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闇の中の紅



 ガチン――!



 城山に届く寸前で、狂った刃は受け止められた。


 ハッとして顔を上げると、顔のすぐ真上で高時の剣が刃を押しとどめていた。

 だがそれを持つのは高時ではない。高時は腕から血を流し突き飛ばされて呻きを上げている章時の側だ。


「あ、暁の……!」


 赤い帯を揺らしながら暁の紅波が刃を弾き飛ばした。

「ぼさっとしてないで刀を拾え!」

 紅波の声に弾かれて取り落としていた刀を拾う。その間にも紅波と狂人との凄まじい応酬が繰り広げられる。


 ガツ、キン、カン――


 互いに信じられない速さでしのぎを削り合う。

 そのうち我慢が切れたように紅波が声を上げた。

「いい加減にしろ!」

 少し掠れたその声に、狂人がビクリと肩を震わせて、なぜか怯えたようにブルブルと震え始める。

 しばらく互いに肩で息をして睨み合っていたが、急に男は踵を返すと脱兎の如く闇の中へと駆け出してしまった。

「待て!」

 紅波が高時の剣を投げ捨て追いかけて駆けだしたのを、城山も追いかける。だが少し先の辻を曲がった所ですでに男の姿はもうどこにも見当たらなかった。


「おい、暁の。あの狂った男は何だ?」

 見失って立ち止まった紅波に城山は冷たい口調で問いただす。

「知らない。俺に聞く意味が分からないが」

「お前の一言であの男は震えて逃げ出した。お前が糸を引いているんじゃないのか?」

「また言いがかりか?」

「シラを切るな」

「ここを通ったのも偶然だ。いい加減絡むのはやめろ」

 呆れたような息を吐く紅波の軽く乱れた髪は、闇の仄かな月明かりの中で見てもゾクリとさせるような艶があった。

 それに苛立たしさを感じて、思わず口調がきつくなる。

「牢に入れて拷問にかけてやろうか?」

 遅れて駆けつけてくる高時の姿が見えた。それをちらりと見遣った紅波が射抜く様な強い瞳で城山を真っ直ぐに見返した。

「証拠も無いのに町の民を捕まえて拷問とは、いかにも犬のしそうなことだ。だが俺は犬には従わないし屈しもしない」


 余りにも強い瞳に息を呑んだ。


 それだけ言うと背を向けて歩き出す。

 うなじの紅の紐と帯が闇の中で揺れてまるで鬼火のようだった。


 ――あれは、あんなに獰猛な目をする男だったのか……?


 心の芯がぞわりと震えるような瞳だった。今まで見たこともない意志の灯った紅波の瞳に知らず肌が粟立っていた。


「あの男は何者だ?」

 追いついた高時が、立ち竦んでいる城山に肩を並べて去りゆく男の背中を見ている。


「……暁の紅波です」

「あれが、か」


 ぶらりぶらりと歩く後ろ姿だけでも艶やかさが伝わる。

 細身でスラリとした身に緩く着崩した着物、少し乱れた柔らかそうな髪に巻き付く緋色の紐が色気を感じさせる。

 だが尋常なく腕の立つ男だ。

 暗くて良くは見えなかったが……。


 高時は男を見送りながら、深く息を吸った。


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