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Touch = everything  作者: 大友伊月
第1章
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第1章 第5話 街とギルド

 アメジストの街は近隣の村々から様々な物品、食品、人材の集まる大きな都市だ。

 物が集まるところには、人が集まる。

 人が集まるところには、金が集まる。

 そして、金の集まるとこにはハンターギルドができる。


 初めて聞いた時には、ハンターギルドには金にがめつい奴らしか居ないのかと、勝手に悲しくもなったが、実はそうではないらしい。


 ハンターギルドとて、全ての仕事を慈善事業でやっているわけではない。

 口減らしに入った者、夢を見て入った者、実力を信じ入った者。

 そんな狩人ハンター達が依頼を受け、生活を送れるだけの需要と供給が成立して、ようやくハンターギルド支部が作られる。


 ハンターギルドがある街の周りでは、狩人達が日々、獣達を狩ったり、薬草を摘んだりと依頼をこなしているため、街までの道の安全性が比較的高い。

 その為、商人が集まり、経済が回り、また夢見る狩人希望者達が多く集まる。




 そんな説明をステラから聞き終わったところで、ちょうど入街検査の順番が回ってくる。

 この入街検査、街の南東、南西、北東、北西にそれぞれ設けられた大門のうち二つしか行っていないらしく、北西から来た俺たちは街壁を回り、北東の大門へ来ていた。

 北東の門は王都と近く、込み合っているため、街に入るだけでも一苦労だ。


 門前に着くと、腰に剣を帯びた男達が手慣れた様子で荷物をチェックしていく。

 俺の荷物は言うまでもない程だが、ステラ達の荷物もかなり少ない。

 学者らしい紙の資料に始まり、残り少ない食糧、エミリアの物と思われる剣と鎧、そしていくつかの樽。

 兵士が樽の中身が酒であったことを確認し、三人分の入街証を渡してくる。

 すると、奥から丸い水晶を持った男が出て来た。


「ステラさん、あれは?」

「あれは魔力波記憶水晶です」

「魔力波……?」

「簡単に言えば、誰が誰だか確認するための魔道具ね」


 ステラは学者というよりは先生のように指を立てて自慢げに話してくれる。


「街に入れた人が悪さをしたとき、それがどんな人で、いつ入ってきた人なのか、その照合をするために作られ、ジュエラ王国の全ての町で使われているんだよ」

「そして、それを作ったのはステラのお爺様なのです」


 俺が驚いた顔をすると、珍しくエミリアも得意げな表情で返してくる。

 しかし、その大発明家の孫は信じられないという顔をしながら、「何でエミィが言っちゃうの~」と涙声でエミリアの肩をゆすっている。


「では、この水晶に触れて名前と職業、魔法適正、登録番号を宣言してください」

「エミリア・オレンジ。職業は騎士、魔法適正なし、登録番号123729」

「うぅ……ステラ・キンバリー。学者、魔法適正なし、登録番号123491」


 二人の宣言に反応して、水晶が淡い緑の光を放つ。

 兵士は満足げにうんうんと頷き、そして俺に視線で催促をしてくる。

 もちろん俺には職業もないし、魔法適正も分からない、登録なんてものは初耳だ。

 そうして俺が困っていると、やはり察しのいいステラが助けてくれる。


「そっか、レオ君はまだ登録してないのか~」

「なるほど。未登録の方ですか。では、役所まで同行いただきますが、御一緒の方はここでお待ちになりますか?」

「いえ、私達はやらねばならない事がありますので」


 兵士の姿勢がさっきと変わったのを感じながら、二人の方を見る。

 ステラは、また今度―と手を振っているが、エミリアは姫を連れさる怪盗の様な笑みを浮かべていた。

 寂しいが、約束ではこの街までだった。

 しょうがないと自分に言い聞かせつつ、恩は必ず返しますと手を振りかえす。


◇◇◇


「規則だからな。悪く思うなよ」


 そう言って兵士は俺の手首に数珠の様な物をつけた。

 と同時、俺の体から何かが抜けていくような感覚がある。

 ――魔力払いか

 確かに、名前と職業を保証している物がない人間に何もしない方がおかしいというものだ。


「良し、着いてこい」


 俺の監視兼案内役を頼まれた兵士はそういってスイスイと進んでいく。

 こんな警備で大丈夫なのか、と疑問と不安を感じながら急いで彼についていく。

 何も喋ることもなくついていくのは寂しいので彼に会話を持ち掛けてみる。


「あの、役所ってどんなところなんですか?」

「あん? なんだ、坊主。その歳で何も知らねえのか?」

「はい……。親があまり世間の事を教えてくれなかったもので」


 引き続き何も知らない坊ちゃんを演じる。

 というより何も知らないのは本当なのだから、あながち演技でもないのだが。


「役所ってのは街の住民管理から、お前みたく魔力波を登録してねぇ奴の面倒見たり、街の魔力灯の点検したりする奴らだよ」


 なぜか心底嫌、という顔で兵士は言った。

 兵士の話を聞いているうちに街壁の通路を抜ける。



 最初に感じたのは驚きだった。

 獣、盗賊団、狩人なんかがいる世界、どうせ街は発展もしていない古めかしい物なのだと思っていた。

 良い意味での裏切りだった。

 街並みは整えられ、道は美しさを感じる石畳。

 街の入り口付近は煉瓦造りの倉庫が並び、その向こうには木の柱と梁、白い漆喰に藁の屋根で造られた民家や商店が見える。

 歩道と馬車の道は分けられているようで、さっきまで後ろに並んでいた商人の馬車が俺たちを追い抜き、街の中へ入っていくのが見えた。


 街の中を注意深く見てみると、彼の言っていた魔力灯らしき物が見つかる。


「あれが魔力灯ですか?」

「ああ。詳しいことは知らねぇが、一週間に一度は魔力の補給をしなくちゃならんらしい」


 この大きな街なら魔力灯が数えるほど、ということはないだろう。

 役所の仕事量の多さを考え肝が冷える。

 魔法の世界ではブラック企業なんて聞きたくも無い。


 しばらく街を眺めながら兵士と会話をしていると。


「あちゃー。今日は更新日だったかぁ」


 兵士が心底面倒くさそうに言って、頭を掻く。

 少し先に見える、人の出入りの激しい店。

 それが役所なのだろう。

 更新日という日本でも聞き覚えのある言葉に首をかしげていると、兵士が嫌そうな顔でこちらに振り向く。


「貴族街に入るだけの金は持ってるか?」

「お金はこれぽっちも持ってません。……あの、貴族街って何ですか?」

「そうか。金は無いか……」


 兵士は肩を落とした後、気を引き締めたのか覚悟を決めたような顔で貴族街について教えてくれた。



 このアメジストの街は――というよりこの王国にある全ての大きな街は、魔獣や獣たちから守る街壁と、貴族や豪商と平民を分ける第二壁によって、上空から見て四角形の中に四角が入るような形になっている。

 しかし、街壁が魔獣や獣に破られたことは無いため、第二壁は街壁よりも小さく造られており、街の景観を大きく損なう事にはなっていないらしい。

 だからといって問題が無いわけでは無く、貴族街――第二壁の中へ入るには住民以外は金がかかり、そのせいで平民と貴族の間には大きな軋轢が生じている。


 異世界だというのに、悪い意味で中々に人間らしい事を聞かされる内、街壁の門から真っ直ぐ続く道から少し外れたところにある酒場のような店の前で兵士が止まる。

 酒場と言うには少し大きく、掛かっている看板は剣と杖がクロスしたような物だ。

 兵士は得意満面の笑みでこう言った。


「坊主、ここがおまえの夢の始まり。ハンターギルドだ!」


◇◇◇


「ウチは役所じゃねぇんだ。帰りな」


 絵本の中にでも出てきそうな鷲鼻の小さな老婆がそう言う。

 兵士はさっきまでの得意げな顔を完全に崩し、汗を流しながら手揉みまでしている。


「ギルド長、そこんとこ何とかしてくれよ。役所で何時間も待たされたら今日の仕事が終わりゃしねえんだ。元狩人とギルド長の仲じゃねえか」

「あんたみたいな夢を捨てた奴なんかは、現実のつらーい仕事でひいひい言ってりゃ良いんだよ!」

「そこを何とか頼むよぉ。新しい狩人希望者なんだぜ? な?」


 さっきから無限ループに入っているんじゃ無いかと疑うほどに繰り返されている会話を、半ば諦めを持って耳から流しつつ周りを見る。

 ハンターギルドと聞いて最初に思い浮かべたような、酒場、受付、掲示板が並び、少し奥まったところには商店のような物が見える。

 写真にでも撮って部屋に飾りたい程に心が躍る風景だが、一つ足りない物がある。

 それは活気だ。

 酒場で酒を飲み食い散らかしたり、掲示板で目当ての依頼を奪い合ったり、受付で少しでも多く稼ごうとごねていたりと、俺の想像していたそういった喧噪がまるで無いのだ。


 気になって聞こうにも、兵士と老婆は未だ交渉を続けている。

 終わりが見えない会話を聞き続ける気もしなかったので、ちょうど近くを通ったギルド員らしき女性に話しかける。


「あの、すいません。魔力波とハンターギルドの登録に来たんですが……」

「ん? ああ、登録ですか?」


 赤茶の髪とそばかすが特徴的な女性だ。

 彼女は自分が話しかけられた事に驚いているのか、突然の仕事にやる気が出ないのか反応が悪い。


「えーと、じゃああちらのカウンターまで良いですか?」

「はい」


 やはり威勢の無い姿勢だが、ギルド員の通常がわからないので気にしない事にしよう。

 女性が受付カウンターの向こうに立つのを待って会話を再開する。


「それで、登録なんですけど、あんな事になってるんですが、できますか?」


 横目で未だに変わらない、最早コントになっているような二人の会話を見ながら問いかける。


「ああ、ギルド長が駄々捏ねるのはいつもの事なんで大丈夫大丈夫」

「……そうですか」

「それより、まずは魔力波の登録からね」


 そう言って女性は、街壁の門で見せられた丸い水晶より一回り小さい水晶をカウンターに乗せる。

 さあ、と言うかのように顎で水晶を指してくるが、どうすれば良いんだろう。

 顎で水晶を指すという行為への突っ込みは我慢して、とりあえず○○のママみたいな占い師がやるように、水晶に両手をかざす。

 すると――


「おおぉ」


 思わず声が出てしまうが、そんな事よりも目の前の事に思考を持って行かれる。

 光り輝く水晶。

 地球にもライトや炎で水晶を輝かせるような物はあったが、この光は神秘的とか超自然といった幻を見ているような気分にさせられる。

 海に反射するように揺らめく光を眺めていると、時間を忘れてしまいそうになる。

 これが魔法の光なのだろうか。


「はい、どーもー。じゃ次これね」


 そんな言葉とともに、無慈悲にも輝く水晶は持って行かれる。

 女性が次に出してきたのは、少し厚みのある六角形の板だ。


 板は、三角形をずらして重ねた六芒星が描かれており、中心の六角形に接する六つの三角形には六色の石のような物が嵌め込まれている。

 石は六個とも色が違い、黒、白、赤、青、緑、黄土の順に組み込まれている。


 これは流石に俺でもわかる。

 魔法適正を調べるための魔道具だろう。

 RPG的な考えでいけば、闇、光、火、水、風、土といったところか。


 さっきの水晶と同じように手をかざす。


「……あれ?」


 光らない。

 試しに手をどかしてみると真ん中の六角形の部分が淡く光っているだけだ。

 女性の顔を見ても驚いたような、面倒くさがっているような顔だ。


「えっとこれは――」

「ギルド長! いつまでもコントやってないでこっち来てください!」

「何がコントだ! こっちは夢を捨てたこの――」

「良いから、早く!」


 女性の声からは焦りがにじんでいる。

 しかし顔を見てみると、

 ――笑ってる?

 女性の表情の意味も、ギルド長を呼び出している訳もわからない。

 俺が何かまずい事をしたんだろうか……。



 ギルド長の歩く音に合わせて何事も無いようにと、何度も祈るを続けるしかできない俺なのであった。

微妙なとこで途切れてしまってすみません

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