ケンちゃん 02
遺体安置所のロビーに彼らは互いに距離をおきながら、寒々しく立ち群れていた。
「不思議よね……」
ボビーはジャケットの襟を合わせて言う。
「ミヨちゃんはは確かに、ケンジくんが少し見えてきた、って言ってたわよね。喫茶店で」
「ああ……でも生きている、とは言わなかったけどな」
サンライズは、自ら立会いを希望した美世の横顔を遠くから眺めた。
美世の表情は、むしろ明るいともいえた。
彼女には、やはり見えていたのだろうか。
ケンジがあんな所にひとりで置き去りにされているのが、哀れになったのだろうか。
晶子はただ、泣き崩れるだけだった。
それでもテストは翌週金曜日の夜には行うことができた。
さすがに佐伯美世は姿を現さなかったし、大倉晶子とその兄も来なかった。
集落の連中はケンジの事件で大騒ぎだったが、地区長のひと睨みで、とりあえずその場は――その場だけは――静かになった。
仕事の都合で来られない人が他にも2名いたが、サンライズは構いません、と出席者全員に淡々と紙を配っていく。
ストーブのせいもあったが、サンライズはなぜ円高になると円の数値が下がっていくのか額に汗を浮かべながらホワイトボードの前で忍耐強く説明を繰り返していた。




