最後の危険(後編)
世界中に降り注ぐ炎の雨・ラストハザード。
被害は大きくなっていくばかりでした。
世界一の巨大都市・ギンギンシティにも、遂にそれは襲いかかりました。
今、この街の神であるランディは留守中でした。
市民は恐怖に怯えていました。
そこに、一人の少年が現れました。
チン太郎です。
「キャー!」
女性を襲う炎。
「オラァッ!」
それを消し去るチン太郎。
「あ、ありがとう・・・キャー!」
再び悲鳴を上げる女性。
「どうした?」
戸惑うチン太郎。
「存在がセクハラー!」
逃げる女性。
「え!?」
社会の窓もパンツの窓も全開のチン太郎。
「・・・」
もう、メチャクチャでした。
「これじゃ英雄とは程遠いな・・・くそ」
炎を一つずつ消滅させて、チン太郎は言いました。
やはり彼には英雄の素質があるようでした。
世界中でラストハザードに対抗できる者は、金太郎、浦島太郎、ランディくらいなものでした。
「これは・・・」
そこに、またも英雄の素質を持つ者が現れました。
「どういう事だ?ランディがいないこの街が、無事ではないか」
この男は、まさに真の英雄といった所。
一度心が破壊され悪に染まりはしましたが、世界を二度も救った者です。
そう、彼こそは誰もが知る永遠のヒーロー・・・桃太郎です!
「おいおい随分と差のある紹介じゃないかっ!?」
どこかから馬鹿馬のそんな声が聞こえてきそうでした。
「む?」
桃太郎は、たった一人で炎と戦う少年を見付けました。
「なるほど、君のおかげか」
「ん?何だあんたは」
チン太郎は桃太郎の正体を知らず、疑い構えました。
それもそのはず。
今の桃太郎の格好は、ただの農民でしかありませんでした。
旅を終えた彼は、絶影と共に幾度か悪を倒したりもしましたが、普段は民達の畑仕事を手伝って生きてきたのです。
そこに、また新たなラストハザードが降り注ぎました。
チン太郎は炎に向かって構えましたが、その必要はありませんでした。
「ウォルフよ、私に力を・・・『神風』!」
犬型の風によって、全ての炎は一瞬で消え去りました。
格好は農民でも、その力は全く衰えてはいませんでした。
「あんた・・・何者だ?」
「私の名は、桃太郎という」
チン太郎は全てを理解しました。
「つまり絶影って奴のおかげで・・・」
そして全てを話しました。
「なるほどな、お姫様はプリンが好きなのか・・・」
桃太郎は全く話を聞いていませんでした。
もう一度話したチン太郎のストレスは、中々のものでした。
「よしよくわかった。そろそろ奴も来る頃だろう・・・」
そこに、一台の高級車が現れました。
「いや〜さすが桃太郎!オイラの予想通り、街を守ってくれてたんだな!」
「いや、この街を守ったのはこの少年・チン太郎だ」
「え、そーなのか?ありがとな、チン太郎!」
馬とはいえ他者に感謝される事はチン太郎には珍しく、彼は喜びを覚えていました。
「ところでランディ・・・」
「ん?」
「自分が管理している街を、危険にさらすなッ!」
「アギャーッ!」
桃太郎はランディを一刀両断し、言いました。
「よしウォーミングアップは済んだ・・・行くぞ」
「・・・あ、ああ」
三人は、ある場所へと出発しました。
「おい桃太郎サン、こっちは冥界門じゃないぞ?」
「力ある者は、一人でも多く協力した方が良い」
「どういう事だ?」
「かつての勇者は、もう一人いるのさ」
ランディは言いました。
「多少、いやかなり性格に難がある奴だが・・・頼りにはなるぜ」
そう言った瞬間、ランディは何者かに一刀両断された気分になりました。
「チン太郎、君はどうして冥界門なんかにいたんだ?」
「俺は、英雄になりたかったんだ・・・」
桃太郎を尊敬するチン太郎は、自分の夢と、いきさつを語りました。
「・・・なるほどな」
高級車は、ある家へと辿り着きます。
「我々がこれから会う男は、まさに英雄だ。だがそれがどんなものか、よくわかるよ」
「久しぶりだな。ばあさん、じいさん、ペルシャ。」
「おぉ、桃太郎!ランディも一緒か」
「にゃー」
「ここは無事なのかい?」
「ここにはまだラストハザードは降っておらんよ」
「そうか・・・で」
「アイツ、か」
全員が暗い顔をしました。
かつての勇者・・・彼は旅を終えた後タウンワークを見て、アルバイトを始めました。
しかしどのバイトをしても長く続かず、彼はいじけて三度ヒキコモリになってしまいました。
しかも今度は長く・・・彼は人に、三年寝太郎とまで呼ばれるようになったのでした。
そう、彼の名は――
「リンゴ太郎!」
部屋の前で、桃太郎・ランディ・太郎おじいさん・おばあさんは声を揃えて呼びました。
が、返事はありません。
桃太郎は言いました。
「わかっただろう、チン太郎。英雄だからといって、幸せになれる訳でもない。確かに世界を救うのは素晴らしい事だが、そこからどう生きるかは自分次第なんだ」
「・・・なるほど」
チン太郎は、絶影と桃太郎に会って、少しずつ考えが変わってきました。
「人には皆、それぞれできる事があるのだ。英雄になるのも生き方の一つだが、一番合った事をしていくのが良いのではないかな」
桃太郎はそう言って、刀『真月』を抜きました。
「『満月』!」
「待ってくれ!」
チン太郎は扉を破壊しようとする桃太郎を止めて、叫びました。
「おいリンゴ太郎サンよ!俺はずっと、アンタのような英雄になりたかったんだ!俺を・・・ガッカリさせんじゃねえよ!」
すると中から、声が聞こえました。
「俺にケンカ売ってんのか、テメー?」
その声はまさにリンゴ太郎でした。
「リンゴ太郎が・・・喋った」
おじいさんとおばあさんは感動しました。
「おらー!誰じゃい俺にケンカ売ってんのは!」
単純MAX、性格は一言で言えば最悪、かつての勇者最後の一人、リンゴ太郎が出てきました!
「テメーかバ家畜!」
「アギャーッ!」
刀『残月』でランディを一刀両断したリンゴ太郎は、言いました。
「・・・で?俺を怒らせてまで出てこさせたんだ。何かあったんだろ」
桃太郎、ランディ、チン太郎、リンゴ太郎の四人を乗せた高級車は、冥界門へと向かいます。
桃太郎は全てをリンゴ太郎に話しました。
リンゴ太郎は久々に外に出て、面倒臭そうでした。
そして遂に、最終決戦の時は来ました。
「『朱雀炎舞』!」
桃太郎のキジ型の炎によって氷が溶け、絶影は復活しました。
「おう、皆揃ったんだな!」
チン太郎は思いました。
仲間を信じ、己の身を凍らせてまで自分を逃がしてくれた。
そしてこれから力を合わせ、世界の為に戦おうとしている男・絶影。
この男もまた、尊敬するべき人物であると。
「よっしゃー!久々に、暴れるぜッ!」
リンゴ太郎は悪魔リンゴタリオンに、桃太郎は悪魔モモタロイザーへとそれぞれ変身しました。
ランディは角と羽を生やし、絶影は氷の刃を作り出し、チン太郎は構えました。
「ワシも忘れず使ってくれー!」
どこからかこんな声が聞こえたモモタロイザーは、TSUNAMIを繰り出しました。
猿型の大津波は、ラストハザード本体を解放しました。
「破ッ!」
桃太郎の衝撃波は、ラストハザードに穴を開けます。
ランディは飛び立ち、角でラストハザードを切り裂いていきます。
絶影とチン太郎は、交互に攻撃して取り込まれずに少しずつダメージを与える事に成功しました。
「・・・最初から協力すりゃあ、良かったのかもな」
絶影は笑いました。
チン太郎も、笑っていました。
「主人公は・・・俺じゃーっ!」
リンゴタリオンは大爆発を起こし、ラストハザードは遂に消滅してしまいました。
「あ、あれ・・・?もう終わり?」
「案外大した事なかったなー」
「まぁ良いではないか。平和が一番だ」
「暴れ足りねーぞ!」
五人は、またそれぞれの道へと戻ります。
リンゴ太郎は、再びタウンワークでバイト探しに。
ランディは、作家としての忙しい日々に。
桃太郎は、農民の手伝いに。
絶影は、また冥界門の見張りに。
そしてチン太郎は、旅を続ける事にしました。
しかしそれは悪を探すものではなく、困っている人々を助ける為のものでした。
この後チン太郎は、自分の進むべき道を見付け、新たな世代の英雄になった・・・のかもしれません。
こうして、最後の物語は幕を閉じました。
「俺の出番少なすぎじゃー!」
一人不満そうな主人公を残して・・・
『リンゴ太郎』 完