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Touch = everything  作者: 大友伊月
第1章
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第1章 第2話 盗賊とこの世界

半分説明回です

「おい」


「おいって!」


「そろそろ起きろっ!」


 男の怒鳴り声にビクリと体が反応し飛び起きる。

 目を丸くして驚く俺に隣から笑い声が聞こえる。

 目を向けるとそこには笑いかけてくる一人の男がいた。


 彼の名前はレイ=ウォロス、ぼさぼさの茶髪にもっさりとした髭を蓄えた筋肉質な男だ。

 付け加えるなら、黒目、日焼け肌に煤だらけの服、推定180㎝の巨漢で30歳ほど、という事ぐらいだ。

 こいつがどんな人物か、三日ほど一緒にいるがうまくつかめていない。


 何故そんな人物と一緒にいるのか、その理由は森の入り口で気絶してしまった頃まで遡って説明しよう。


◆◆◆


「黒髪とは珍しい。これは良い拾いものかもな」

「でもよ、兄貴。これ担いで行くの俺なんだろ?人ひとり担いで森歩くのって大変なんだぜ?」

「うるせえ!俺だって少し前までは同じことやらされてたんだ!文句言うんじゃねえ!」

「ひいぃ。いきなり怒鳴んないでくれよぉ。やるからさぁ」


 会話。

 脳がそれを会話だと認識したとき、俺の体は未だ木の根の上に倒れたままだった。

 会話は英語で少し訛りがある。

 しかし、何故だか会話の内容がしっかりと流れ込んでくる。

 そんな不思議な感覚に戸惑いながらも、男たちの会話をしっかりと聞いていく。


「こいつが魔術師や能力持ち(スキルホルダー)だったら面倒だ。さっさと縛るぞ。」

「はーい」

「じゃあ俺は周辺の見回りでもしてるか」

「えぇこれも一人なんすか。はぁ」


 会話の内容を聞く限り、俺のことを縛り上げようとしているらしい。

 そして、俺を縛っている男が下で、見回りをしている男が上の関係、さらにその上にも少なくとも一人いるらしい。

 それにしても、魔術師ねぇ。

 魔術師や能力持ちというのが何かは気になるが、体はまだ動かないし、無理に動かしたとしても男二人にはかなわない。

 そう判断し気絶した振りを続ける。


「これでよしっと」


 数分の後、俺を縛っていた男がそういうと、見回りの男が戻り、森の中へ向かうジェスチャーをする。

 先ほどの会話から察するに彼らは森に住んでいる、というよりは縄張りにしているようだ。

 これから何をされるのかは分からないが、わざわざ森の奥まで担いで行って殺しはしないだろう。

 ありそうなのは、大麻の栽培や物作りなどの強制労働だろう。

 でなければ、頑張ってあの鳥から逃げたというのに救いがなさすぎる。


◇◇◇


 そして担がれること数十分、俺は十数人の男たちに睨まれていた。


「それで?お前らが運んで来たこいつは何ができるんだい?ええ?」


 幾人もの大きな男がいる中、目立って大きな男が玉座の様な岩に座り、怒りを滲ませた笑みで男二人に詰め寄っている。

 怒りの対象はもちろんさっきの俺を運んでいた二人なのだが、威圧感のある大きな男の前では子供のようにさえ見えてしまう。

 そんな二人は、森の中とは打って変わって慣れない敬語でたどたどしく自己弁護をしていた。


「ええとですね、まず黒髪というのが珍しくてですね?奴隷商に売れば大きな金になると思いますし、男ですから労働力にもなります。そして――」

「んなこと、お前が言わなくても分かってんだよ!だがな!今は奴隷商を呼んで取引してるような状態じゃねえっつってんだ!」

「うぅ。はい」

「大体テメーら、つい十日前にもあの無駄にでかい奴担いで来たよなぁ?俺はその時に同じ事注意してやったんだよな?ええ?」

「でも、それは十日も前の事ですし、黒髪なんか珍しいですし・・・」

「はあ!?おいフロー、こいつら殺したほうがいいんじゃないか!?」


 物騒なことを言い出した男に俺がビクビクしていると、奥から細身の男がスルリと出てくる。

 出てきたフローと呼ばれる男は、やれやれといった様子で口元に笑みを浮かべている。


「ボス、確かに今は重要な時ではありますが、そうポンポンと仲間を殺していては誰も着いて来なくなりますよ?」

「フロー、お前は逆に甘すぎるんだ。そろそろ一人か二人は見せしめにしておくべきだろう?」

「いいえ、ダメですよ殺しちゃ。力は敵を滅ぼす時に、信頼は仲間を許す時に、ですよ?先代から言い聞かされたでしょう?」

「でもなぁ・・・。チッ、分かったよ。こいつらの罰はお前が決めておけ。俺は奥でもう一眠りしてくる。」

「了解しました、ボス」


 ボスと呼ばれた男は怒りを孕んだ欠伸をしながら、のっしのっしと森の奥へ消えていく。

 残された男たちも数人が残り、ほとんどは森に散って行く。

 残った男たちは、事の顛末、つまり彼らに与えられる罰が気になっているらしい。

 与える罰の決定権を託されたフローは、二人に向き直り、こう言った。


「前回、厳しく言ったつもりでしたがどうやら分からなかったようですから、今回は殺さない程度にキツイ罰になりますが分かっていますね?」

「頼むフローさん!悪いことしたってのは分かってるんだ!お手柔らかにお願いします!」


 二人は祈るように目を瞑りながら、頭が地面に着くかというところまで深く頭を下げる。

 フローはまたもや、やれやれといった感じで笑みを浮かべている。


「まあ大目に見てあげても、そこの黒髪と前に担いできた大男の見張り、それから一週間の食事なし、事が片付いてから幹部の玩具ってとこですかね」

「うぅ、ありがとうございます」


 二人は言葉とは裏腹に残念そうな顔をしていたが、それ以上に顛末を見に残った男たちのほうが残念そうな顔をしていた。

 フローの言葉の通り、大目に見たという事なのだろう。


 そして、俺の投獄が行われ、狭い獄内でレイに出会ったというわけだ。


◆◆◆


「レイ、約束の三日後になったわけだが、そろそろ作戦ってのを教えてくれてもいいんじゃないか?」


 レイに強制的に起こされた俺は若干苛立ちを含ませてそう尋ねた。

 約束というのは俺が投獄された日、互いに自己紹介をした後、「脱獄できる作戦がある」、とレイから言われた時のものだ。

 俺もこのままあの盗賊団と一緒に居たい訳ではないし、何よりこの訳の分からない事になって状況になって、初めて友好的に話しかけられたのだから、一も二も無く飛びついた。

 冷静になって考えれば、餌に飛びつく動物並みに浅はかだったが、この三日レイと様々なことを話して結果的に良い判断だったと考えるようになった。


 彼には全ての事を教えてもらった。

 盗賊団の事、俺の状況、そしてこの世界の事。


 まず聞いたのはこの盗賊団のことだ。

 彼らはルーズ盗賊団と呼ばれ、この森を拠点に二十年近く盗賊をやっているそうだ。

 この森は近隣の村と都市を繋ぐ道の一つであるらしく、森を大回りしていくと倍近い時間がかかってしまうのだとか。

 何度も殲滅隊が編成されてはいるのだが、森に罠を巡らせ猿のように木々を渡って隊を全滅させようとしてきたらしい。


「あいつらの中に魔術師や能力持ちはいねぇ。だが二十年積み重ねられた経験は森の魔獣以上だ」


 と彼は言った。


 魔術師、能力持ち更には魔獣。

 ルーズ盗賊団の事も気になるがそれ以上に聞かなくてはいけないワードが出てきた。

 英語であるため聞き間違いや解釈ミス、スラングや隠語という可能性もあったし、彼からの俺への評価を下げてしまう可能性もあった。

 彼が冗談や妄想を語っているようにも見えない。

 聞かない訳にはいかなかった。

 動物的本能、とでもいうべきだろうか。

 俺の無意識がいつの間にか、自覚なく彼に質問をしていた。


「レイ。ルーズ盗賊団の事は少し置いておいて、その魔獣や魔術師ってのの事を教えてもらえないか?」


 俺が自分自身に驚きつつも、真面目な顔でそう問うと、レイは、


「おいおい、そんなことも知らないほどの箱入り坊ちゃんかよ」


 と嫌そうな顔をしつつも教えてくれた。


◇◇◇


 ジュエラ王国。

 その王国には多くの人間が住み、周辺の亜人種族達と貿易を行っている。

 ジュエラ王国は横に広い形をしており、北を竜の山脈、西を海人族の住む海、東を猫人族の国、南東をドワーフ達の国に、そして南西を鳥人族の暮らす高山に接した国である。

 国の真ん中に王都が存在し、そこから蜘蛛の巣状に町と街道が設置されている。

 王都には多くの商人と貴族、騎士が暮らしている。

 しかし、国民の殆どが商人、農民、料理屋そして狩人を生業としている。


 狩人。

 それは俺が元居た世界では、森や野から動物達を狩って町で売る職業の事を指したが、この世界では少し毛色が違うらしい。

 彼らは元の世界同様、動物を狩り生計を立ててはいる。

 しかしそれは町や村での仕事で、世間から期待される彼らの仕事は魔獣狩りだ。


 魔獣とは、森、山などの地脈が集まりやすいところに発生し、大抵は動物の変異種である。

 多くの場合、動物が魔獣化すると理性をなくし、同族を傷つけ、最終的には同族の手によって葬られる。

 しかし、例外的に理性を保った個体は、強さを持って群れを統率し、縄張りを拡大する。


 そして、人間の生活圏に侵入した魔獣を狩るのが狩人である。

 狩人になる者の多くは村からの口減らしであったり、力や技自慢であったりと様々だが、けっして多くはない。

 命の危険が伴う上、安定しない収入などに苦しみ、なったとしても一年で半数はやめるか、死ぬかしてしまう。


 そんな仕事だが、向いている人には金の生る木だ。

 それこそが、魔術師、能力持ちだ。


 魔術師はその言葉の通り、魔の術を使う者たちの総称である。

 人間は体内の魔力を無意識的に調節し生活をしているが、それを意識的に行い、かつ術として発動させる事ができる事が魔術師の条件だ。

 多くの魔術師は十歳になる前に大抵が意識的に魔力を操作できるようになり、才能を買われ騎士団に入るか、それを断り狩人になる。


 断る者の多くは一代で財を成すほどの大物で、彼らの一騎当千の逸話は各地に存在している。


 断らず騎士団に入った者は、騎士団直属の魔術師養成学校へ入り、騎士として使えるようになるまで厳しい教育を受ける。

 しかし、それだけに待遇も良く、衣食住は王国に保障され、家族の税金も少しではあるが減らされる。



 そして、能力持ちであるが、これは学術的には魔術師に分類される。

 事実として、能力持ちの多くは通常の魔法も扱えるため、騎士団からの勧誘も待遇も厚い。

 能力持ちとは、魔術師が十歳までに魔力を意識的に動かせるようになる頃、ある一定の魔法において特別な効果を発揮させる者たちの事だ。

 例として、現在の本来ならば岩魔術の研鑽を積まなくては使いこなせぬ≪砂嵐≫を、本来の使用魔力量よりも少なく、本来の規模よりも大きく発動させた者もいる。

 王都で進められている研究では、『能力持ちは魔法を魂に刷り込まれたイメージから発動するため、一般の魔術師が発動するよりもノイズが少なく、そのために多大な効果を期待できる』という仮説に基づいている。


◇◇◇


 レイとの対等な関係を代償に、俺は新たな知識と困惑を手にした。

 彼の言う事を行き過ぎた冗談だと笑うこともできる。

 しかし、飛行機で出会ったあの大男に気絶させられて以来起こった、様々な出来事は事実として俺の記憶にある。


 そんな風に悩む俺に、レイが約束を持ちかけてきたのが三日前。

 内容はレイの脱出作戦を俺が手伝う事。


 レイにこの世界の事を聞いた手前断ることはできなかった。

 仮に全てが出鱈目だったとしても、この作戦に乗らなくてはならない事はハッキリと分かっていた。

 そして、先ほど起こされた後、彼から作戦の内容が発表された。




 カツカツカツ、と牢獄を見回る歩く音がする。


 いよいよ、命がけの作戦が始まる。

 能力持ちに「スキルホルダー」とルビを振ったのですが、一部端末やブラウザでは見られないとのことです。

 これから出すルビは後書きにも書いていこうと思います。

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