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宴の狭間



 龍堂邸では城山の部下達が集まり盛大な宴会が催されていたが、城山と紅波は別室で話し込んでいた。


 紅波が元々は高時に仕えていたことや、二年程前に高時の元を去り、その後金造に拾われて暁の紅波と呼ばれるようになったこと、そしてこの刀が元々自分の物であったことを告げた。


「その刀、いわくつきか?」

 城山はどの話にも驚いたが、何よりも刀のところで食いついた。

 怪しいと思っていた刀だが、高時が探していた事もこの刀を持った男がおかしくなった事も、売らずに奉納したことも何か事情があるはずだと踏んだ。

 今までいつも人を小馬鹿にした話し方をしていた紅波だったが、今は真摯に受け答えをする。

 まるで人が違ったのかと思えるほど口調は凜としてそれでいながら穏やかだった。


「この刀は元々駿河の国のある寺に封印されていた妖刀だった。ある日封印が解かれて暴れ出したこいつが、なぜか俺にだけは従ったんだ。俺以外の者が持てば気が狂ったようになって辺り構わず斬り殺す。なぜ花折はなざき神社で眠っていたこいつが暴れ出したのか分からないが、やはり俺が持っているべき刀だったんだな」


 どこか愛おしそうに刀を撫でる。


 鞘は比較的新しい作りだが、柄は相当古い物だと分かるその刀を見て、城山は信じられない顔をした。

「それは……本気で話しているんだよな?」

「ふっ、お前が言い出したことだぞ、いわくつきかって」

「それはそうだが……まさか本当に?」

「ああ。残念だが本当だ」


 差し向かいで話している部屋には時折宴会の声が切れ切れに聞こえてくるだけで、静かなものだった。

 紅波の姿は何一つ変わらないのに、その表情から甘やかさと妖艶さが消えていることに気がついた。

 真っ直ぐに見つめる人を射すくめる瞳が城山を射抜いた。


「城山、あの連中といるのは楽しいか?」

「え?」

「朝廷に尻尾を振るのは終わりにしないか?」

「なにを……」

「高時に仕えるつもりはないか? 腐った自己の地位を争うだけの底なしの泥沼のような所で足掻くな、城山。お前ならあいつの強さや光に惹かれないはずはないだろう?」

「それで龍堂に尻尾を振れと? 主を変えろと?」

 鼻で笑って馬鹿にしてみるが、城山の心は早鐘を打つ。


 ――光。そうか、いつも龍堂高時に感じていたのは強い光だったのか。


「どう考えるかはお前の勝手だが、少なくとも高時はつまらない地位争いなどさせない。人が持てる力を存分に出させる男だ。もっと広い場所に向かってみろよ。それに、香弥の為にも」

「……香弥」

 こいつの口から香弥の名が出るだけで気持ちは乱れる。


 香弥が身売りの如き生活をしているのは知っているが、香弥が好んで寝るのがこいつだけだと思うと何とも言えない黒い感情が湧き上がる。


 城山の憎む目に気がついた紅波が少し困ったように笑った。


「だから前にも言っただろう。あいつが俺を選ぶのは俺にお前の面影を重ねているだけだ。本当に欲しいのはお前なんだ。香弥の心を信じてやって受け入れてやれ。あいつも強い女だから強情で素直に頷かないだろうが、お前を欲して苦しんでいるんだ。きっと難しい選択だろうが、お前が欲しい物、お前がしたいことをいい加減しっかりと見据えろよ」

「お前は……龍堂殿との、その……何と言うか、愛し合っていたのか?」

「は?」

「だから、その……小姓なんかは夜伽よとぎをするんだろうが。お前とあの方とは何というか尋常ならざる間柄に思えるのだが? 龍堂殿はお前を特別に扱っていたんじゃないのか?」

 言いにくそうにもごもごと口ごもりながら問いかける城山に思わず紅波が吹き出した。


「高時は男は抱かないさ。まあ今は知らないが俺の知っている限りでは男色は一切なかったな。尋常ならざるように見えたのなら、それは愛し合っているからではなくて憎しみあっていたからかもしれない」

「憎しみ?」

「ああ、これを見ろ」


 いつものように着崩してだらしなく着ている青の着物から左腕を抜いて肩を城山の前に晒した。


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