第1章 第1話 草原と鳥
書いていくと淡々となってしまう第一話
駆ける暖かな風、なびく草花。
日は高く、雲一つない空の中で眩しく輝いている。
膝ほどまである雑草と、それらに隠れ穏やかな生活を送る動物たち。
そして獲物を捜し、空から睥睨する大きな鳥類。
日本ではあまり見る事の出来なくなった広い草原の調和を乱す異質な存在が一つ。
それはジーンズパンツにスニーカー、上には半袖のシャツのみという非自然的な服装に、呆けた顔を乗せて立ち尽くす男。
そう、俺だ。
飛行機で謎の男にいきなりの首絞めからワンパンであっけなく気絶した俺である。
「はぁ」
この広い草原で目覚めてから数分、何度目になるかもわからないため息をついて事務的に状況を確認する。
確定している事実は二つ。
まず俺がこの草原に立っていること。
これは揺るぎようのない事実だろう。
夢でないことは俺によって抓られた左手が証明してくれている。
そして、俺の知る限りでは五感全てを完璧に再現するような機械は発明されてないし、されていたとして俺をモルモットにする必要はないはずだ。
これはまだ良く、問題は次だ。
二つ目の事実は、遠くに見える種類の判別不能な鳥。
鳥がいるだけなら問題はないのだが、あの鳥はこちらを見ている。
先ほどから何回か逃走を計っているのだが、こちらが一歩でも動こうものなら大きく翼を広げて威嚇をしてくる。
さすがに挨拶をしているだとか、友好の証だとかと楽観的に考えられはしない。
動物は、命乞いなど聞いてはくれないのだ
以上が現在の状況だ。
飛行機で見た甲冑男と今の状況が関係しているように思えてならないが今は置いておくほかないだろう。
目下重要なのは、あの鳥から何とかして逃げること。
次いで、この広い草原が一体どこなのか知ること。
取り敢えずは行動を起こさずに待って見る事にした。
今のところあの鳥は、こちらを見てはいても積極的には襲ってこないし、仲間を呼んでいるという事もなさそうだ。
相手がこちらを見るという事は、こちらも相手を見る事ができるという事なのだ。
そんなことを考えながら立ち尽くすこと体感1時間。
周りの風景にも少しずつ違いが在るのが分かってきた。
例えば、50メートルほど先にある大きな岩。
膝ほどの高さの雑草から少し出るくらいだから高さはあまり無いだろうが、その岩は横に広いのだ。
ここから見たところでは、幅は7メートルほど。
時折その上を何か小さな動物が走っていくのが見える。
鳥からはここまでの距離と、あの岩までの距離はそう変わらないように見える。
それでいて俺にターゲットを絞っているのには理由があるのだろう。
その理由がここから逃げ出すためのキーになるはずだ。
そうとでも考えないとやっていられない、というのもあるのだが・・・。
分かったことの二つ目は、上空に見えている鳥たちは、あの鳥を避けている様だという事。
この事からはあの鳥が確実に俺より強いという事が分かった。
RPG的な考えで取り敢えず逃げるか戦おう、とは考えてはいなかったが、あの鳥が強いというのは逆に良い事でもあると考えることができた。
なにせ何故だかは分からないが、あの鳥がこちらを見ているおかげで逆に周囲を警戒しなくても良い状況になっている。
以上のことから考えられる策は、あの鳥に守って貰いつつあの鳥から逃げる事だ。
我ながら策とも呼べない矛盾した考えだが、俺には武器と呼べるものはないのだ。
人類の繁栄に照らし合わせれば、力ではなく知恵を持つこちらが有利なのだと自身を鼓舞する。
「ふぅ~」
立ったままに鳥が反応しない範囲で体をほぐしていく。
スニーカーの靴紐をチェックし、ジーパンのベルトを少し緩める。
パンッ、と頬を両手で叩き気合を入れる。
準備は完了だ。
◆◆◆
夜も深まり辺りが見え辛くなってきた頃、俺は一人緊張を表に出さぬようゆっくりと移動していた。
そう、移動に成功したのだ。
もちろん全力で逃げたわけでも、正面から戦い勝ったわけでもない。
ではどうしたのかと端的に言えば、錯覚を利用したのだ。
もちろん千人を千人騙す手品のようなものではなく、素人が簡単にできるレベルのものだ。
きっと日本人なら多くの人がテレビなどで見たことのあるはずのメジャーな錯視、遠近法だ。
まず初めに準備実験を行った
最初に確かめたのは、あの鳥がどのような認識をしているのか。
次に、俺が一瞬でどこまで動く事を許容されているのかだ。
結果から言えば、あの鳥は人間と同じように錯覚し、俺の行動は体の方向を変える程度は許容されていた。
遠近法は細かくやるならば、もっと綿密に情報を集めるべきなのだが、先が分からない以上、贅沢は言っていられない。
正直俺らしくない賭けをしたが、成功してよかった。
ここまで情報がそろえばあとは慎重に行動すればいいだけだった。
精神と肉値の疲労から変な笑いを浮かべ、背伸びをしたり体勢を変えたりしながら後ろに下がっていく姿は、知り合いに見つかっていたらせっかく助かった命を捨てていたところだったろう。
そんな、もう一度は絶対にやりたくない成功を経て、途中で辺りをつけていた森の中まで何とか逃げ遂せた。
◆◆◆
森の入り口で休むこと数時間。
今更ながらに冷静になり、あの鳥は番人の様な者だったのではと考え始めていた。
仮に、あの草原に地下住居などが在ったとするなら、俺はせっかくの現地人との交流チャンスを逃してしまったのではないかと、ネガティブさが滲み出してくる。
「ぁぁ」
長い緊張の中ずっと言葉を発していなかったことを思い出し、掠れた声を出す。
どうやら自分が思っていたよりも疲労は溜まっていたようで、視界までもが掠れてくる。
これからのことを思い、未来視でもしたかのように、自分の体が動物に引き裂かれる光景を幻視する。
意識を強く持ち何とか耐えようとするが、意志で止められる域はとうに超えていたらしく、俺は人生二度目の気絶を味わった。
未だにどのくらいのプロットが何文字になるか分かっていないですが、他作者様に倣い2000~4000文字を目安に書いていきたいと思っています。
今回は2000程になりましたが次回から人との交流を入れていくのでもう少し長くなると思われます。
あと、主人公が自分の能力に気が付くのは少し先の予定です。