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Touch = everything  作者: 大友伊月
第1章
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第1章 第6話 伝説と決意

「これは……。フフッ、面白い」


 ギルド長はそう呟く。

 隣に来た兵士もほう、と感嘆の声を上げている。

 カウンターの向こうの女性は未だ口元に笑みを浮かべていた。

 そうなれば当然、日本人たる俺は愛想笑いを浮かべるほか無かった。


「なかなかのレアものでしょ?」

「ああ確かに。ここのギルド長を始めてから、こんなもんを見たのは初めてだよ」

「ああ、なるほど。確かにすげーな。うん、すげーすげー」


 三者三様、違う反応が見られる。

 子供が四つ葉のクローバーを見つけたような、自慢げな表情。

 昔を振り返りつつ、驚嘆に暮れる表情。

 そして、俺と似たように同調を返す表情。


 少なくともギルド員の二人は、何事が特殊かをわかっているようだ。

 一つとして良いところを見ていない兵士の評価がさらに下がる空気を感じつつ、二人の視線を追う。

 二人が驚きの表情を浮かべながら見ているのは、俺の顔だ。

 いや、視線はそれよりも少し高い……髪、か?


「黒髪黒目、原初魔法プロトマジック使いの坊主か……」

「原初魔法なら、ダイヤの街の狩人や騎士なんかでも聞くけど、黒髪でっていうんならそうそう聞かないよね」

「ああそうじゃな。いるんなら、すぐさま騎士になれるだろうし、名と姿が七つの街でもすぐ噂になっておるわ」


 原初魔法、聞くのは初めてだがなんとなくは想像できる。

 しかし、黒髪であるというのはどんな関係があるのだろうか。


 ちらりと横目で兵士を伺って見るが、「騎士……騎士……」と呟いているのみで情報を得られそうに無い。

 最早聞く他無いらしい。

 兵士が驚いていないように、この世界の常識で無い事を望みつつ尋ねる。


「あのっ。いったい何がそんなにレアなんですか?」

「んん? なんだい、気づかないのかい?」

「そこのも気づいてないみたいだね」

「そこのって俺の事か? もしかして喧嘩売られてるのか?」


 置いてけぼりだった兵士も会話に加わり、ギルド長がやれやれと言った風に説明を始める。


「建国の七勇士、この国を造った七人の伝説は知ってるかい?」


 俺と兵士は首を横に振る。

 ギルド長は「そこからかい……」と呆れつつも説明を続けてくれる。



◇◇◇


 建国の七勇士。

 その物語はジュエラの多くの民に知られる、ある種おとぎ話のような物語である。


 かつて王都も、その七つの街も無かった頃、ジュエラの土地には竜の山脈が無かった。

 今でこそジュエラ王国の北には高くそびえる竜の山脈があるが、その物語の中では無かったとされている。


 そして、竜の山脈のない先の土地にはジュエラ王国の領地同様、森や丘の点在する広大な平原が広がっていた。

 人々は村を造り、互いに助け合い生きていた。


 時には村が獣に襲われる事もあったが、戦い、隠れ、互いに共存はできないにしても、自然界のサイクルを形成していた。




 しかし、ある者が世界を変えてしまった。


 それは悪魔の誕生だ。

 獣でも、魔獣でも無い悪魔。

 人々は見つかれば、為す術無く殺されていった。


 それは瞬く間に勢力を拡大し、北の大地を支配していった。



 このままでは人類は滅ぶ。

 集まった人間達は口にこそ出しはしなかったが、皆同じ考えを共有していた。


 そんな絶望が人間を飲み込もうと笑みを浮かべる中、人々に希望の技術が生まれた。

 それこそが魔術。

 悪魔の使う不可思議な、法則を超えた力。

 人間はその一端を手にしたのだ。


 結果は目覚ましく、ついに人間は反旗を翻した。

 ただ貪るだけで成長をしなかった悪魔達は、ゆっくりとだが確実に人間に滅ぼされていった。


 ここで終われば、竜の山脈もなく、広大な土地を人間が支配できていただろう。

 しかし、事実として竜の山脈がある以上、物語はそこでは終わらなかった。



 追い詰められた悪魔達。

 自分たちは強者で、ただ滅ぼす存在だと思っていた。

 それが、人間などと言う肉体的にも魔法技術的にも劣る、数だけの存在に消されかかっている。

 皮肉にも、魔術を手に入れる前の人間と同じく、悪魔達も自身の滅びを共有していた。


 そして、悪魔は一つとなる事を決意した。

 個々の力では無く、軍団として戦うと。

 悪魔達は互いに力を見せ合い王となる存在を決めた。


 すなわち――魔王の誕生である。



 頭の付いた悪魔の軍勢は、それが一つの生き物であるかのように戦場を支配した。

 戦況は、魔王の指揮により再び悪魔側優勢へと戻った。


 人類の二度目の危機。

 しかし、人間は考えていた。

 自分たちが再び何者かに脅かされるのでは無いかと。

 結果、人類は七人の一騎当千の勇士を生み出した。




 炎魔法を操る、灼熱の剣士

 氷魔法を操る、氷雪の魔術師

 天魔法を操る、疾風の双剣士

 地魔法を操る、岩壁の重戦士

 神魔法を操る、光輝の神官

 獄魔法を操る、暗黒の操術士


 そして原初魔法を操る、創造の勇者である


 彼ら七人は運命の導きか、勇士達は打ち集い、互いの技を研鑽し合い、他の人々の届かぬ高みまで上り詰めていった。



 やがて、魔王誕生の知らせを受けた七人は命を削りながらも魔王軍と相対し、ついには魔王を打ち破った。



 しかしながら、七人の勇士も無傷であるはずも無く、勇者一人を残し六人の命が犠牲となった。


 残された勇者は、自身に残された全ての力と命を使い、竜の山脈を作り出した。

 その命の輝きは現在の王都の位置にあった村まで届くほどであったと言う。

 そしてそこには、七人の勇士の意志を受け取ったとばかりに竜が住み着き、悪魔達から人間を守り続けているのだという。



 物語の最後には、国ができ、その民達が自身の命を救った七人の勇士に敬意を払い、王都を囲む七つの街ができたと書かれているそうだ。


◇◇◇


 俺と兵士はギルド長の話を、紙芝居を見る子供のようにじっと聞いていた。


「これが建国の七勇士のお話だよ」

「……それで? こいつがその話のどこと繋がってるって言うんだよ?」


 兵士が俺を指さしながら言う。

 ギルド長は物語を語るときの優しげな顔を一変させ、またか、という諦めにも似た表情になる。


「確かだと言われてはいないが、建国の七勇士の一人、原初魔法を使った勇者が黒髪黒目だったって話さ」

「へぇ。でも、それってただのおとぎ話だろ?」

「どうせ言っても知らないだろうから教えてやるけど、現在の魔法体系はこの物語に登場する六つの魔法と原初魔法で分けられている。

そんでもって、その体系が定義されたのはこの本ができた後なんだ」

「それって、この本に書かれている事を元に体系が考えられたってことですか?」

「あんたは物わかりが良いね。そうさ、魔法ついて少しでも知ってる奴なら、皆知ってる」


 会ってから初めてギルド長の顔がパッと明るくなる。

 隣から「どうせ俺は魔法使えないしー」という声を浴びながらギルド長に質問を重ねる。


「今言った魔法体系って、一体どんな物なんですか?」

「うーん、そうだねぇ。教えても良いんだが……」


 ギルド長は何かを考える素振りを見せた後、ニヤリと笑った。

 先ほどまでの優しげな態度とは一変、商人のような雰囲気を醸し出している。


「ここから先はサービスが過ぎるってもんだろう? もっと聞きたいんならウチのギルドに入る事だね」

「うわぁ、ギルド長がめついなぁ」

「うるさいよ! これ以上なんか言ったら、今語って聞かせた分の金取らせてもらうからね」

「やっぱりがめついじゃないか」


 またもやコントを始めた二人を放っておいて考える。


 さて、どうしようか。

 魔法の適正のある者は、王都の魔法学校に入る事ができるらしい。

 騎士になれば、従軍義務が発生し自由に動けない代わりに、安定した生活を送る事ができる。


 確かに王都へは行きたいが、今すぐというわけでは無い。

 漠然と、そこに何かがあるような気がしてならない、というだけだ。


 では、狩人になるか?

 これも難しい。

 狩人は最初の年で死ぬ者が多い。

 それは力が無いだけで無く、経験から来るカンや状況判断ができないからだ。

 俺にそれができるかというと、正直自信が無い。

 森から出るときに必死の逃走をしたとはいえ、毎日あんなことをしていては精神が持たない。


 しかし、せっかく魔法適性があるんだ。

 職人や料理の道を進むのは考えが無さ過ぎるだろう。


 消去法でこれからの事を考えるのは危ないかもしれないが、選ぶとしたら、騎士か狩人か。

 ここまで考えて気付く。

 悩む必要があるのかと。



「ギルド長!」

「決まったかい?」

「はい! 俺、狩人になります!」

伝説に有り得ない展開はつきもの……ですよね?

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