鍼を作ろう
翌日になり、今日は魔法と錬丹術の練習をすることにした。
ちなみに父さんとの約束のスクロールは無かったことになった。これはスキルが錬丹術だったことからなので当然作らなくてもいいので問題ない。
午前中は基礎魔法の練習をして、午後には錬丹術の外丹を練習する。
現在3歳といくことは3年も鍼と灸を使っていない。
そろそろ手の感覚が心配になってきたので、鍼を作ろうかと思う。
まだまだ錬丹術を使い慣れていないので、細い鍼を作るのは難しそう。だって髪の毛ほどの細さにして針の先を加工することを考えると覚えたばかりのスキルでは難しいでしょ??
よって今回は身体に刺さない鍼を作ろうと考えている。
身体に刺さない鍼ならそこまで細くする必要はないし、使い捨てにしなくても衛生はたいして問題とならない。
刺さない鍼つまり接触鍼の鍼を作る!!
接触鍼は体に鍼に当てる・撫でることで氣の巡りを良くしたり、不足した氣を補い、余分な氣を除く施術を行う。
古典の中では『円鍼』『鍉鍼』と呼ばれるものがこれにあたる。
今回錬丹術で作ろうと思っているのは『鍉鍼』材料は銅、長さは80ミリ、太さは直径5ミリの物を作る予定だ。
流派によって形はいろいろあるのだが、古典に乗っているオーソドックスな形のものにしようと思っている。
まぁ単純な形のものしか作れないのだが……
うちは金属類は手に入りやすいのでどの材質だろうが用意できるので銅以外にも作れるのだが、いろいろ種類を作ったところで持ち歩くのが辛い。3歳の体には80ミリ程度だろうが邪魔なのだ。
銅を選んだのは前世でよく使ってたのが銅だっただけで他意はない。
金属によって氣の流れ方が違うのでどんな金属を使うか患者の体質に合わせながら変える鍼灸師も多い。
氣を補うのか散らすのかでも変えることもあるので今後増やしていこうとは思っているがそれは今じゃなくてもいい。
3歳の子供に治療してもらいたいなんて物好きはいないだろ!!
今は手の感覚を整然と同じくらいまで戻したいだけなのだからそこまで気にしてられない。
そろそろ鍼を作ろう。
まずは練習用に幾つかもらっている材料の中から銅を取り出す。
大人の大きさはこぶしぐらいか?
この銅の塊から鍼を作り出すのだが、想定の大きさの物を作るにはこの塊は大きい。
氣を集中させて鍉鍼の形を思い浮かべる。
銅の塊の中から適量を分離して形を整えていく。ゆっくりゆっくりと形を変える銅はまるでスライムのように蠢いている。昨日作った丸い玉を作るより難しい。
上時期昨日の玉はビー玉を思い浮かべて作ったがかなりいびつだったと思う。触れば凸凹のあることがわかるし、重心がずれていてまっすぐころがらなかったのだ。
今回作る鍉鍼はなめらかな円柱状にして、片方の端をすぼめて少しとがらせるように作っていきたい。重心も真ん中に作らないと氣の通り方も悪くなってしまう。
慎重に慎重に形を整える。
修行時代からずっと使っていた鍼だ。手が覚えている形も重さもしっかりと思い浮かぶ。
ゆっくり慎重に……一時間ほど錬丹術を使いやっと鍉鍼が出来上がる。
手に持ち感覚を確かめるが少し違和感がある。
重心が鍼先に寄りすぎているのだ。鍼先の作りを意識しすぎたようだ。それから鍼の中に少し魔力を感じる。
魔力を込めた鍼ができそうなのはいいのだが、生前の感覚を戻すに当たっては今の所不要だ。
「はぁ…形は思った通りなんだが……はり職人ってすごいな。」
一時間も集中して疲れてしまったが後一回は出来そうだ。
失敗した点を洗い出し、イメージを膨らませる。
円柱状の形、先端をすぼめて少しとがらせる。反対の頭になるところは丸くなめらかな形に加工。
手になじむ感覚を思い出しその通りに銅をかたどっていく。
治療風景を思い出しながら氣の流れる感覚を再現していく。何人何十人と子供から大人まで治療した修行時代を思い使い込まれて馴染んだ鍼。
目を瞑り集中していく。深く息を吸い込み氣を使って銅を覆い巡らせ思い出す。
今行っている集中・想像・呼吸は錬丹術を行う上で必要な技術だ。
それぞれ存思・行気・吐納と呼ばれ、内丹術を行う上でも非常に重要な身体技法である。現代社会でもこれらの三つの身体技法は医療・スポーツの分野でも使われている。
存思は座禅をすることで鍛えられる。意識を集中させることで心を鎮めて自律神経を整えることができるので、医療でも使われる自律神経コントロール法であり、スポーツでは『ゾーン』と呼ばれる集中力の高まった状態をいう。
行気は想像力だ。自分の体の動きをイメージしながら動く認知行動療法と言われるリハビリや、スポーツで勝つためにどのように動きを最小限ですませるかなどを思い描くイメージトレーニングは有名だろう。
吐納は呼吸法。深呼吸をすると体の余分な力を抜くことができ、リラックス効果がある。細く長い息を吐くと集中力が上がる。筋力を発揮させるには息を止めている。呼吸ひとつで体の持つどの力をどう発揮させるかが変わるのだ。
ゆっくりと目を開くと生前使っていた鍉鍼となんら変わりないものが手に握られていた。
「しゃ!!!」
いつの間に握っていたのかわからないが自分の思っていたそのものができていることに思わず声が漏れる。
窓を見るともう日が暮れていた。
一体何時間かかったのだろう?錬丹術は使いこなすにはもっと練習が必要だ。