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たそがれ時


 薄闇に包まれる時分を人は「かれは?」と問いかける事から「たそがれ」時と呼ぶ。

 別の呼び方では逢魔おうまが時とも呼び、あやかしなどに会いやすい時間と言われている。


 摂政邸を辞した高時と義信が馬で歩いていると、前から来た男が睨むようにしながら立ち止まった。

「またお会いするとは、ほとほと縁があるようですね」

 部下三人を引き連れた城山であった。


 会うのは辻斬りが続いていた時、その刀が妖刀霧雨ではないかと思った高時が自ら探しに出た日以来だが、あれから半月近く経っていた。

「あれからまだあの権宮司ごんぐうじと刀は行方知れずか?」

 馬上から問いかける高時に少し不快そうな表情をした城山だが、諦めたように息を吐いた。

「権宮司の方は十日前に河原で首を切って死んでいるのが見つかりましたが、お気になさっていた刀の方は未だに分からずじまいです。多分物取りが盗んだのではないかと思われます」

「あれから騒動の噂を聞かぬが?」

「はい。暫くは鎮まっておりましたが……昨日、また」

「男が死んで刀が行方不明。また始まった騒動……か」

 口の中で小さく呟き、それから高時が思い出したように城山に視線を戻す。

「お前ならば知っているか? 摂政の息子の事を」

「摂政殿のご子息とは、内大臣になられた輝道てるみち様のことですか?」

「ああそうだ。どのようなお方だ?」

「なにゆえそのような事を?」

「少し……知った者に余りにも似ていたので気になったのだ」

 答えるべきか迷ったようだが、じっと見下ろす高時の視線に負けたのか、ぼそりぼそりと話し出す。

「大変賢く美しいお方とお聞きしています。幼き頃から綺羅星きらぼしの如くと噂されておられるお方ですが、それが何か?」

「幼少より、か」

「はい。何度か御所で遠目にお見かけした事はございますが、お若いのに落ち着きのあるまれなる資質をお持ちのお方ではないかと、私は思っておりますが」


 皮肉やの城山がそう言うのだ。かなり高い評価を得ている男なのだろう。

「そうか。分かった」

「それよりも龍堂殿、またぞろ危ない目に会うやも知れませぬ。お早く邸に戻られるがよろしいでしょう。小姓のお方のお怪我をされたことですし、おとなしく籠もっておられるが身のためでございます」

 後ろで控えていた部下の顔が強ばる。


 城山は厳しい上司ではあるが無茶を強要するような男ではない。若いが男気のある城山を好ましく思っている部下達は、大大名の龍堂高時に刃向かう城山をどう止めるかハラハラした。


「そう言えばお前はあの時、章時を危ない目に遭わせたんだな。その埋め合わせはそのうちしてもらおう」

 意地悪そうな笑みを少し浮かべ、それから思い出したように義信を振り返ると馬の首を返した。

「義信、ちょっと付き合え」

 ではまたな、と城山へと軽く告げると二人は邸とは反対方向の薄闇の中へと去って行ってしまった。


 軽く唇を噛み締めて城山は敗北感を味わっていた。


 どんなに嫌味を言おうが目の敵にしようが高時の目に自分は映ってはいない。つまり大して相手になどされていないのだ。

 武芸では負けぬ自身もあったが、それも互角であろう。しかし何よりその存在感の強さは誰よりも群を抜いていて城山は何とかあの目をこちらに向けてやりたいと思ってしまう。


(嫉妬か? 妬みか? それとも……憧れか?)


「……バカな」

 浮かんでくる益体やくたいもない考えを振りほどくと、いくぞ、と部下に命じた。


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