取引の一部始終 02
晶子がはっとしたように彼を見つめた。
「あれ、リサーチの人じゃ……」
南には見覚えのない男だった、両手を挙げたまま、まっすぐこちらに向かってくる。
「損はない取引だ、どちらか一人来てくれ」
運転席の男が動こうとしたのを制して、眉のない方が南の首根っこを押さえたまま、歩み寄る男のほうに一歩だけ踏み出した。
近づいて来る男は前に集中しているようだ。南を掴んでいる奴を見つめ、おもむろに口を開いた。が、一呼吸早く晶子が叫ぶ。
「アオキさん、ケンジがソイツらに捕まってるの、助けて!」
アオキと呼ばれた男はぎょっとしたように身をひいた。だが、南に銃を突きつけていた男も動揺したらしく、掴んでいた手が一瞬ゆるんだ。南は思い切りその男を車に突き飛ばす。
「助けてくれ」車の後方に向かって全速力で逃げ出す、が、こめかみに熱い風を感じ、倒れ伏した。撃たれる。両手で頭を抱え、できるだけ伏せる。男たちの叫び声が響き、乾いた銃声がいくつか聴こえ、奴らの一人が絶叫した。撃たれませんように、今はただ、わが身のみが可愛かった。
ばらばらと、数人の足音が近づいてきた。
「起きて、早く」ウールの制服を着た警察官が、彼を引き起こす。
「名前を言って、はい」「南、重樹」
「ミナミ・シゲキさん? サエキ・ミヨさんはどこにいるか判る?」
彼は力なくミラを指さした。
「じゃあ、ちょっと一緒に来てもらうね」
ドラマで見たような逮捕のシーンとは全然違う。
警官が脇で、彼に向って何かしゃべっていた。全ての言葉が意味不明だった。
しかし、両脇を支えられて歩きながら、漠然と感じていた。
自分にとっては、もうすべてが終わったのだ、と。




