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翌日、高時は興味深い話を聞いた。
それは城山からもたらされた話である。
わざわざ高時の邸に来てその話をする城山に、義信は胡散臭げに睨み付けていたが、横に控える章時はじっと彼の話に聞き入っていた。
――輝道様には双子の弟がおられ、今は行方不明になっているそうです。
城山はそう切り出した。
「輝道様に似た知人をご存知だとおっしゃられていたので、何か関係があるかも知れないと思いお伝えに来ました。そのお方は今はどちらに?」
多分、その人を訪ねてあわよくば摂政家に取り入りたいとの思惑があるのだろう。
心の中で義時はそう考えながら聞いていたが、高時はその話題にいたく興味を引かれたようだった。
「その話、もっと詳しく聞かせてくれ」
「はい。あれは十二年前ですか。当時はかなり騒ぎになった事件で、わが父もかなり遠方まで探しに狩り出されたものでした」
詳しい話は多分、父親にでも聞いてきたのだろう。
十二年前と言えば城山もまだ十歳を少し越えたところだ、いくら騒がれた事件といえどもそう詳しくは覚えてはいないだろう。
詳しい話はこうだ。
当時、北山の摂政家の山荘に双子と、当時はまだ一の宮と呼ばれて皇太子にもなっていない現在の帝が滞在していた。
ところがある日、その邸で昼寝をしていた摂政の双子の弟が攫われた。
賊に気付いた乳母が助けを求めようとしたところ、その乳母は無惨にも斬り殺されてしまった。
幸い輝道と帝は誰にも内緒で二人でこっそり抜け出して遊びに出かけており難を免れた。だがその後どんなに探してもその双子の弟の行方は杳として知れないままだった。
母である北の方はすっかり寝込んでしまい、その二年後に身罷り、摂政もかなりの間、出仕もかなわない状態であった。
ただ一人わずか六歳の輝道だけが気丈に振る舞っていて、皆の涙を誘ったとか。
特に金を要求することもなく、また何一つ痕跡もないままで、結局足取りは掴めぬまま十二年の月日だけが流れた。
「当時一の宮であられた帝もいたく気落ちされ、暫くは食事も喉を通らぬ有様で、それを懸命に支えたのが輝道様でございました。あの頃の父の苦労を目の当たりにしておりました。それ故、私はその輝道様に似たお方を、僅かの可能性でもいいのです。少しでも輝道様や摂政様に心安くなっていただくためにも捜したいと思っております。ぜひご助力をお願い致したい」
城山の話が進むにつれて高時の表情が険しくなる。
やがてじっと目を閉じて眠っているかのように身じろぎ一つしなくなってしまった。
「龍堂殿? いかがなされましたか?」
黙りこくってしまった高時に不審そうな顔で城山が尋ねたが、まだじっと目を閉じている。
章時には高時の考えている事が手に取るように分かった。
(朔夜を……)
きっと朔夜の事を考えているはずだ。
内大臣の輝道が驚くほど朔夜に似ていたと聞き及んでいたから、章時も双子の話を聞いた時から朔夜を想像してしまっていたから。
「城山隼人、済まないが俺の知っている者も今は行方知れずだ。俺は内大臣からもっと詳しい話を聞きたい。それを聞いてから探すかどうかを決める」
「――は。では良いご返事をお待ちしておきましょう」
一瞬不服そうに眉を僅かに跳ね上げたが、すぐに冷静な表情を作りその感情を隠した。
義信はそんな城山の僅かな表情も逃さない。
もしこれが解決すれば摂政家はもちろん、帝にも恩が売れるだろう。
その恩恵は計り知れない。
院のお気に入りであるが、更に帝にも気に入られたならば怖いものなしだ。きっと城山はそれを狙っているのだ。
平伏している城山の背に厳しい視線を送った。