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蓬採り

ドシャ!!


「キャ!!」


小さな悲鳴と尻餅をつく音がする。

振り返るとカゴいっぱいに入っいた蓬かあたりに散らばっている。


「あっはっはっは!!バッタくらいで驚くんじゃないよ。」


近所のおば…お姉さんが快活に笑うと今にも泣き出しそうにうずくまる幼女。

日はまだ高く今は朝の10時くらいだろうか?

あたりには数十人の子供と10人程度の大人たちがいる。今日は蓬を採りに町の近くの草原に来ているのだ。

この町の学校に通っていない3・4歳の子供たちと一緒に蓬をはじめとした野草を採りに来ている。



昨日約束していた蓬採りの話が町中の主婦たちの中でなぜか広まり、「うちの子も一緒に連れてって」「蓬を採るなら他の野草も一緒に採りましょうよ私も行きますから」「子供が町の外に出てみたいっていうし」などSNS顔負けに拡散してどんどん参加人数が増えていったのだ。いくら町になったといえど村だった頃と同様にちょっとしたことも町中が知っている拡散力!!ど田舎主婦のフットワークと口は軽いのだ。


マジこえぇ〜〜


それはそれとして今朝6時に約束通り町の門前広場にやってきた時の子供の多さに『どこの幼稚園の遠足だ??』と訝しげに眺めていると、おば……お姉さんがこちらにやってきて「たかが蓬採りに町の(3・4歳の)子供ほとんどがきちまったねぇ」なんて聞いた時にはぎょっとしたものだ。

ドウシテコウナッタと一瞬頭が真っ白になってしまったくらいだ。

娯楽の少ない世界ではちょっと野草を採りに町の外に出るだけでも楽しいピクニックとなるのだ。


ダンジョンのおかげで冒険者も増えて危険な獣や魔物が街の近くにほとんどいないのでこの年代でも外に出してくれるというから実現するのであって他の町や村なら即解散になっているような人数なんじゃないか??


大所帯となったのでガヤガヤとしながら門からすぐ5分ほどの草原へとやってきた。

ん?なぜ外でとるのかって?

町の中にも確かに蓬の生えている空き地はあるのだが、俺が欲しいのは『もぐさ』を作れるだけの大量の蓬なのだ。

ちょっと季節の風物詩で食べましょうって感じではない。なので大量に生えている近くの草原へとやってきた。

はじめは空き地に行く予定だったが「いっぱい欲しいの」と俺が言うと大きな声で笑われてしまった。子供だからいっぱい欲しいのだとか思ってそうなお…ねいさんがだったら草原まで連れて行ってくれると言ってくれたのだ。

外には危険な動物や魔物なんかもいるが、草原はすぐ近いので大丈夫だろうと両親も許可をくれた。


山に草原とこの町は自然に恵まれているようでわざわざ人を襲ってくるものも少なく恵まれた環境での野草採り。

蓬も思っていたより大量にあるし気分も良かったのだが……今こうして俺が集めた蓬を散らかして泣きそうな女の子が一人。


この子は…おねえさん(やっとすんなり言えた)の孫、名前はアカリで3歳と同い年だ。まんまるい目におさげの可愛らしい女の子。人見知りだそうだが何故か初対面のはずの俺に懐いたようで一緒に蓬を取ってくれる。

さっきカマキリを捕まえて喜んでたので虫が嫌いということはないのだろうが、バッタとイナゴは苦手なんだろう。

今は草原に来てかれこれ四度目の半泣き状態に陥っている。

バッタが飛ぶとこの状態だ。


「びっくりしたね、もういないよ?大丈夫、大丈夫」


背中をさすりながら慰めると服の裾を摘まれた。


「よもぎこかしちゃった。ごめんなしゃい。」


震える声で謝るアカリ……。

かわええ。これはいい!眼福眼福。

やっぱり気分は良かった。かなり癒される。


「うーわ!!どんくさ〜い!!」


またか、もう四度目になるからかう声。前世でもよくいる失敗するとどこにでも湧いて出てくる騒がしいガキンチョだ。

たちの悪いことに一つ年上なのでものすごく上から目線で態度が悪い。

構って欲しいのかそこかしこで騒ぎ回ってかなりうざがられている。

とりあえず無視を決め込もうとしていると石が飛んできた。


「あぶね!!何すんだ!!」


「お前もどんくせぇんだろ〜」


挑発してくるガキンチョに少しイラつく。


「こらこら喧嘩するんじゃないよ」


お姉さん改めアカリ祖母が仲裁に来ると舌打ちをして走り去る。


「ごめんよ。あの子はユウトって名前なんだ…父親がいなくて母親も仕事でいつも家にいなくてねぇ……」


と苦笑するアカリ祖母。仲良くしてあげて欲しいのだろうか??

その後大量のもぐさを収穫できた。持ち上げることができなかったので5キロ近くあるんじゃね?なんて思いながらお姉さんに持ってもらい帰路につく。

帰る途中に何度か騒がしい声がしたが、例のガキンチョがいたずらして怒られているところだった。

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