表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/66

二つの瞳


 摂政、藤原道親ふじわらのみちちかの邸は典型的な貴族の邸で、南に面して広い池が広がり東西にそれぞれ対になる棟がある。その内の東の対屋たいのやに通された。

 御簾みすの向こうに摂政の息子にして弱冠十八歳で内大臣を務める藤原輝道の座る姿が見える。

 半分は御簾が上げられているが、顔は見せない程度に下ろされている。


 結局、なぜ紅波を探していたか詳しい話を聞きそびれてしまった城山は、これが何の為の訪問かいまいち分からぬままで緊張しながら高時の後方に控えていた。


「龍堂殿、今日はご足労いただきましたね。事情が事情ですのではっきり分かるまでは父には内密でと思っております。過剰な期待などさせては体に障りますので」

「それは賢明なことですな。さすが内大臣様」

「そのような追従は好きではありません。早速ですが、今日お連れ下さってるその方々は……」


 御所の中で幾度か遠目に見かけたことはあったが、声を聞くのは初めてだった城山は、そのはっきりとした物言いに少し気圧されていた。

 今まで見てきた公達きんだちは皆、あやふやな物言いで薄紙に包んだような言葉で腹を探り合うのが普通だっただけに、ハキハキと歯切れ良く、しかもきっぱりと告げる若き内大臣に驚いたのだ。


「これに控えるのは城山隼人。今現在は院の命で京の警護を担う隊長を務めております」

「ほう、その城山殿がこの者を見つけたと」

「はい。私もこの城山の働きには感謝しておりますれば、ぜひ我が配下に加えたく思います。どうか内大臣殿から帝に働きかけてはいただけませぬか?」

「ふふふ、龍堂殿は策士ですね。院がお使いの者を私から引き渡すように告げろと? それも帝を通してと。院と帝の確執をご存知の上でおっしゃられているのですね」


 にやりと高時は不敵に微笑む。


 御簾の内側でパチリと扇を閉じる音がして、衣擦れの音をさせて輝道が体を揺らせた。

「もしそこにいる者が本物であれば、その件をとりもちましょうぞ」

「お願いいたします」

 そこで高時が頭を下げる。


 城山も紅波もじっと顔を上げずにずっと平伏したままなので、輝道が動いて御簾から出て、紅波の前で立ち止まった時にもまだ顔を上げてはいなかった。


「確か姶良朔夜と申したか。そなた顔を私に見せてくれないか」


 静かにゆっくりと紅波が顔を上げる。


 冬の陽射しが深く差し込み紅波の横顔を綺麗に浮かび上がらせる。

 真正面に立つ公達を真っ直ぐに見上げた。


 はっと息を飲み込んだ。

 互いに。


 似ていたのだ。


 少し茶色味がかった瞳も、意志の強そうな引き締まった唇も、印象的な綺麗な二重の瞳も、そして背格好も、全てが似ていた。


 息を飲むほど。


 違いは紅波の眼差しが鋭くて鋭利な刃物のようなのに比べて輝道の眼差しは冷えた氷のように冷ややかである。

 それだけの違いに見えた。


 ここに至って城山は事態が見えてきて唾を飲み込んだ。


(まさか……こいつが、まさか双子の?)


 いつぞや高時に話したのは自分だった。

 似た男がいると高時から聞いて。


 まさか、と思うが目の前の二人は瓜二つであった。


「……こ、これは……」

 絶句した輝道が閉じた扇で口元を押さえて隠した。

 思わず何か口走りそうになったようだ。


 数回大きく息を吐き出した後、紅波の前で膝をついて視線を合わせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ