消えた青年の話 02
成人式を迎えた時には、すでに二〇歳の誕生日は過ぎていた。
彼も一応大人なのだし……ということらしかった。
「では、急に家出しそうにはみえたんですね」
「はあ……」
少し、くすぐったそうな顔、それとも泣きたいのか?
「こんな所は出てってやる、とはよく言ってましたが、まさかねえ、あのまんま」
そのまま黙ってしまった。
明日まず一番先に訪ねる先が決まった。大倉ケンジの家だ。
その前に、もう少し聞いておかないと。
「ところで、美世さんはケンジ君とおつき合いされてたんですよね」
「ガキどうしイチャイチャしとっただけですわ」
「お嬢さんにも黙って、出て行かれたんですか」
「聞いちょらんようでした、最初はかなりムッとしてましたけん」
佐伯は面白くもなさそうな顔でまた、湯飲みをとりあげ、お茶がなくなっているのに気づき、そばにあった急須からまた、なみなみと注いだ。
「まあ、ミヨはどうせ嫁にやる子ですけんね」
サンライズがふとボビーの方をみると、覚えたばかりらしい漢字で『人身売買』とメモっていた。書き順無視の、創作的な文字。
それが相手に見えないように祈りつつ、サンライズは聞いた。
「そうすると、お休みの日にはよく出かけてらっしゃったんですか? 二人で」
「そうそう、アイツは車道楽でね、黒い何とかいう車でよくうちのと出かけとりました。軽井沢とか、清里、松本とか」
「ケンジくん、車はどうしたんですか? 家出の時は」
もちろん、乗っていったのだろう。
しかし意外にも、佐伯の返事は「いんや」。
車は置き去りだったという。
「成人式の会場にね」
リーダー、急に背筋を起こす。本能的な違和感を覚えた。
「どうしてそんな所に置いて行ったんでしょうか。そのままいなくなったんですか?」
「いや、ここじゃあ式の後、仲間うちで集まって一杯やりますからねえ……飲めない子も一応、ジュースで参加するんだけん。ケンジも飲み会に出てからいったん夜にはタクシーで帰ってきたらしいですわ。見えんくなったのは次の日、母親が言うには、車を取りに行くっちゅうて電車に乗って出かけたきりですけん」
「電車?」
電鉄の駅は、集落からはどんなに近い場所でも歩いて三十分はかかるだろう。
「成人式の会場に向かった、というと、電車で上田駅まで行ったんですかね」
「どうでしょうな、多分」
湯飲み茶わんを手にしたまま彼が聞いてきた。
「おいだ……アンタがたは、調べ物に来なすったんでしょう、その」
「はい」
「本気で信じとるのかね」
「いや、」
相手の顔をみると、さりげなさを装いつつもかなり真剣だ。