息子を返して 02
11時半をまわった。南が車から降り、近くの自販機で何か買ってきた。
「まだ来ねえな。コーヒー飲むか?」
白い息に取り巻かれながら、車の外から声をかけた。晶子はのろのろと首をふった。
「要らない」
南はプルタブを引き上げ、ぐい、と一口あおってから「熱っくって、うめえなあ」ちょっと後ろを向いてあたりをうかがうようにきょろきょろしていたが、また晶子の方に缶を差し出した。
「あったまるぞ、飲め」
普段ならば、じゃあ、ともらう所だが、なぜか彼女の中で警報が鳴った。
「寒くないから要らない」
そう応えると南が急に缶を押しつけてきた。
「飲め」いつになく声が怖い。ここで怒らせても……と思いしぶしぶ受け取る。
南を見上げると、暗がりの中に目だけが光っていた。
缶を傾けようとした時、車のライトがぐるりと回りながらこちらに近づいてきたのが目に入った。
「来た!」南は明らかにあわてている。「早く飲んじまえ」彼女はぐいっとコーヒーを傾けた。何かの小さな固まりが舌先を滑る。何? ゴミが入ってた、イヤだわ。指に乗せたところ、それはほろりと指先で崩れた。暗くて何だかわからない。
南はすっかりこちらに向かってくる車に気を奪われている。
「全部飲んだか?」あちらを見たまま南が聞いて手を出したので「うん」と空になった缶を手渡した。
「オマエ、車の中で待ってろよ、動くなよ。オレが先に話を聞いて来る」
南はまっすぐ車に向かっていった。




