表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/66

燃える邸


 龍堂の邸は今や派手に燃えている。

 火に怯えることもなく龍堂の邸の門へと飛び込んだ紅波の背中を追いかけて城山も邸の中に飛び込んだ。


 一度来たことのある邸ではあったが、今は逃げまどう者や燃えさかる邸の様子に呆然とするしかなかったが、紅波は迷い無く奥へ奥へと庭を駆ける。


「待て! 止まれ暁の!」


 だがゴウゴウと燃える火の轟音と熱気に阻まれて城山の声は届かない。何か目的を持っているかのように紅波は走る。


 あまりにもの熱さに怯んだ城山を置き去りにして紅波の背はそのまま奥へと消えてしまった。



**



 高時の背後にまで火は迫っている。

 とてつもなく熱い熱波が背中から襲う。

 激しい音は己の邸が崩れる音。


 だがじっと立ちふさがるように高時は義信と対峙したまま身動きもしないでひたと睨み付ける。

 刀を手渡した章時はただおろおろと高時の側で背後の火と目前の義信を気にしている。


「高時様、早くその刀で私をお斬りになられないのですか? 早くなさらねば私があなたを斬りますよ」

 不敵な笑みを浮かべて高時に刃の切っ先を向ける義信に、高時は奥歯を噛み締めた。


 幼い頃から仕えてきてくれた信頼していた家臣。

 いつでも自分を立ててくれて、不在の時には代わりに全てを任せていていられる股肱ここうの家臣。

 その義時が笑みを浮かべて自分を裏切るその姿に怒りで震えてしまう。

 奥歯を噛み締めていないと罵声を浴びせてしまいそうになる。


 高時が鞘を抜き放ちその鞘を投げ捨てた。


 慌てて章時が鞘を拾い上げた時、その脇を風が駆け抜けた。

 いや、凄い速さで駆け抜けた男の起こした風だ。


 刀を振り上げた高時の腕を背後からその男が掴んだ。

 振り返った高時は自分の腕を掴んで立つ男に目を見開く。


 長い前髪の間から切れ長の瞳がこちらを見ながらゆっくりと首を振った。

「斬るな。斬れば後悔するぞ」

 絶句して力の緩んだ高時の腕をぐいっと引っ張ると、男はそのまま足元に膝を付いている章時に高時を乱雑に投げつけた。

「っぐうーーっ!」

 乱暴に振り飛ばされて章時とぶつかり声を上げたが、動きの乱暴さに反してそれほどの力は出ていなかったのか、章時の方にもそれほどの衝撃は無かった。

 章時が高時をしっかりと抱え込んだのを見て男が叫んだ。

「早くそいつを安全な所へ連れて行け!」

「えっ?」

 高時の肩を支えたままで驚く章時は、どうするべきか迷って動き出せずにいるようだ。


 今、高時は義信と決着をつけようとしている。

 ここで引き下がるのを望んではいない。

 だが火の手はもうすぐそこまで迫っている。安全を考えれば今すぐに高時をこの場から立ち退かせるのが最善だ。

 そう迷う章時の心があけすけに見て取れる。


 また男が叫ぶ。

「優先するのは主の命だろう! 迷うな! 引き摺ってでもここから離れろ。城山、お前も一緒にそいつをどこかに運べ!」

 ようやくその場に到着した城山の姿をちらりと見遣った男は指示を飛ばした。

「暁のっ! おまえ――」

 不躾な指示に眉を跳ね上げ口を開きかけた城山の言葉を遮る。


 高時と義信の間に割って入り、高時の刀を止めたのはかぶいた姿の暁の紅波だったのだ。


「文句ならば後で聞いてやる。今はこいつの安全を優先させろ! それとお前の部下を集めて火を消し止めろ」


 瞬時迷った城山だが、紅波の言うことはもっともだと納得したのだろう。

 何か喚いている高時を引き摺るようにして章時と二人がかりで火の迫る邸から池のある庭まで連れて行く。

 その後ろ姿を見送ってから、紅波は渡り廊下に足を進めて、刀を構えたままの義信と対峙した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ