうことでしょうか?」
「単純に勘だな。うん。どうにも山の中まで移動してる気がしない。うん。脱出間近で落ちた時からずっとセーフルームにいた時も氣を張って感知し続けてたが下に落ちていく感覚はあったが上がってく感覚は感じなかったからな。うん。」
「それは私もそうでしたけど……ダンジョンはなにが起きるかわからないですし………」
先生とサダさんの会話についていけない。当然俺たちはダンジョンに入ったのはこれが初めてなので今の状況はイマイチよくわかっていないのだ。俺は前世でゲームとか小説とかの知識があるのでなんとなくわかるのだが、実戦経験がないのであまり口出しいていいものなのかわからない。
「なら一旦部屋に戻って下に向かう通路を探すか?うん。」
「そ、そうですね…いや、まず上の階にいる魔物を見てから戻りましょう。上の階の方が魔物が強ければ深層に向かってる可能性が高いですから。」
「ふむ。ちゃんと考えられるようだな。うん。それがいいだろう。うん」
「な!私を試しましたね!!」
ニタァっと笑みを浮かべているサダさん。
「俺の娘ほどの嬢ちゃんにまともな判断ができるか心配でな!うん」
「え?……サダさんて結婚してたの??」
「なんだ坊主知らなかったのか?うん。その嬢ちゃんと同じくれぇの娘もいるぞ?うん。」
「サダさんって何歳?」
「んあ?33だがそれがどうした?うん。」
「……え?25ぐらいだと思ってた。」
「ははっ!そりゃ若いな!うん。そんな歳でAランクの奴なんてそうはおらんな。うん。」
「た…確かに………」
まじかぁ〜結構若く見えるなぁ。じゃあ他の灰蝙蝠もメンバーも若く見えるだけか?
いやいや待て待て待て!!33歳で16歳の娘いんの???
17の時に子供がいたと?若すぎね?いやこの世界では15が成人だから早くないのか?
う〜ん……前世でもその年に子供がいるやつもいたっちゃいたか。
いやでも………
「ムツキ〜いっくぞ〜♪」
「え?あ!ごめん!!」
危うく置いてかれそうになりながらみんなを追いかける。
緩い上り坂になってる通路を進み次の階層へと向かう。
みんな呆然と立ち尽くしているようだがどうしたんだろうか?
到着するとそこにあったのは見渡す限りの木・木・木。
所謂森が広がったいた。




