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汚い商談 02

 晶子を一旦家まで送り届けた後、南は店に取って返すと、残っていた従業員に愛想よく「今日はもう帰っていいぞ」と声をかけた。

 事務所のあたりに人がいなくなったのを確かめ、おもむろに、一本電話を入れる。

 相手が電話に出ると、彼はおさえた声で伝えた。

「ミヨを連れて行けそうだ」

 その後の相手の指示に何度かああ、と短く答え

「分かった、上田菅野インターの公園。今夜12時だったよな、分かった」

 確認して、電話を切った。


 暗い眼のまま、事務所の中を眺め渡す。今度こそ、失敗はできない。


 妻の持っていたハルシオンを、こっそりと数錠出してきた。薄紫の、可憐なスミレの花弁のような薬。妻は心療内科を内緒でかけ持ちしているので、このくらいの量が無くなったくらいでは気づかないだろう。最初は、晶子から美世に飲み物を勧めさせる時に使う。そして、ヤツらが来る前に、今度は晶子に使う。彼女がヤツらに会ったら、ケンジがいないのがすぐばれてしまう。絶対に、会わせることはできない。


 いっそのこと、眠っている間に晶子も始末してしまおうか。

 オレは金さえできれば、南の家からも解放される。


 水曜日に、思い切って電話をして良かった。

 その時のことを南は反すうする。


 以前ケンジから譲り受けた名刺をみて、ついにヤツらに連絡してみたのだった。電話は留守番録音のメッセージに変わった、彼はためらわずに、オオクラ・ケンジの知り合いだがいい話がある、と告げて電話を切った。

 翌日すぐ、彼らから連絡があった。彼は話せるところだけ話し、肝心な商談をもちかけた。

 サエキ・ミヨという少女、前回の判定Bの子が、実はかなり力があるらしい。ケンジはあの後すぐどっかに逃げちまったが、ミヨならオレのあっせんで連れていけそうだ、どうだ?

 相手はすぐ食いついてきた。南の経歴も昨日から調べたらしく、オマエも金が欲しいんだろう? お互いの利害が一致すれば何の問題もない、とあっさり言ってくれた。 

 連れ出せる準備が出来たらまた連絡をするように、と携帯の番号を教えてきた。

「時間と場所を指定する。金はすぐ払う。ドル立てで300万。口止め料込みだ、判っているな」

 もちろん、異存のあるはずもなかった。


 支度を始めた南、念のために、パスポートも出してきた。去年、取引先との親睦旅行で韓国にいくために作ったものだった。


 ようやく、自分にも明るい未来が見えてきたかもしれない。胸のつかえが急に軽くなったようだ、カバンに必要なものを詰めながら、彼は夜を待ち焦がれていた。

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