表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Touch = everything  作者: 大友伊月
第1章
1/7

第1章 第0話 プロローグ

 日本発メキシコ行き航空路。

 航行予定に変更なく、飛行機は予定通りにメキシコを目指していた。

 到着まであと少しのフライトというところで俺は目を覚ました。


「変な時間に起きちゃったな」


 時計を確認しつつ独り言を呟き、周りを確認する。

 俺の右隣には、しっかりとスーツを着込んだ20代半ばの会社員が眠っている。

 さらにその隣には、メキシコへ帰るところなのか子供と手を繋いでいる親子が見える。

 俺の左は通路になっており、その向こうには筋肉の隆起した金髪の男性がいびきを掻いていた。

 起きているのは俺だけのようだ。

 確認を終えると同時、急に尿意を感じシートベルトを外した。

 案内を頼りにトイレへと向かう。


「誰も起きてないのか?」


 初の海外旅行なためか少しの違和感に恐怖心を煽られる。

 誰もとは言ってもCAや機長なんかは起きているだろうから、怯える事など無いのだ。

 しかし、臆病な俺の足取りは慎重さを増し、ゆっくりと足音を殺して歩いていた。

 きっとそれがいけなかったのだろう。

 ガチャリ、と静かな機内に音が響く。

 普段なら少し肩が震える程度であろう音、しかし緊張と不安、そして飛行機の中という特殊な状況にトイレのカギが開いただけの音に俺は腰を抜かしてしまう。

 そしてゆっくりと扉が開かれる。


「えっ?」


 最初に感じたのは驚き、次に不安、緊張。

 それはそうだろう、なぜならトイレから出てきたのは夢にすら見たことのない姿。

 全身に輝く甲冑をつけた大男だったのだから。


「えっと、あの・・・」


 腰を抜かしているため更に大きく見える甲冑男に対して、しっかりと喋れというのは流石にどんなに胆の据わったやつでもできないだろう。

 当然、俺は胆も据わっていなければ大男に慣れているわけでもない。

 言葉が上手く紡げない俺を、大男は怒るでも無視するでもなく言った。


「次はお前の番だ」


 その流暢な日本語から少し落ち着きを取り戻した俺は、大男の言葉の意味をトイレの順番だと理解し通路を譲ろうとした。

 しかし、俺はもう少し落ち着いて考えを巡らすべきだったのだ。

 大男の甲冑もそうであったし、何より言葉と甲冑の向こうから覗く鋭い目が何よりも雄弁に彼の意思を語っていたのだから。


「ぅぐっ」


 抜けた腰を何とかして動こうとしていた俺は、気付けば大男に首をつかまれていた。

 金属の甲冑から伝わる冷たさが、落ち着きを通り越した諦念を俺に抱かせた。

 ―――やばいっ!

 殺されるだとか、殴られるとかそんな具体的な思考に辿り着かない本能的な恐怖。

 動物としての生存本能が危機を訴えていた。


「オラァッ!」


 大男の空いていた右手が強く握られ、グンッ、と拳が鳩尾を衝く。

 俺は恐怖と焦りに思考を奪われたまま痛みに抗う。

 しかし、悲しくも俺の体は大男の渾身のパンチを受けられるほど強くはなく、何かを伝えることも叶わず、俺の意識はそこで途切れた。


自分の頭の中にある風景を文章にするのは難しいですが面白いです。

不定期掲載になると思いますがよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ