1話
うちのクラスは同じ学年の他のクラスと比べると、何と言うか・・・キャラが濃い。
誰もが憧れる生徒会長様(しかも美形)や、数学オリンピックの覇者であり夏の小論文の課題では何十万もの賞金を荒稼ぎする才女。はたまた、中学時代は学校を服従させ、背中には病院送りにした人の数だけ髑髏の刺青が彫ってあると噂のミステリアスヤンキー・・・などなど数えあげたらキリがない。
でも、数人ほどキャラがあまりないという人もいる。ちなみに私はこの部類だ。あまりにもキャラがないせいでむしろクラスで浮いてしまうというのが全然納得出来ないけど!
そんな状況のため、私達地味ーズは結構仲良くやっている。
そして私達にはある共通した目的がある。そう、それはこの高校2年生を安全で快適に過ごすことだ。高校2年生ともなると体育大会、文化祭、修学旅行と目的達成のための障害物はいくらでもある。
だがしかし!最も厄介な障害物はそういう行事ではない、もっと身近でなおかつ日常生活に関わる・・・席替えだ。
なのに…なのにっ…!
ちらりと右隣を見ると、頬杖をつきながらくじ引きのくじを暇そうにいじくっている黒髪の少年がいた。
彼こそが中学時代は学校一の不良だったらしい小田一馬なのである。窓側の一番後ろという絶好の席を勝ち取ったと喜びを噛み締めたのもつかの間だった。
周りを見ると、席の移動がほぼ終わったようで、私と同じ仲間達の席を確認すると仲間同士で隣り合う人がほとんどで余計にダメージを受けた。
な…何で私だけと思わず頭を抱えたくなる。
いやっ、まだ諦めるな園田結子!この2学期はずっとこの席で過ごさなきゃいけないんだ。
何事も第一印象が肝心、とりあえず顰蹙を買わないように挨拶でもしよう、うん。
「…や、やあ小田君。隣になるのは初めてだよね…は、は
どっ、どうぞよろしく」
「………」
小田君は一瞬くじをいじくるのをやめたが、こちらを睨んだ後またすぐにくじをいじくり始めた。
に、睨まれた…!駄目だ、第一印象最悪だ…。
アレか、俺様がくじをいじくっているときに話しかけてんじゃねーよテメェってことだったのか。
やっちまったよこれ。どうにもならんよこれ。
これ以上下手にコミュニケーションをとろうとするのはやめよう。多分もっと状態が悪化する。
そう心に固く誓った矢先のことだった。
「…では、文化祭実行委員は小田君と園田さんの二人に決定します」
だから、何でっ!こうなるんだ!
学級委員の言葉にぱちぱちと拍手をするクラスメイトはさも他人事といった様子である。学級委員は学級委員で委員会決めがさくさく終わって嬉しそうだ。ちなみにうちの学級委員はイケメン生徒会長様が務めることになり、余計皆が委員会決めに積極的になった。
そのおかげで最初の段階で次々に委員会のメンバーが決まり優柔不断な者だけが残ってしまったという訳だ。
小田君の場合はもともと参加する気はなさそうだったけど…。
学級委員のイケメン生徒会長様の提案で余りの人はくじ引きで委員会を決めることになったが、その結果がこうだ。よりによって何で一番忙しい文化祭実行委員なんかになるんだろう…。
「ははっ、園田さん嫌そうな顔しているねー」
「嫌そうじゃなくて嫌なんだよ楢崎君よ…。他の人と委員を交換するってのは」
「出来ないよ」
例え出来たとしても、わざわざかわってくれる人もいないと思うけどね。とイケメン生徒会長兼学級委員長こと、楢崎中がからかうように言う。
「ですよねー。でも文化祭実行委員って大変らしいし。私には荷が重いよはぁ」
「まあ、大変なのはしょうがないよ。何かあったらいつでも言ってよ。できるだけ力になれるよう努力するからさ」
「かっ、会長…!!」
その呼び方はここでは止めてよ、とはにかむ楢崎君はやはりイケメンだった。外見も内面も整っていて更に生徒会長とかどこの少女漫画から出てきたんだろう楢崎君は。
「あ、ちなみに今日の放課後はさっそく文化祭実行委員の集まりがあるから行ってきてね。時間厳守だよ」
「ええっ、今日はクレープを食べに行く約束がっ」
「17:30から始まるから。時間厳守だよ」
シカトですか楢崎君よ。2回も時間厳守って言ったよこの人。はぁ、でも最初の集まりをサボるのって印象悪いよなあああ本当はサボりたいけど行くしかないか。ああ私のバナナチョコクレープが…。
委員会決めや、授業も終わり早いことに放課後になった。そして今まさに大問題に直面しているのである。
「小田君が…いない」
あの後楢崎君が小田君にも委員会のことを知らせたらしいから、知らないなんてことはないだろう。
だが隣の小田君の席を確認しても本人はおろか、かけてあった鞄さえもない。これはもう間違いない、サボりだ。
私はバナナチョコクレープを諦めたっていうのにっ!
だが、よくよく考えると中学時代にやんちゃしてたようなヤンキーが大人しく委員会に出るかと言ったら答えはおそらくノーである。
何かもう少しでも印象悪くしないようにしようと思っていたけど小田君にとって私はもはや空気に近い存在なんじゃなかろうか…。それはそれでありがたいような虚しいような。
いやいやいやヤンキーだろうと何だろうと関係ない!!委員会はサボる方が悪いんだから明日会ったときは嫌味の一つや二つかましてやらないとっ。
かましてっ…やれないですやっぱりすみません調子こきました大人しく委員会に行ってきます。
結局とぼとぼ一人で委員会に出たけども、文化祭実行委員長と副委員長を決めるだけの集まりで数分で終了した。
それだったら友達に断らずちょっとの間待ってもらえばよかったといじけてうだうだ学校に残ってしまったのが、こんなことになろうとはこの時は微塵も思っていなかった。