重なる姿
「朔夜! やはり朔夜だったんだな! 以前、ちらりと見たのもやはりお前だったのだな!」
突如立ち上がるなり輝道の両腕をガッシリと握りしめる。余りにも強い力に輝道は驚いて呻き、それから問いかけた。
「何を……おっしゃっているのだ?」
怪訝そうな輝道の顔をじっと見つめてから、やがて手の力を抜いた。
脱力したのだ。
「……朔夜、では……ない?」
よくよく見れば少し違う。
目が違う。
人を射抜いて惹きつける獰猛な瞳ではない。強く美しい光を宿してはいるが、あの滾るような熱の籠もった獰猛さはなく、どこまでも怜悧で冷ややかだ。
うっすらと口角をあげる唇は上品そうに色付いているが人を見下すことに慣れているようで、いつもきりりと引き結び強い言葉を投げかける朔夜のそれとは違っている。
背も朔夜よりは高い。
立ち居振る舞いに何一つ粗野さはなく、生まれながらの気品が漂う。
色白の冷ややかな顔は朔夜とは全く違った印象を与える。
だが――あまりにも似ている。
自分は幻覚を見ているのだろうか。どこか年格好の似ているこの男に幻想を重ねてしまっているのだろうか。
高時は立ち竦んだまま暫く絶句していたが、義信がすぐに深く頭を下げて平伏する。
「申し訳ございません! あまりにも知人に似ておりましたので失礼仕りました」
その言葉を聞いた輝道は、事情を察したのか目を少し細めてふん、と鼻を鳴らした。
「武張ったお方のお知り合いに間違われるとは私も粗野なのでしょうか。嘆かわしいことだ」
わざとらしく手にした扇を半分開くと口元を隠して視線を庭へと流す。
「はっ、失礼いたしました」
二人のやり取りを聞きながら、高時は力が抜けてドスンと膝をつく。
庭の方へと目を向けていた輝道が振り返って高時の魂の抜けた顔をちらと見て、それから向き直り二人を見下ろした。
「……そんなに、私に似ているのですか?」
「いえ……。よく見れば違って――」
言いかけた義信を押しとどめるように、扇をスッと差し伸べて高時にもう一度尋ねた。
「似ていたからこそ驚かれたのでしょう? 龍堂殿」
ゆるりと顔を上げて真っ直ぐに輝道を見る高時の目が、強い意志を宿しそこに光を生む。
「……はい。顔立ちがとても。雰囲気は違いますが顔立ちはよう似ておられる」
しばし輝道が絶句した。
高時はまるで輝道の奥にある別の何かを引き摺り出そうとでもしているように真っ直ぐ見つめてくる。
その瞳に気圧されたように輝道が息を飲み告げた。
「……その知人に会えませぬか? 連れて来てはくれませぬか?」
「無理です」
即答した高時に、訝しげに目を眇める。
慌てて義信が言葉を足す。
「今は行方知れずでして……どこにいるのか分からないのです」
「そう……ですか。残念です」
なぜか緊迫した空気が流れたが、そこに摂政が戻って来て空気を変えた。
「手間取りまして申し訳ありませんな。ささやかですが酒を用意しております。どうぞゆるりとして下さい」
礼をしながらも高時の目は輝道を見続けていた。