消えた青年の話 01
佐伯家では、丸顔のオヤジが出迎えてくれた。地区長には内緒で、東京からあらかじめ直接に電話を入れておいたので突然の訪問は予想はしていたはずだが、現れた顔ぶれにかなり驚いたらしく
「おいだれ……」と声をかけたきり、しばらく口をあんぐり開けたままだった。意味は分からなかったが、とりあえず中には入れてもらえた。
客間に通されてしばらくすると、これまた丸顔の奥さんがお茶を運んできてくれた。
彼女も、二人の顔をまじまじと見比べている。
彼は手を振って、邪険に女房を追い払った。
「すいません」
佐伯次郎は、すっかり恐縮して暑くもないのに汗を拭きまくっている。
サンライズは、にこやかに待ちながら、彼を一通り観察した。
前回の調査で、『要観察b』と判定されていた男だった。
Aが、最も予知能力者の可能性が高い者、その下に、a、B、b、Cと続く。Cは全く可能性が考えられない者。
つまり、この佐伯次郎は、ほんのわずかにではあるが『先見』ができるかもしれない人間ということになる。見た感じでは、全然そんな様子はなかった。
「確かにね……」ようやく佐伯は落ち着いたらしく、自分の湯飲みをとった。
「そんなことするなぁ、うちの美世かも知れませんわ。ああ、どうぞどうぞ」
客にも茶を勧めながら、ずずっと一口すする。
「ケンジのことで、どこかに電話したとは言いました。後になってからですが」
「お宅のお嬢さん、ですよね。今は?」
「美世ですか? 学校へ行っとります」
オヤジは、のどにからまるような咳をした。
「……ケンジのことでしょうから、私ぁ、あんな小僧、田舎がイヤで家出して東京にでも出たのじゃあないか、と言うとったんですわ」
「ケンジくんのお家の方は」
「大倉の? いや、一応騒いどりましたが、やっぱし、家出だろう、と」
「警察には」
「家の恥になるで、言わんでくれと」