南の事情 01
―― ケンジを駅まで送って、車を運んでくれない?
切羽詰まった電話を晶子から受けて、大倉家の離れに駆けつけた時には、南はただ単にお人よしのオジでしかなかった。
ケンジが、河川沿いの道路で人を死なせてしまったかもしれない、と晶子から涙ながらに聞かされた時、まずいことに巻き込まれたと気づき、つい舌うちが出た。
「撥ねちまったのか?」
意外な話を聞いた。
最初にその男に会ったのは、成人式開始前、会場のロビーだったというのだ。
ケンジの『先見』の能力を詳しく調査して、力が十分なものであると判ったら、正式に企業契約をお願いしたい、とその場で相手が切り出したのだそうだ。
人目をはばかるような印象だったらしい。
一応、連絡先の名刺はもらったらしいが、それには東京での事務所の連絡先しか書かれていない。
しかし口頭で、彼らが実際は何者なのか聞いたのだそうだ。
企業の名は『アクシオ』、アメリカでは有名なコンサルティング会社なのだ、とその男はケンジに語っていた。
払われる契約金の額を聞いて、南は愕然とした。
初年でも年俸百万ドルだと? まるでメジャーリーガーだ。
「どうしてそんなヤツを川に突き落としたんだ」
責める南を、青い顔をしたままのケンジが化け物でもみるような目でみた。
「アイツら、悪いヤツらなんだよ、あそこに行ったら殺される」
特殊能力のあるニンゲンを実験動物並みに扱うのだ、と訴えるケンジは、垣間見えたという自分の未来にすっかり怯えきっていた。
「お願い、アンタ」
ケンジをこっそり、駅まで送ってやって。
後はこの子、あてがあるって言うし、しばらくここを離れていた方がいいわ。
帰りが困るから、と言って自分は乗ってきた軽で先を走り、渋るケンジにZを運転させた。
それぞれの車に乗る前に、どこか本当にあてがあるのか聞いてみた。
ケンジは目を真っ赤にしたまま、首を横に振った。
「とりあえず、今夜は駅前のホテルに入ろう」
いったん市民会館の駐車場にZを入れさせてから、軽でいっしょに駅まで戻り、ケンジを外に待たせたまま自分だけ東峰ホテルへと入った。
フロントには若い男がいた。
だいじょうぶ、新人だ。コイツはオレがモータースの人間だと知らないだろう、そう判断して自分だけ偽名でチェックインする。
以前ホテルの車を車検に持っていったことがあったので、裏口も判っていた。
部屋が決まると、南は裏からこっそりケンジを部屋に入れた。




