初ダンジョン
学校が始まって一ヶ月ほどになる。
当然のことながらほとんどの授業は全くもって面白くない。
文字の読み書きはできるし、四則演算も学習済み、宗教の授業は成り立ちからして支離滅裂で何いってんのかわからん。
ほぼ毎回先生が変わり神様は1柱という割に神様の名前がたくさん出るわ出るわ……真面目に聞こうとしてた時期に出た名前だけでも10はくだらん。
どうしてそうなったのかは理解できないのだが、こんなめちゃくちゃな宗教がどうして国教となってるのか…
『祝福の宝珠』が一部の聖職者にしか使用適性がないと授業で教わっているのでそれが一つの原因ではあるのだろうが、それだけでこのわけのわからん宗教がのさばれるのだろうか??
先生の発言が魔力があるものがどうこういうやつやら、氣の扱いがどうの、スキルの数がどうのと何が優れているという意見の違いで生徒たちはちんぷんかんぷんでもう聞く気がない。
楽しいのは冒険者に関する授業だけ。
所謂体育だ。剣術、槍術、魔物の生態、野宿の仕方、野草など自然の中にある食材を教えてくれる。
生徒のほとんどは俺と同様にこの授業が楽しいようだ。特に男子は冒険と聞くだけでアホみたいに騒いでいる。
今世ではクラスのみんなと仲良くできている自信がある。
登校初日のアカリのこともあって積極的に会話しに言った結果学年のほとんどは友達のようなものになっている。
これだけみんなと仲良くなっても未だにアカリが不機嫌になった原因がわかっていない。なんというミステリー!!
最近も時折不機嫌になることがあるのだが一体どういうことだろう??
そんな時はいつもカヤ先生に相談に行くのだが、相変わらず目線を合わせてくれる時にちらっと絶景が見える。
この一ヶ月で一度だけ綺麗な…おっと失言
本当に不機嫌の理由が知りたいものだ。女心がまだまだ理解ができん。
ちなみにカヤ先生はまだ16歳なんだそうだが、一体どういう理屈で先生になれてるんだろう?教員免許とかないのでなれないわけではないのだろうが…若すぎないか??
そうそう俺にも友達が何人かできた。
アカリと仲のいい女子3人と武術系の授業でパートナーとなっている男子が1人。
女子は「イクミ」「マフユ」「サヤ」男子は「サツキ」という名前だ。
「イクミ」は王都生まれで西洋系の顔をした母親がいる所謂ハーフだ。西洋系の顔をした人は「アイラ人」という人種だそうで魔法に秀でた才能を持っていることが比較的多いそうだ。他の人種と比べて寿命も長いと聞いている。
容姿は髪は薄いグレーのアッシュで目は綺麗な藍色をしている人形のような見た目なのだが、アカリと一緒で少し人見知りでクラスで友達は俺たちぐらいだ。
「マフユ」はすごく活発な性格をしていて純和風の顔をしている。アジア顔の人種は「モーラ人」といい、技術職とりわけ錬金術、調薬術に秀でているそうだ。他の種族と比べると身長は低い人種だ。
漆黒の髪に茶色の瞳をしているマフユは男子にとりわけ人気があるようで一緒にいるとちょっと視線が痛い。
「サヤ」もアジア系の顔立ちなのだが、地黒で焦げ茶色の肌をしている。髪の毛は赤毛で中性的に見える。
アフリカ系の血が入ってるのかもしれない。ちなみにアフリカ系の人種は「フーラ人」というそうで、身体能力が高く五感が鋭いらしい。
「サツキ」はいつも帽子をかぶっている帽子から見える髪は白銀なのだが耳が見えない。目は鋭く犬歯も発達していて初めは近寄りがたかったのだが意外と人懐っこい。クラスのみんなは知っているか分からないが、以前運動着に着替えている時帽子が脱げかけてピンと尖った犬耳が生えてるのを見たことがある。
どうやら獣人という種族なんだろう。なんで隠しているのかは分からないのだが、この島国では珍しい種族だという。大陸の方には普通の人間と同じくらいには多い人種ではあるらしいがどうして少ないのか、どうして隠しているのかは知らない。人種差別をしている国ではないので目立つのが嫌なだけなのだと予想しているが本当のところは知らない。
獣人らしくかなり運動神経がいいのだが時折女の子のような声を出すのでちょっと気弱なところもあるのだろう。
武術などでそろそろ体力がつき始め、グループも形成しつつあるのでそろそろダンジョンに入る時期になる。
前世でいうところの遠足で親交を深めよう!!的なイベントだ。
ダンジョンについても冒険者育成の授業で講義を受ける。ここで教えられる限りではダンジョンは魔物という認識だそうだ。宗教の方とは全く異なる意見なのだが、宗教は聞きながせと先生が言ってた。
それは今は関係ないか。
ダンジョンというものの恩恵と危険性を教わることはみんな興味津々で前のめりになって聞いている娯楽のなさが原因なんだろうな。
班分けは前世でもよくある「好きなこと組みなさい」だ。
グループができ始めているとはいえ俺はアカリと一緒にいることが多かったので男子の友達はほとんどいない。
男女混合で構わないのでいいのだが、この言葉の暴力はいつ聞いてもぞくっと鳥肌が立ってしまう。
いや、前世でも友達がいなかったわけではないのだが、グループを作る時には友達の友達という微妙な距離感の人といるのがなんとも居心地が悪くって……
ん?何?友達いたよ?ほんと友達はいたんだって。信じてほしい。
そんなことよりダンジョンで一緒になるグループだな!!
人数は6人1班で1クラス5組のグループを作る。60人近くを一気に見ることもできないので日にちを分けて1クラスづつダンジョン内の授業をするようだ。1班に1人監督の先生がつきっきりで一階層の広間を見学しながらの授業という名の遠足をする。俺の班は仲の良い6人組のアカリ、イクミ、マフユ、サヤ、イツキだ。
どこかの班の子供が魔物のいる通路に入ってしまわないのかという疑問はあるが、きちんと通路に見張りが立っているので今までに入ってしまったものはいないそうだ。
説明が長かったが、つまり何が言いたいかというと今日はダンジョンに入るということだ。
ダンジョン!!運動に自信がないので冒険者になる気はまだないのだが、興味はすごくある。
ダンジョンの前に来るとみんな興奮してしまってザワザワと落ち着きがない。
順次各班がダンジョンに入っていき担当の先生がついて後に行く。ちなみに俺たちの班はカヤ先生だ。
なぜか班員の目が痛い。反対にカヤ先生は満面の笑み。
俺がよく話しかけるのが嬉しいのだと同僚の先生に話していたのを聞いたことがあるのでそのせいだろう。
ダンジョンの一階層に入り道なりに進む。ダンジョンの入り口は横幅3mに高さは4mほどだろうか。薄暗いのだがうっすらと光る石が1m感覚に埋まっている。埋まってる場所はランダムに天井、床、壁となっているので目がおかしくなりそうだ。降っているのか登っているのか……氣で感知してみると傾斜2度ほどの下り道で緩やかなS字を描いているようだ。しばらく歩くと眩しい光が見えて来る。大広間についたようだ。
「「「「「「うわぁ」」」」」」
石碑と聞いてイメージしていたのは四角い石の塊だと思っていたのだが、屋久杉のようにいびつに曲がった木の形で枝には白く発光する石がリンゴのようになっている。
木の幹に巻きつく蛇の像の口が開いていて口にはまった石に転移の使い方が書いている。
なんというか、かなり親切!!
「どう?素敵でしょう??」
カヤ先生に声をかけられる。確かに綺麗ではあるが……何でこう親切なんだ??
魔物なんだろ??
「おほん!!では授業を始めましょうか。」
「「「「「「はい!」」」」」」
「ここのダンジョンの名前は『ハクロダンジョン』と言います。授業の中でも説明したようにここは今まで見つかっているダンジョンとは少し構成が違うようで上と下に向かって広がるダンジョンです。今探索されている最新層は下15層、上4層となっています。下の層は徐々に魔物の強さが上がるのに対し、上の層は一層上がるごとに魔物の強さが格段に強くなるそうです。ダンジョンの魔物は死ぬとダンジョンに吸収されドロップアイテムが残るのですが、これは知性のある生物をダンジョン内におびき寄せて捕食するために餌であると考えられています。ソル教では神の贈り物と言われているのですが、これは誤りであるというふうに今言われています。ここまではいいですね??」
「「「「はい」」」」
「どうして神様の贈り物じゃないと言われ始めたの?」
出たアカリの質問攻撃。未だに出ることがあるんだよな。
「そうですね、確かに神からの贈り物と言われているダンジョンもないわけではないのです。ほとんどのダンジョンにはダンジョンマスターを倒すといくつかのドロップ品の中に魔石が混じっているというのが魔物と言われる原因だと言われているんです。ダンジョン自体も一ヶ月ほどをかけて小さくなって最終的に消滅してしまいます。ただ、神からの贈り物と言われてるダンジョンのダンジョンマスターを倒しても魔石がない上ダンジョン自体が消えないのです。このダンジョンだけは神からの贈り物と言われています。実際はどうなのかわからないのですけどね。」
そう締めくくると石碑のわまりをぶらぶら歩く。ダンジョンお説明も要所要所でしてくれるのだが憶測の話が多くて結局わかっていることなんてないようだ。
わかってることといえばこの広間の光源となっている光る石リンゴは『禁断の実』と言われるということ。
街にある鑑定石より詳しく調べることのできる鑑定石を王都から持ってきてわざわざ調べたらしい。一度このアイテムを取ったものがダンジョンから湧いてきた大量の魔物に襲われたとあっては調べないわけにはいかなかったのだとか。
遠目から調べたアイテムの名が『禁断の果実』である。
効果は手にしたものに試練を与え乗り越えたものに大きな力を与えるのだとか。
その試練というのがダンジョンの魔物がわんさか襲ってくるとか乗れ超えられるわけがないと思う。
石の光が消えて本物のリンゴのような果実となった時に試練が始まる。
石碑から自然に落ちてくることがあるらしいが、蛇の口に投げ込むと効果がなくなって蛇に吸収されるのだという。
蛇の口って言っても石碑を加えているので隙間にちょうどハマるような大きさなので焦っていると入れにくそうだ。
綺麗な石だがそんな危ないものとはねぇ…