美世、トカイモノの実態に触れる
木曜、金曜とサンライズは一人黙々と戸別訪問を続け、シヴァはホテルと図書館とを行ったり来たりで更なる調査をすることになった。
そしてボビーは朝から『オヤジの扮装』でミヨちゃんを学校まで送る。
車もわざわざレンタカーでそれなりに見栄えの良いヤツを借りてきた。黒のゴルフⅢ。
―― オヤジにふさわしい落ち着きかも。
にこにこした彼女とは対照的にむっつりとしたままハンドルを持つ。
「じゃあまた、5時に」
コンビニの駐車場で彼女を降ろし、一応、学校の門を入るまで見送る。
ボビー、彼女が消えてから、大きくため息をつく。
彼女は校内にいるうちは安全だろう、それにしても……
サイドミラーに映る自らのスーツ姿をまじまじと見つめ、また、ため息。
少し空に目を移してから、急に表情を明るくした。
しばし喫茶店で時間を潰してから、彼は意気揚々とデパートへと向かう。
そして午後5時ぴったり。
コンビニの駐車場にたどり着いたミヨちゃん、黒のゴルフを見つけて駆け寄った。
「お待たせしました~」
あれ、誰も乗ってない、と思ってキョロキョロした時、後ろから
「ハイ」
キレイなオネエサンから声をかけられた。
「は、ハイ」
反射的に同じように手をあげながら考える。
―― うわ、どうしたのかしら彼女。道でも聞きにきたの?
「帰りましょ、ミヨちゃん」
美世の動揺におかまいなく、オネエサンが艶然と微笑んだ。
11月だというのにかなり薄めなエメラルドグリーンのパンツスーツ。
ダウンジャケットの白がまぶしい。
「え? あのお、ボビーさんは?」
「ああ彼?」
彼を知ってるの? というか、ええともしかして……きょうだいかしら?
「彼は今お休み、ワタシが送るから」
オネエサンがジャケットからキーを取りだした。
「はあ、ありがとうございます」
すごい、何だかお似合いな二人。でもこの人の方がずっと優しそうだな。
そう思いながらも美世、とりあえず車に乗る。
無事、我が家まで送り届けてもらう間も、美世はドキドキしっ放しだった。
翌日も、オネエサンがやってきた。
「ハイ」寒いわね、と車のドアを開けてくれる。
その脇に、白いバンがつけた。
美世にケーキをおごってくれたオジサマだった。
そのオジサマが呼んだ。
「ボビー」
オネエサンがくるっと振り向いた。
「あらリーダー」
おはよう、とミヨに声をかけてから彼、オネエサンに向かって
「シヴァから、通信機を変えるように渡された。今のを返してくれ」
そう言うと車から降り、彼女の胸に新しい機器を取りつけている。
「この方が小さいんだ」
「軽くていいけど、取れないかしら」
「あのぉ」
ミヨ、ごちゃごちゃになった頭の中を整理しようと目をくるくる動かし、彼に声をかける。
「この人は?」
ああ、彼はオネエサンをちら見して
「この人の方が、オニイサンより親切だろ?」
にやりとしてまた車に乗る。
「害はないから、許してやって。じゃあ行ってらっしゃい」
彼に向かって投げキッスをしたオネエサンをみていて、美世はようやく気づいた。
「うわー。都会モンって……こわ!」




