束の間旅気分 02
まず鳴木の地区長宅を表敬訪問する。
調査の件はすでに連絡済みなので、大きな問題はなかった。
髭面で目がぎょろりとした白髪の地区長は、
『日本リサーチセンター 東日本支部技術部調査チーム主任 青木一晴』の名刺を見て、かつて来たドミンゴ・リーダーの事を思い出したらしく
「ああ……ソネザキさん、てなあ。リサーチなんとかだったね」
彼を思い出したのか懐かしげな目を天井に向けていた。
「なんぞ、テスト持ってやくやく東京からいらしたわい、ありょうまたやるだわいね?」
また無駄なことを、というのはひしひしと感じられたが、それでもそれなりに地区長は真面目に対応しようと思ったらしい、明日から聴き取りの調査員が各戸を訪問する旨、鳴木の上下全戸に伝えておく、と言ってくれた。
とりあえず、明日からすぐ仕事はできそうだ、とサンライズが言うと、ボビーがかっちりした背広のまま、今日は疲れました、リーダー、と至極真面目に文句をたれた。
「あとは帰って、ご飯食べて明日の準備しましょう」
「え? まだ三時前だよ」
空が全体しらじらと光っているせいか、時間の観念がなくなりそうだった。
「もう一件だけ、回っていこう」
気がついたらシヴァは消えていた。まあ、シゴトではないのでどこに行っても構わないのだが、相変わらずマイペースなヤツだ。
「逃げたのね」
憎々しげに吐き捨てるボビーに構わず、次の訪問先へ。
電話をくれたらしい家を、先に訪ねることにした。
ボビーは悲鳴をあげた。
「ワタクシ、もうこれ以上オヤジの変装はムリですわ」
「我慢しろよ、ここから近いから」
と、そこへ
「おじさん」
道端で、合体ロボらしきかたまりを引きずって遊んでいた子が急に声をかけてきた。
五、六歳だろうか。
まじまじと、サンライズを見ている。
「どうした?」
彼は、少年の傍らにしゃがみこんだ。
なおも、少年は真剣な顔で彼を見ている。
彼はしばらく待ってみたが、ついに聞いてみた。
「おじさんのこと、知ってるの?」
「ううん」
少年は真面目な顔のまま、オヤジみたいな口ぶりで答えた。
「ごめん、きにしないで。ちょっとみえたようなかんじがしただけ」
何が見えた? と聞かないことにして、サンライズはボビーをうながし、先を急いだ。
来るんじゃなかった、という気も少しあったかもしれない。