ケンちゃん 01
男たちが発砲した時、彼はとにかく身を伏せるしかなかった。
なんせ、警察と違って普段は武器を持っていない。シェイクをかけようとした瞬間、ケンジの母から横やりが入ったのだ。
あとは、とにかく一緒にいた警察が彼らをさっさと逮捕してくれるのを待つしかない。
10分もたたないうちに、事態はようやく収拾した。
男たちは抵抗をやめ、大勢の警官に身柄を拘束されていた。
晶子は、彼らの車に乗り込もうとして警官に制止されている。
「ケンちゃんが、ケンジがいるはずなんです、あの人達に聞いて下さい」
髪を振り乱し警官に食ってかかる姿は、家でみた時とはまるで別人だった。
南が脇を通りかかる時、そんな晶子の姿をみかけて立ち止まった。
かすかに笑っているのだろうか。
「二十歳過ぎてケンちゃんか……やっぱりオマエと暮らしても、アイツは幸せにはなれなかっただろうな、永遠にな」
彼らが去ってから、カシヤマ警部が走ってきた。
「アオキさん、だいじょうぶでしたか?」
「はい」
カシヤマはまだ、彼とボビーが警視庁から来た特捜員だと思い込んでいるらしい。
「サエキ・ミヨさんは無事に保護しました。眠らされていましたが、他は異常ありません」
「よかった、ありがとう」
「こちらこそ、ご協力感謝します」
彼は敬礼をして去っていった。
後日、ちゃんとMIROC本部を通して詫びを入れておかないと。
『力』を使ったことは話せないので、苦しい言い訳が必要になるだろうが。
また出張報告書を出した後、乃木にねちねちと文句を言われることになりそうだ。
彼は、大きく息を吐いてコートの枯れ草をはたき、ボビーの待つ車へと戻っていった。
捜査が入り、翌日のテストは延期となった。
ケンジは、南の供述通り山林に埋められているのが発見された。
上田市街から西に20キロほど入った場所だった。




