南の事情 02
「おじさんも、泊まっていってくれる?」
と弱々しく聞くので、とりあえず落ち着くまでは、としばらくケンジと一緒に部屋にいた。
南は少しでもケンジの気を紛らわせようと、何かと他愛ない話をしてみせた。
「お前、泊まりに来た時もよく夜中にトイレ~ってヨシアキを起こしてたよなあ」
「あれは3つか4つくらいの時だろ」
それでも、親しい人と一緒にいるということでケンジも少しずつ落ちついてきた様子だった。
かすかに笑顔も見せるようになった。
そんなこんなで和やかに話をしていた二人だったが、何かの話のついでに「アクシオと契約してみたらいいのに」
とふと漏らした南にケンジが激昂した。
「オレに、死ねっていうのかオジサン」
母親と自分の関係についても、鈍感なヨシアキと違って少しは詳しく察しているらしく、急にそのことも持ち出して激しく突っかかってきた。
「おふくろが言ってたぞ、アンタ、店の売上も遣いこんで、しかもサラ金まで借りてるって。金に困ってるんだろう、オレを売れば金になるしな、ジャマもいなくなるし」
もしかして、最初からそのつもりだったんじゃねえのか?
ケンジの目つきが急に変わった。
「ああ……だからオレにはヤツらの場所が見えたんだ、白い実験室、つながれている、まるでケダモノのように。オレは死んでしまう。アンタのせいなのか? そうなんだろ、おい、何か言えよ!」
掴まれ、揺すぶられているのに必死で抵抗していた南は、気づいたらケンジを見おろしていた。
どうしたんだ? 両手をみる。そして、彼の首を。
首には南の手形がくっきりと残っていた。
ケンジは、予見よりずっと早く、こと切れていた。
夜中まで待って、どうにかケンジをかついで下まで降ろし、裏口から車に乗せた。
それからなにくわぬ顔をしてフロントに回る。
先ほどの男がまだ立っていた。
「すまない、急用が出来て帰ることになった」
フロントは、少し不思議な顔をしたものの、一泊分の清算を済ませると
「お気をつけて」
と愛想よく声をかけてくれた。
その後は店に寄り、店先に出しっぱなしになっていた小さなブルーシートとロープ、スコップを掴み、ケンジの遺体と共に西に離れた山の中に向かう。
そして、ダムの近くに埋めたのだった。




