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反抗


 高時の部屋ではちょうど章時あきときが向かい合って話をしているところであった。

 義信が断りを入れて入ると、振り返った章時が微妙な表情を浮かべていた。

「高時様に折り入って話がございます」

 きっちりと座って礼としてから言い放った言葉はいつもより凜としている。それでは私は、と立ちかけた章時を制したのは高時であった。

「良い章時。おぬしは同席せよ。良いな義信」

「……はっ」

 瞬時迷ったが、章時は以前から義信が姫を慕っていたことも知っていたし、こうして姫と想い合っていることも知っている唯一なのだから、今更拒むこともない。


「それで話とは何だ?」

 上座に座る高時がゆっくりと足を組み替えて片膝を立てた。

 章時は脇に控えて静かに座る。

 いつでも目立つことのない章時であるが、常に高時の身の回りには隅々まで気を遣い、邸内のことは全て取り仕切っている縁の下の力持ちである。

 ここにその章時がいるのは逆に心強いことだと義信は気持ちを切り替えた。

「……話とは中国の盛との和議のことにございます」

 切り出した言葉に高時はただ黙って鋭い視線を寄越しただけだった。

 うんともほうとも何も言わないのは気になったが、それでも義信は迷い無く続けた。

「和議の中で質を送るとのことですが、どうかその件の再考をお願いしたく参りました」

「その事はもう話がついている。佐和を盛一成に嫁がせる。それ以上もそれ以下もない」

 とりつく島もなく言下に一蹴される。それでも食らいついた。

「それは重々承知しております。ですがやはり姫はまだ御歳おんとし十七、かような歳の離れた者との縁組みは姫にとって思いも掛けぬ不幸でありましょう。どうか妹御を大事に思われるのであれば、なにとぞご再考を」

「ならぬ!」

 言い募る義信を斬り捨てる勢いで遮った。

「ならぬぞ義信! 今は何より和議を結ぶが大事なのだ。そんな事も分からぬお前ではないだろう」

「それは……しかし、しかしながら最初は越後の金杉かなすぎへ、次は盛へなどと、高時様は佐和姫を単なる道具としてしか見られておられませぬ! それでは姫があまりにも憐れではありませぬか。姫とて生きておられて思いも持っておられます!」

「はんっ、思いだと? その想う相手がおぬしだと、そう言いたいのであろう」

 馬鹿にしたように鼻で笑う高時が驚く義信を見下ろす。


 なぜ高時が義信と姫とのことを知っているのか分からず、絶句したまま呆けたように高時の顔を見続ける。

「先程、章時から聞いた。二人は想い合う仲なのだから佐和を盛に送るのは考え直せとな。ちょうどその話をしている時にお前が来たのだ」

 章時が息を飲んで目を閉じた。

 相変わらず見下したような目をしたままで高時が肩を揺らす。

「くくく、道具か。それは良い例えだな。この世では誰もが誰かの道具なのだ。それを受け入れるしかあるまい。なあ義信。お前だとて俺の道具だ。そして俺も時代の道具にしかならぬ。帝も道具だ。誰だって己の力で生きていると思っているだろうが、所詮は何かの思惑おもわくに動かされているのだ。それならばいっそ道具として最大限に出来ることをして生きるが、人生を全うさせることになるとは思わぬか? 此度の姫の事、撤回はせぬ。受け入れろ義信。決まった事に抗えば苦しむだけだぞ」

 最後は諭すかの如き穏やかな口調だった。

 苦しげに俯いた義信が、それでも抵抗を試みる。

 小さく呻くように呟いた言葉を聞きとめた高時の眉が跳ねた。


「今何と申した! 再度申してみよ、義信!」


 突如激高した高時に、それでもぎりりと睨み上げた強い眼差しで義信は再度言い放った。


「何度でも申し上げましょう! 決まった事に抗っているのは高時様の方ではございませぬか! 今更己から去った朔夜を探すなど、受け入れられずにいるのはあなたではないですか!」

「お……おまえ!」

「朔夜はここを見限ったのです! それをいつまでも引きずっておいでなのは見苦しきことではありませんか!」


 言い切った途端、高時の拳が義信の頬に飛んだ。


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